3話:ナカムラ、ヒーロー辞めるってよ……ってそこまでは言ってない!

数分後………


「……なんでこんな服にするかなぁ」


結局、私は千花の猛プッシュによりししゃもねこのTシャツを買うことになってしまった。

駅を出て、すぐ近くの広場のベンチに座ると、私は千花に無理やり着せられたTシャツを見る。


生地の肌触りはいいのだけど……本当にこのユルいデザインはなァ…………。



「おぉ、似合ってるじゃん!

なんていうか………年相応」


「年相応ってなに!?」


私こう見えてもこっちの世界で言う『ジョシコーセー』ってやつなんですけど!!

………まぁ、千花と比べたら私は子供っぽく見えるけどさ。



「…………まったく」


「えへへ…………」


しかし、そんな言葉を呑み込んだのは千花の笑顔を見てしまったから。


優しい笑顔。懐かしくて……暖かい。

昨日、あれからずっと考えてた。


なんでこの子のことがこんなに気になるのか、って。



やっと気づいた………この笑顔は……………。







「………えちゃん………」



───声が聞こえる。


私を呼ぶ優しい声。

人懐っこくて、甘えん坊な………“妹”の声。




「………お姉ちゃん」


………そうだ、私の……“妹”の声。


この子は………似てるんだ。


ヴェルザに………もう二度と会えない妹に。




「………ノゾミお姉ちゃん?もしもーし」


───気づかなきゃよかった。

こんな事なら、考えなきゃよかった。


壊れたものがもう二度と元の形に戻らないように……私の家族は……妹ももう二度と帰ってこない。

その手で抱き締めてあげることも出来ない。


もう、あの子はいないんだ……。



頭では分かってるんだ、そんなこと。






でも…………。









「ヴェルザ…………」







───千花の姿がヴェルザに重なって見える。


あぁ………また私は、罪を重ねるんだ。


彼女に亡くしたものの面影を重ねて、そのぬくもりに自らの身を委ねてしまう。


セッテも、勇騎さんも、輝くんも、将さんも、理緒も……みんなみんな孤独に耐えてるのに。



私は………私だけは、それに耐えられなかった。



奪った命も数えきれない程あるのに、今もこうして誰かに助けを求めている。





「大丈夫………アタシでいいんなら受け止める」


千花のぬくもりが私の小さな体を包む。

1月の寒空にさらされているというのに、千花に触れている所が汗ばむほどに熱く感じる。



──きっとこんな所をセッテが見たら荒れるんだろうな。


でも、もう離れられない。


セッテにも私の想いは分からない。


いくら親友だって言ってもあのセッテは“私”じゃない。
“私”にはなれない。


あの子に私の全てを理解することなんて出来やしない。



私はもっと醜くて情けない……ただの子供。


無責任な周囲から希望を押し付けられて粋がってただけの、ただの小娘。




………こんなことなら気づかなければよかった。


私は………もう疲れてたんだ。



希望の担い手も仮面ライダーも、なにもかも全てを捨てて……
ただ、誰かに甘えたかったんだ。



そして、今。

そんな醜い想いを受け止めてくれる相手が目の前にいる。





───私って、本当にバカ。





本当にこんなことなら…………………。
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