3話:ナカムラ、ヒーロー辞めるってよ……ってそこまでは言ってない!

───


「…………ごめん」


「いいっていいって!」


ノゾミお姉ちゃんが落ち着いた頃。


私とノゾミお姉ちゃんはBATTOLERへの帰路を歩いていた。

ノゾミお姉ちゃんを公園のトイレの個室に待たせると、アタシはノゾミお姉ちゃんの着替えを買いに行き、買った服にノゾミお姉ちゃんに着替えさせた。


幸い、トイレの方はセンサーで自動的に照明が着くようにはなっていたのでノゾミお姉ちゃんも混乱することはなかったようだ。



無論汚れた服は洗濯しなきゃだし、水洗いした後、着替えを買った時に余分に貰ってきたレジ袋を二重にしてその中に放りこんだ訳だけど、流石にノゾミお姉ちゃんの汚れた着替えを持って街をうろつくなんて出来ないし。



「…………ホントに、ごめん」


「ううん、謝るのはこっち」


ノゾミお姉ちゃんはアタシにしがみつき、ひとしきり泣いて目元が赤く腫れ上がっている。


なんか暗い顔をしてたから、元気づけたいと思って街に繰り出したんだけど……それが裏目に出てしまった。


事態がこんなに深刻だったなんて。



「私ね、こっちに来てから暗い所に行くとあんな風になっちゃうの。

最近は少し治ったかな……って思ってたけどやっぱりダメだった」


「………そっか」


『なんでそんな症状が出るようになったのか』、『錯乱したときに何が見えているのか』はやはり話してはくれない。


無理に話させる気もないけども、やはり症状の改善には特に前者は知る必要がある。

そうでなければアタシもどうすることも出来ない訳だが、そこは時間をかけてゆっくりやっていくしかないか。




「だったらアタシがノゾミお姉ちゃんの電球になる!」


「へ?」


「あ、あれ?違った?」


普段使われない頭をひねり、頑張ってノゾミお姉ちゃんにかける言葉を出すのだけども、ユーモアを入れすぎたせいか、どーもノゾミお姉ちゃんには伝わらなかった模様。



でも……そんなことはいいの。

暗闇の中に閉じ込められたのなら、アタシが闇を振り払う光になればいい。


どんなに強がっても人はすがるものが………“光”がなければ生きてはいけない。

辛く苦しい現実を、少しでもマシだと思わせてくれる可能性……希望が。



「いや、光と言っても電球以外にもいろいろあるじゃん?

………えーっと、LEDとか」


「いや、ノゾミお姉ちゃんのセンスもアタシとそこまで変わらないからね!?」


いつの間にか、どちらからともなくアタシたちは触れあった手を繋いでいた。


ひんやりとした手が私の手を包む。


少しだけアタシのことを受け入れてくれたのかな?


………そうだと嬉しいな。




「デートはまた今度ね」


「………うんっ!!」


BATTOLERの建物が見えてきた。


今日の昼間に初めてみたのだが、こんな喫茶店も珍しいと思う。

アパートの一室を改築し喫茶店としているのだ。

そしてアパートの方も、従業員の社宅のような使われ方をしている。



でも、そんなことはどうでもいい。


ノゾミお姉ちゃんはやっと笑ってくれたんだ。


アタシの心臓の鼓動が少しだけ早くなったのを感じつつ、アタシたちは改装中でありながら、まだ灯りのついているBATTOLERの建物へと入っていった。
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