3話:ナカムラ、ヒーロー辞めるってよ……ってそこまでは言ってない!

………あれからどれほど走っただろうか。


願葉区を照らしていたネオンの光は遠く、私は少ない街灯が照らすのみとなった薄暗い公園に来てしまっていた。



「………っ!………ど、どうしよう………!」


体が震える。呼吸が荒くなる。

幸い私のすぐそばには街灯があるが、少し視線を上げれば真っ暗な闇が広がっている。




「あ…………あぁ…………」


───私の故郷、ウェズペリアが滅んでこの世界に飲み込まれた時。

私は一点の光も見えない暗闇に放り込まれた。


そこでは自分がどこにいるのか、自分がどんな姿だったかも、自分が何者かも分からなくなっていった。


そしてこの世界に来て、ジニアに完敗してオーバーロードの王の力で生き埋めにされたとき、私は自らの死を覚悟した。


再び暗闇に放り込まれ、体が押し潰され骨が砕け、穴という穴から臓物と体液がぶち巻かれ私の屍は土を肥やす養分となる。


そうなるはずだった。


しかし、私はどういう訳か生き残ってしまった。

ただの偶然なのか、死にきれなくて私は………私たちは助かってしまった。



それ以来、私は暗闇が極端に怖くなった。



彰一さんたちに助けれた夜に至っては恥ずかしいことに、泣き叫び、嘔吐し、糞尿をぶちまける有り様だった。



怪我の痛みもあったが、あの暗闇に放り込まれる恐怖と…………それから…………。




クチュッ…………クチュッ………




「………ッ!!」


水滴が落ちる音。そして、ナニカが這いずり回る音。

私の体はビクッと反射的に飛び上がってしまう。


心臓の鼓動が早くなる。空気が薄くなる。

胃や腸が暴れるように動き回り、便意を催したのが分かる。




───助けて。もう……許して。

お願い…………お願いだから…………




「……………ぞ、み…………」



「っ………!!」


視界がグニャリと歪んでいく。


辛うじて街灯に照らされていた視界が、少しずつドロリとした黒いナニカに染められていく。





「やめて…………来ないで………!」





「ア"………ア"ァァァ……




ノ…………ぞ、み…………


…おね、ヱ…………ちゃ………」



ドロリとした黒い液体の中に目玉と口が浮かび上がり、ジリジリと私に這い寄る。


それはもはや何か分からない。



でも声は、声は分かるんだ。



懐かしい声。私が大好きだった“妹”の声。









でも……………















「───なんで貴女だけ生きてるの?」






「イヤァァァァァァァァァァァァァ!!!」





───刹那、私の魂はあの暗闇に引きずり込まれた。
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