3話:ナカムラ、ヒーロー辞めるってよ……ってそこまでは言ってない!
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19時35分。
姫矢市・願葉区の駅前。
ここ姫矢市の中心街であり、この街を発展させた者、それからこの街を支配するRe:BUILDの根城である『姫矢グループ』の本社のビル………三日月型の建物が聳 え立っている。
三日月型の建物を睨む私に対し、千花は三日月型の建物を始めとしたウェズペリアにすらない風変わりな建物を興味津々と言った感じで眺めている。
「ノゾミお姉ちゃん!あれ!あれみてあれ!」
「ど、どーしたの……?ハッ……!」
千花が指差すその先にはドレスを着たお姫様のような猫のキャラクターが。
「なにあれ!?かわいい!!」
「ひめにゃんこだよひめにゃんこ!姫矢のゆるキャラ!!」
ふんわりしたシルエットのスカートを翻し、お姫様の格好をした猫のキャラクター『ひめにゃんこ』が、こちらを見て手を振ってくる。
元々姫矢という街は何故か野良猫が多く、そのため『猫の街』とも言われているんだそうな。
だから『姫矢の猫』ということで『ひめにゃんこ』。
なんとも安直なネーミングである。
それでも、私と千花はひめにゃんこに手を振りかえすのだが、私は自分の顔が笑顔になっていることに気づくと手を降るのを止めてしまう。
それに伴い、私の顔からも笑顔が消える。
「…………」
「………?どうしたのノゾミお姉ちゃん?」
「…………なんでもない」
───私は何をしているのだろうか。
シャングリラの国を……アイギスの街を焼き払い、そこに暮らす人々を一人残らず死なせてしまった。
私を助けてくれたヒューマギアのみんなも、そして……彰一さんを…………。
それだけじゃない。私はウェズペリアにいた仲間すらも助けられなかった。
───そんな私がこんな風に笑顔になっちゃダメなんだ。
「…………なんか辛いこと思い出した?」
どこか落ち着きのなかった千花の声色が、逆に落ち着き払ったものになる。
直後、私の手に添えられる彼女の手。
1月の寒空に晒されたひんやりとした手。
彼女の細い指のひとつひとつが、私の手を包む。
「…………」
───だ、ダメだ………。
こんなところで、泣けない………。
私は千花に自分の顔を見られないように俯く。
「………もう、無理しなくていいんじゃない?」
「っ!!」
“無理しなくていい?”
あんたに何が分かるんだ。
私が背負った罪を。私の過ちを。
反射的に私はその手を振り払ってしまう。
千花の哀しみにも驚愕にもとれる顔が私の視界に飛び込んでくる。
…………あぁ、私は何をしてるんだ。
こんなことがしたい訳じゃないのに。
「…………ごめん」
私は顔を伏せると走り出す。
───逃げたかった。とにかく逃げたかった。
千花からじゃなくて、自分の置かれている状況からも、今にも壊れそうな自分の心からも。
逃げるように夢中で走る私の瞳には、夜の街を照らしているネオンの光が飛び込んでは過ぎ去っていった。
そして、飛び込んできたネオンの光は………どれも滲んで見えたんだ。
19時35分。
姫矢市・願葉区の駅前。
ここ姫矢市の中心街であり、この街を発展させた者、それからこの街を支配するRe:BUILDの根城である『姫矢グループ』の本社のビル………三日月型の建物が
三日月型の建物を睨む私に対し、千花は三日月型の建物を始めとしたウェズペリアにすらない風変わりな建物を興味津々と言った感じで眺めている。
「ノゾミお姉ちゃん!あれ!あれみてあれ!」
「ど、どーしたの……?ハッ……!」
千花が指差すその先にはドレスを着たお姫様のような猫のキャラクターが。
「なにあれ!?かわいい!!」
「ひめにゃんこだよひめにゃんこ!姫矢のゆるキャラ!!」
ふんわりしたシルエットのスカートを翻し、お姫様の格好をした猫のキャラクター『ひめにゃんこ』が、こちらを見て手を振ってくる。
元々姫矢という街は何故か野良猫が多く、そのため『猫の街』とも言われているんだそうな。
だから『姫矢の猫』ということで『ひめにゃんこ』。
なんとも安直なネーミングである。
それでも、私と千花はひめにゃんこに手を振りかえすのだが、私は自分の顔が笑顔になっていることに気づくと手を降るのを止めてしまう。
それに伴い、私の顔からも笑顔が消える。
「…………」
「………?どうしたのノゾミお姉ちゃん?」
「…………なんでもない」
───私は何をしているのだろうか。
シャングリラの国を……アイギスの街を焼き払い、そこに暮らす人々を一人残らず死なせてしまった。
私を助けてくれたヒューマギアのみんなも、そして……彰一さんを…………。
それだけじゃない。私はウェズペリアにいた仲間すらも助けられなかった。
───そんな私がこんな風に笑顔になっちゃダメなんだ。
「…………なんか辛いこと思い出した?」
どこか落ち着きのなかった千花の声色が、逆に落ち着き払ったものになる。
直後、私の手に添えられる彼女の手。
1月の寒空に晒されたひんやりとした手。
彼女の細い指のひとつひとつが、私の手を包む。
「…………」
───だ、ダメだ………。
こんなところで、泣けない………。
私は千花に自分の顔を見られないように俯く。
「………もう、無理しなくていいんじゃない?」
「っ!!」
“無理しなくていい?”
あんたに何が分かるんだ。
私が背負った罪を。私の過ちを。
反射的に私はその手を振り払ってしまう。
千花の哀しみにも驚愕にもとれる顔が私の視界に飛び込んでくる。
…………あぁ、私は何をしてるんだ。
こんなことがしたい訳じゃないのに。
「…………ごめん」
私は顔を伏せると走り出す。
───逃げたかった。とにかく逃げたかった。
千花からじゃなくて、自分の置かれている状況からも、今にも壊れそうな自分の心からも。
逃げるように夢中で走る私の瞳には、夜の街を照らしているネオンの光が飛び込んでは過ぎ去っていった。
そして、飛び込んできたネオンの光は………どれも滲んで見えたんだ。