2話:魔法少女としてがんばります!……ってどおしてだよォォ!!

「………こんな顔してちゃダメだっ……!」


私は必死に涙を拭い、両手でほっぺたを数度叩くと気合いを入れる。


私が暗い顔してどうするんだ。




こんなときこそ笑顔!



鏡の前まで歩くと両手の指で口角を上げ、笑顔を作る。

黄色のねこさんのパジャマ。

これはノエルちゃんのだったはず。


あの子が倒れた私に着せてくれたのかな?



かわいいはずなのに。

私もこういうの大好きで嬉しいはずなのに。


それなのに………やっぱり涙が溢れてくる。



やっぱりダメだ………。笑顔なんて作れないよ………。




「……イヌヌワンッ!イヌヌワンッ!!」


私の部屋の前でわんこの鳴き声がする。


この一度聞いたら忘れられないような独特な鳴き声は……あの子しかいない。


私は体の痛みをこらえつつ、玄関まで歩きその扉をあける。



「イヌヌワンッ!!」


「ヒメ…………!」


扉の先には、緑と茶色のなんとも非現実的なカラフルなわんこ。


勝利くんの愛用のバイクの『ヒメ』だ。



なんでこのわんこがバイクなのかというとこのわんこ、尻尾を引っ張ると文字通りバイクに変身するんだ。

しかも変形するとバッタをモチーフにした緑色のバイクに。


なんで普段がわんこなのに、バイクになるとバッタになるのかはワケわかんないよね。




でも………普段の姿がバッタじゃなくてわんこでよかったと思う。




「イヌヌワンッ!イヌヌワンッ!!」


ヒメはしゃがんだ私の胸に飛びかかってくる。

勝利くんもいるのに……遊んで欲しいのかな?



「ゴメン……ヒメ。私、そんな気分じゃ………」


「ぬわー?………」


暗い顔をしたのだろうか、ヒメは小首を傾げると私の頬をなめはじめる。




「ちょっ、やめっ………やめてったら……!

あはっ……あはははは………」


「イヌヌワンッ!」


頬をなめられくすぐったくて思わず笑い声を上げてしまう。

するとその姿を見たヒメは頬をなめるのをやめ私を見る。



いかにも頭の悪そうな……いや悩みのなさそうな顔をしている。


でもヒメは私の笑い声を聞いてどや顔になっている。



そっか…………あなたは私を笑顔にしたかったんだ。



「ありがとね、ヒメ…………」


私はその優しいわんこを抱き締める。

ふさふさの毛に覆われたぬいぐるみのような小さな体はバイク……つまるところ機械とは思えないほど軽くて、優しい暖かさに包まれていて。


その優しい暖かさが、涙を誘い、ヒメがせっかくくれた笑顔を濡らしていく。



「くぅーん…………」


ポンポン、とその短い前足で私の胸を優しく叩く。

この子は意外と察しのいいわんこだ。



───こんな私の想いを察してくれたのだろうか。




「ごめんね…………ごめんねっ……………!」


あぁ、本当に情けない。

ヒメの優しさにまで甘えるなんて。



私はヒメの体を抱き締めながら泣きじゃくる。


ヒメは私が泣き止むまでずっとそばにいてくれた。

その小さくて頼りない体でずっと……ずっと。



あの日感じた………あのわんこの、ヒメのぬくもりはこれから先も忘れないだろう。
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