後編

「別に楽しかぁねぇさ。で、それで俺の背後をとったつもりか?」


コーヒーカップをデスクに置くと振り向き、声の主を睨む。

そこには喪服のような黒いスーツに身を包んだ、少しやつれた印象の男が立っていた。





「………『ナイメア・デ・シーヴ』。いや、今は『無悼 命吾(ないとう めいあ)』と呼んだ方がいいか?」


「フフフ………」


「それで何の用だ?ただ遊びに来たわけでもねぇんだろ?」


「トランセンドシステムを受け取りに来たのですが、完成までには程遠いみたいですね」


「………」


いけ好かない奴だ。
素直に俺を殺しに来たとその腰の刀を抜けば良いものを。

無論黙って殺される気はさらさらないが。




「……駒の配置は定石通り。
だが椿 勝利という予期せぬ一手がゲームを狂わせた。

ゲームにはバグがつきもの。
取り除けば問題はありません」


「……お前がアイツを始末するってか?」


「えぇ………お任せください」


そう言ってニヤリと笑う無悼。

その後に俺も消す腹積りなんだろうが………まぁ良い。


それに………これでアイツがナイメアにやられるのなら、アイツもそこまでの奴だったってことだ。



「じゃあ任せた。好きにやれ」


「有り難き幸せ………では………」


そう言うと無悼、いやナイメアは部屋を出て行く。

再び静かになる部屋。



「全く、人の上に立つ仕事ってのも楽じゃない。

だが、せいぜい俺の為に働いてくれよナイメア・デ・シーヴ……」


俺たちが観測したリベルの世界ではあの男は死んでいた……はずだ。

だが、何の因果か俺の目の前に現れた。

死んだはずの男が何故蘇ったのかは俺にもわからない。興味もない。

だが、それで新世界への扉が開くのならそれでもいい。


今の俺はどんな顔をしているかは分からない。


だが、それでも俺は、何が何でも新世界を完成させなければいけないのだから。




(完結編に続く)
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