Chapter.4 ふたりなら

「奴の目的は姫矢グループ同士で内部抗争を誘発させ、その混乱に乗じてハルシオンコアを覚醒させることだった。

そして、奴の目論見通り3つあるコアのうち2つは覚醒した。

……覚醒した2つのコアのうち1つを自分の娘に宿らせたんだ」


そう、それがあの男の……ジニアの目的。

ジニアは最初から兄のスパイ……むしろ最初から姫矢グループや兄すらも利用して3つ存在するハルシオンコアを覚醒させることだったんだ。


3つあるハルシオンコアのうち姫矢グループが所有していた赤のハルシオンコアと俺の青のハルシオンコアは完全に覚醒し、赤のハルシオンコアを埋め込まれたジニアの娘……ノエルは究極のアンゲロスへと変貌を遂げた。




「そして、あの災害が起きた。

赤のハルシオンコアによって生まれた究極のアンゲロスが、クリスマスでうかれる街の人間たちをアンゲロスに作り替えていったんだ。

そして増殖したアンゲロスが更に人を襲って……街はたった一晩で地獄へと変わっていった。



これが“血の聖誕祭”。

俺は必死に戦ったよ。街を……大切な人たちを護るために。


でも………ダメだった」


俺の兄は事件の首謀者として祭り上げられた挙げ句、最終的にジニアに殺されたと聞く。

だがあの時出会うまで顔も知らなかった兄だ、そんなことはどうでもいい。


俺たちはこの災害により、家族を……友達を大切な人たちを失った。


どれだけの力を手に入れても、結局大切なものは手からすり抜けていく。


もっと力さえあれば……もっと強い力さえあれば大切なものを護れると思ってた。


でも結果はこれだ。


どれだけ力を手に入れても、大切なものは失うし、姫矢には事件の真相を揉み消され、俺は戦う理由を失いかけている。



優里香ちゃんのことだってそうだ。



暴力チカラで復讐は出来たかもしれない。

でもそれはただの自己満足。



それに復讐を成し遂げたところで、優里香ちゃんの家族が戻ってくるわけではないし壊された優里香ちゃんの幸せが戻ってくることなどない。


力を振るう意味など、もうどこにもないのだ。




「そっか…………」


ひとしきり話を終えるとベル薔薇……もとい深雪はふぅ………と息を吐き、



「………うちらの目的はただひとつや。

ハルシオンの力を狙うやつらを打倒して、ハルシオンそのものを永遠に眠りにつかせる。


それが世界を裏から操る姫矢だろうが、ジニアだろうが、他の連中だろうが関係ない。

それがうちらの“悲願”やからな……」


───“悲願”。

ベル薔薇がその言葉を口にした途端、彼女の顔が曇ったように見えた。


まるで、そのためにだけ生きてきたといいたげな口振りだ。



彼女の身に何があったかは分からない。



だが…………彼女の言葉には嘘偽りはない。

そして何故だろうか……妙に『危うさ』も感じた。


まるでその悲願を遂げれば自身も命を捨てるような…………。




それだけはなんとなく分かった。





だって………深雪からは俺と同じ“匂い”がしたんだもの。
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