Chapter.3:ゆりかちゃん

「だぁぁぁぁぁぁっ!」

「ォらぁぁぁぁぁぁッ!」


互いの首を掻き切るべく飛びかかる。

両腕には目の前の敵を切り刻む為の刃。


まさに全身武器とも言える姿となったのが俺たちが変身している『アマゾン』というライダーの特徴である。







──ガキンッ!!




互いの刃……『アームカッター』がぶつかり合い、闇夜に火花が迸る。

腕に走る僅かな痺れすらどうでもよくなるほどの緊張感が場を支配している。


少しでも気を抜けば、その瞬間文字通り首が飛ぶ。



アニメや漫画によくある能力バトルなんて生易しいものでもカッコいいものでもない。



これは比喩抜きでの“殺しあい”。


そこに派手な必殺技だとか魔法などない。

あるのはただ殺す奴と殺される奴だけ。


残るのは飛び散った血飛沫と薄桃色の肉片だけ。




────死ぬわけにはいかない。



“殺らなきゃ殺られる”と思考停止する気はないが、ここで殺されたら誰が優里香ちゃんを救うんだ。


…………誰があかりんを護るんだ。





「っ……!死ねるか………っ!

まだ………死ねるかァァァァ!!」


「っ!」


奴の刃が右肩に食い込むが、俺は逃げられないように奴の腕を掴むと逆に奴の腹部をその腕で貫く。


ぶちまけられる血飛沫。本来ならこれで致命傷だ。

しかし、それでも奴は止まらない。




「ぐっ……まだだァァァァ!」


「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」


奴は牙を剥くと俺の首筋に噛みつき、その肉を引きちぎる。

深紅の血飛沫が俺の首から吹き出す。


熱いものが顔や肩を濡らしていく。 

まるで傷口から体温が抜けていくように体が冷たくなっていく。


奴の土手っ腹から引き抜くと、俺は奴から距離をとった。



奴にも意地があるように、俺にも意地がある。


どんな罪を背負おうとも優里香ちゃんを救うと。

何を犠牲にしてもあかりんを守りぬくと。



俺の意地に答えるように、傷口が一層熱くなるとウネウネと何かが蠢く感覚を感じる。

傷口から痛みがひいていき、体温が戻っていく。


どうやら、アマゾンアルファのジュエルに宿ったアマゾン細胞とやらが俺の体を再生しているようだ。

世界線は違えどあのプレ・アマゾンもまたアマゾン。条件は同じだ。


現に俺がぶち抜いた腹部もみるみるうちに再生が始まり、塞がっていき、次第には何事もなかったかのように傷口は塞がっている。




なるほど…………。


完全に息の音を止めなければ、奴は殺せないって訳だ。





「………っ……!だったら………!

息の根を止めてやるよ…………!!」



《Violent Slash………!》



ドライバーの操作と共に右腕のアームカッターが肥大化する。

これにより敵を切り刻むのがこのアマゾンアルファの必殺技。


恐らくアマゾンアルファの体を構成するアマゾン細胞を活性化させることでカッターを肥大化させているのだろう。



まぁ、理屈はどうだっていいか。

今は目の前の敵を切り刻むだけだ。



奴も同じようにアームカッターを肥大化させている。




「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



地面を蹴り、再び距離を縮める。

勝負は一瞬で決まる。
これで相手に致命傷を与えれば俺の勝ちだ。


余計な思考を捨て、奴を殺すことだけに集中する。



ただ奴の首筋をアームカッターを切り刻む。それだけだ。





互いの距離が近づくと俺たちは互いの首筋目掛けてアームカッターを振り下ろした。





「ぐっ…………!あぁぁぁぁぁぁぁ………!!」


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


俺たちの首筋に食い込む刃
飛び散る血飛沫。
響き渡る断末魔。


全ては相容れることのないの前の敵を殺すため。
ただそれだけのために。



やがて、俺たちの体は地面へと沈みゆく。

その時見上げた夜空は忘れない。



───あの赤き月に捧げるように、俺たちの血飛沫が天を目掛けて吹き上がっていたのだから。
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