Chapter.3:ゆりかちゃん

超人的な脚力により、一瞬にして距離が縮まる。

普通の人間になら間違いなく反応出来ないスピード。


しかし、『昭和ライダー』として分類される俺たちの変身体は、シンプルに己の改造人間としての肉体のみで戦うことから身体能力が他の世代のライダーより全体的に高めだ。



だからこそ他の世代のライダーたちより自分の思うがままに体が動くのだ。




「でやぁぁぁっ!!」


「はぁぁぁっ………!」


互いに振りかざしたリボルケインが何度も何度も切り結ぶ。

それは直視出来ない程の輝きを放ち、直接触れていなくてもその熱気でジリジリと強化皮膚が焼ける感覚が伝わってくる。


その膨大なエネルギーを奴の体内に直接流し込むことで必殺の一撃である『リボルクラッシュ』が決まるのだ。



これは俺が変身するRXの読んで字の通りの必殺技だが、それは同じ武器を持つ以上奴の変身するアナザーRXも同じ。


要するに先に相手のリボルケインを叩き落とし、相手より早く相手の体を貫いた方が生き残る。



そして負けた方は………死あるのみ。



『殺らなきゃ殺られる』………そんな単純なものじゃない。

これは互いの信念とアンゲロスとなった優里香ちゃんの命がかかった殺し合い。


ジルは自分の命だけでなく、優里香ちゃんの………いや、優里香ちゃん“だったもの”の命を背負って戦っている。



ジルは2つの命を守るために、そして俺はその2つの命を奪うために戦っているのだ。



でも俺は………それが『正しいこと』だって信じてる。

この残酷で、汚くて、醜い世界にアンゲロスの居場所なんてない。


本当なら………
出来ることなら、俺だってジルと一緒に優里香ちゃんを護りたい。




でも………俺たちの力なんてたかが知れてる。


どれだけ人を超えた力を持ったところで所詮はただの子供。


一個人の力が、世界を変えるほどの力にはなり得やしない。




だからこそ…………本当の意味での『世界の残酷さ』には全く歯が立たないのだ。






「“キングストーンフラッシュ”!!」


「っ!しまったっ!!」


一瞬の隙を突き、アナザーRXはバックルから眩い緑の光を放つ。


“キングストーンフラッシュ”。

ベルトの中のキングストーンなる力の源となる霊石の力を最大解放させることであらゆる奇跡を起こすとされる大技だ。


『奇跡』と言っても殆どはベルトから放出される光を使った攻撃に限られるが。



それでも攻撃技としては過剰なほどの破壊力ではある。




「ぐっ…………!!」


奴のキングストーンフラッシュの一撃をモロに喰らうと吹っ飛ばされてしまい、リボルケインも落としてしまう。


両腕の強化皮膚も一部熱で焼けただれており、その攻撃力の凄まじさを雄弁に語っている。



「これで僕の勝ちだね………ッ!」


奴は俺の落としたリボルケインを拾い、二本のリボルケインを携え駆け出してくる。


この二本のリボルケインで確実に俺にトドメを差すつもりだろう。






────だけど殺られるものか。



《SET UP!》


《チェーンジッ!バイオッ!ライダー!!》



奴の持つリボルケインが俺の体を貫くその一瞬。

俺の体は水晶の煌めきに包まれる。



そして、奴のリボルケインは…………俺の体をすり抜けた。





「なっ!?」


驚くのも無理はない。

まさか勝負が決したと思われたタイミングで自身の攻撃がすり抜けたのだがら。



でもまだ終わりじゃない。




「バイオッ!アタァックッッ!!」


人型からまるでスライム………いや、ゲルと表現したらいいのだろうか。

人の形から液状のものが形を成す前の不定形なものへと俺の肉体が変形すると、まるで激流の如く奴に襲いかかる。


これがRXの強化形態のひとつ『バイオライダー』、その最大の特徴とされる液化能力である。




「ぐっ…………!!」


これで奴の持ったリボルケインを2つとも叩き落とすと、そのまま奴に攻撃を敢行する。

あちらの攻撃は一切通用しないが、こちらの攻撃は通る。


まさに反則極まりない能力。


現にジルもコイツの対策に手を焼いているようだ。




「甘く見るなよ………!“シャドービーム”ッ!」


「っ!!」


トドメの一撃を与えようとした瞬間、俺の視界が真っ白に染まる。

そして激痛と共に体が痺れ、液化が解除。更には変身まで解除され地面に叩きつけられる。




───やられた。



これは“シャドービーム”。

アナザーRXのベースとなったシャドームーンの技のひとつで緑色の電撃を放つ技なのだが、その威力は凄まじくバイオライダーのバイオアタックすらも敗れたのだそうだ。


ちなみにこれまで話してきたライダーの情報はこちらの世界に帰ってきて、ジュエルドライバーとジュエルを見せた時に嬉々として俺の持つジュエルに宿ったライダーたちのことを話してくれたあかりんのものだ。



………もう少しあかりんのライダー教室、しっかり聞いとくべきだったかな。





「………確かにバイオアタックは仮面ライダーの中でも強力な技だよ。

でもね、それだけで勝てると思うなよ?」



「何をバカな…………!」



結局、RX同士の戦いは奴に軍配があがった。

しかし、俺の手には別のジュエル。


……全くをもって降参する気などない。


“あの世界”にいた時、最も使ってたジュエルだ。




「仕方ないね…………」


ジルもそれを感じ取ったのかジュエルを外してわざわざ変身解除までする。


しかし張り詰めた空気は依然として解かれることはなく、空気が薄くなったと錯覚するほど。

そして緊張は最高点に達する。





《SET UP!》《SET UP!》


互いに構えたジュエルをベルトに装填。

おそらく互いの体力を考えればこれが最後になる。


今度はどんな手を使ってでも相手の首を跳ね落とせばこの戦いの勝者となる。







「アマゾンッ!」



「アマゾン………」





《チェーンジッ!仮面ライダー!アマゾンアルファ!》


《ALPHA……!》



《チェーンジッ!プレ・アマゾン!》




互いに纏う紅蓮の炎。


それは空に昇る紅の月よりも赤く、天までもを焦がす。



やがて俺の姿も、ジルの姿も緑の瞳を持つ深紅のボディの獣となる。

端から見ればその姿に大差はないのかもしれないが、俺の姿は深紅のボディに緑のスカーパターンが刻み込まれた野生のアマゾン………“アマゾンアルファ”。


そしてジルは深紅のボディに緑の斑模様が刻まれた不完全なアマゾン……“プレ・アマゾン”。
その首には白いマフラーが巻かれている。


不完全と言えどもその力はアマゾンと大差ないらしいが、完全体とされるアマゾンよりより獣に近い姿をしている。







「どちらのアマゾンが生き残るか………ってか………!おもしれぇ…………!」




「さぁ………狩り開始と行こうか」





深紅の月を背に、深紅の獣となった俺たち。

その牙を、爪を目の前の敵に突き立て、その命を削り合う。


こうして、この戦いの最後を飾る戦いが始まった。

どちらが勝利しても得るものなどない虚しいだけの戦いが………。


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