Chapter.3:ゆりかちゃん

「っ!!」


《SET UP !》

《チェーンジッ!仮面ライダー!魔蛇!》


《ソイヤッ!》
《魔蛇アームズ………邪ノ道ハ蛇……!》


しかし、ジルは咄嗟に優里香ちゃんだったものを庇うと俺と同じようにジュエルドライバーを装着する。


そしてジュエルを嵌めると現れるのは、果実に群がるように玉状となった無数の蛇の塊。

俗に言う蛇玉というやつだろうか。


その蛇玉がジルに覆い被さるとそれは霧散するように鎧へと変化する。


そしてその変身した姿で俺の斬撃を受け止めると、俺の体を蹴り飛ばした。



家の壁を突き破り外へ放り出される俺の体。





「何してるんだよ………!
この子は優里香ちゃんなんだよ!?」



「………!」



体勢を建て直すとジルの姿を見る。



変身したジルの姿はというと………

大きな角に骸骨を模した紫の体。
胸には『炎の十字架』のような赤い模様。
背中には赤いマント。


その手には骸骨を模した大剣。



こちらも斬月・真と出所が同じライダーらしいが初めて見る。


ジュエルドライバーの変身音からして『魔蛇マージャ』と言うらしい。



魔蛇となったジルも、俺を追うかのように外へと出てくるのが見えた。




「…………違う………違うっ!
ソイツはもう優里香ちゃんじゃない!!

アンゲロスになるってことがどう言うことか分かってないのか!?」



アンゲロスになるということは先程も話した通り『人間として死を迎えること』と同義。

そして所詮、その意識もヴァイトップがコピーしたものに過ぎないため時間の経過と共に人間らしい感情は消えていく。


そうすれば優里香ちゃんは紛れもない怪物となってしまう。




「あぁ、知ってるよ………君よりもよーくね………。



でも…………優里香ちゃんはあいつらのせいでもう死ぬ寸前だったんだ。


全身ぐちゃぐちゃにされて………顔も潰されてた。

ボロボロになったあの子の服でようやくわかったくらいだ………


そんなの、ほっとける訳ない………
それこそアンゲロスにしてでもあの子を救わなきゃ………!


それでも君は優里香ちゃんを見捨てろって言うのか!?」



「っ!!」



………確かに、ジルの言葉にも一理ある。

俺だってそんな光景を目の当たりにしたら、きっと何降り構わずに彼女を救う。


でも、アンゲロスになったら最期だ。



あの災害………血の聖誕祭の影響で、アンゲロスは中途半端に人間に知れ渡るようになってしまった。

それこそアンゲロス狩りなんてものが流行るくらいには。


そして、少なくともあの災害を体験したこの街の人間たちは…………アンゲロスを許しはしない。


同じ人間であるはずの駅の子すら受け入れようとしないのに、アンゲロスを受け入れられる訳などない。


俺やジルがどれだけ共存を望もうとも………
アンゲロスとなった彼女に最早生きる道なんてない。




────それが現実だ。







「違う…………!
ジルは何も知らなさすぎる。

この街の人間たちはアンゲロスを認めようとはしない!

それはあの高校生たちをみても分かるだろ!


………俺たちがどうやったって、あの子を苦しめるだけなんだよ!!」




───ずっと俺は戦ってきた。



大切な人たちを、仲間を、そしてこの街を、そこで生きる人たちを護るためにアンゲロスと。


でも、戦いの中で知ったのは敵だと思っていたアンゲロスたちもまた苦しんでいたと言う現実。

そして、そこまで追い詰めたのは他でもない人間の悪意なのだと。


そして………その悪意をバラまいた元凶こそ、この街のトップ………俺の父親や兄だった。



この街そのものが悪意の温床。

アンゲロスを決して認めようとしない、金と権力に溺れた汚い人間たちの病巣だ。

この街そのものが人を狂わせ、“怪物”に変えてしまう。


たとえアンゲロスが人の心を持ち続けられたとしても、この街で………いやこの世界では生きられない。



それが…………俺が思い知った現実なんだ。






「じゃあ…………どうやったって君と僕とじゃ分かり合えないって訳だ…………!」



ここまで聞いて、ジルは覚悟を決めたかのように剣を構える。

しかし、不自然なくらいに殺気を感じない。



いや、『感じない』のではなくジルが『殺気を圧し殺している』のだ。


戦いの中では常に相手の反応を超える必要があるが、殺気を駄々漏れにすればすぐに相手に動きを察知されてしまう。

故に真剣勝負では殺気を圧し殺すのがベターとされる。


だがここまで殺気を圧し殺している相手ははじめてかもしれない。




…………コイツは格上の相手だ。



仮面の下で滴る汗を感じつつ、俺もソニックアローを構えながら奴の動きを注視する。







「そうだね………!でも、俺は………!」






「僕は……………!」







「「優里香ちゃんを救うために!!」」





《メロンエナジー……スカァッシュ!!》



《ソイヤッ!》
《魔蛇スカッシュ………!!》




互いの刃に宿る破壊のエネルギー。


それは赤く染まる月夜を眩く照らす。


しかし、それに構うことなく俺たちは互いに駆け出す。







「あの子を殺す!!」
「あの子を護るッ!!」




────交錯する刃と刃。



友達だと互いに信じていた俺たちは殺し合う仲となったのだった。
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