Chapter.3:ゆりかちゃん

「ジル…………なんで………?」


何が起こったか分からない………というよりやはり頭が混乱してるんだ。

状況整理がまるで出来やしない。


でも、ジルはなんらかの力で炎を操り、あの男子校生を焼き払ったんだ。


それだけは確かだ。



しかし、神様は俺に状況を整理する余裕すら与えてくれはしなかった。






「僕も助けたかったんだよ、優里香ちゃんを………でも、安心して。


───優里香ちゃんは助かった。






……………アンゲロスとしてね」




「………………え?」




…………耳を疑う言葉だった。


“安心しろ?”
“アンゲロスとして助ける?”



全くをもって理解など出来やしない。出来る訳もない。




直後、のそっ………のそっと何かが這いずるような音が聞こえてくる。





「マ"…………ッ……………………マァ…………



………ヴァ………………!



………………………シオォ……」



子供の幼い声。

それとは対照的に巨大な体躯。


それは蜂にそのまま人間の手足をくっつけたような醜悪な姿。


頭部には天使の輪のような器官もある。


コイツは蜂型のアンゲロスだ。


しかし知性が欠如したのか、その口から涎のような粘性の強い体液を垂れ流しながらこちらに向かってくる。


そしてその蜂型のアンゲロスがその口を開いた途端……………







「ミ"ッ……………ぢ…………………り、サン」




口の中からまるで皮が剥けるかのように人間だった頃の“顔”が現れる。


あの長くて美しくかった髪ももう一本たりともなく、まるで何かの皮膜につつまれているような薄桃色の透明な皮膚からはうっすらと筋繊維や血管、眼球が見えている。




これは…………この子は………………。









「…………ゆり、か…………ちゃん………!」



確かに彼女は生きている。


いや……これを“生きている”と言えるのか?



アンゲロスになるということは、人間としての死を迎え強制的に別の存在に転生する事。


厳密にはヴァイトップなるコアの中のアンゲロス細胞が人間の細胞を強制的に壊死(アポトーシス)させて、壊死した細胞を喰らったアンゲロス細胞が増殖してアンゲロスとなる。

この時、核となったヴァイトップにその宿主の意識が宿るため、さながら『人間がアンゲロスになった』と錯覚するのだ。


つまり『アンゲロスになる』ということは『人間として死を迎える』ことそのもの。


そして、『死んだ人間を救うことは出来ない』。


これがアンゲロスの大前提。


この大前提が狂うことになれば………少なくともアンゲロスとなった者は更なる不幸へと叩き落とされる。



当たり前だ。
死んだ人間が復活すればそれはもはやホラーだ。


そう言えば、“なんとなく想像がつくだろう”。




そして…………一度俺もアンゲロスを救おうと考えて、それで失敗し身を持って知ったことだ。





「っ………!あぁぁぁぁぁぁ!!」


左腕に握られた洋弓型武器『ソニックアロー』を握りしめた。

そして台所の狭さすら気にかけず駆け出し、その刃となったリムを、アンゲロス……優里花ちゃんだったものに振り下ろしたのであった。
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