Chapter.3:ゆりかちゃん

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「……もうやっちゃダメだからなー!」


俺は優里香ちゃんのお父さん……沖田巡査のいる交番の前を通る。


すると、沖田巡査……もとい優里香ちゃんのお父さんが、男子学生とその母親と思われる女性を見送っている姿を目撃する。

学生の方は、制服からして俺も通っていた『願葉第一高校(がんばだいいちこうこう)』の生徒だろう。



「お疲れ様です、沖田巡査」


「おぉ、道紀くんか!」


ちょうど話が終わったようなので、沖田巡査に話しかけてみる。

沖田巡査はこちらを向くと笑顔を見せてくれた。



「あの人たちは?」


ふと、気になったので先ほどの親子について聞いてみる。


自分たちの後輩にあたるあの生徒の事が気になった。

ただそれだけの理由だ。



「あぁ………願葉の駅で“駅の子”たちを虐めてたんだよ。

だから補導したんだ。それだけだよ」


「駅の子………。まだいたんですか…………」


──“駅の子”。

聞いているだけでも胸が痛くなる。


駅の子とは、4年前の災害………『血の聖誕祭』で家族を失ってホームレスになった子供たちだ。

引き取り手もおらず、名前の通り姫矢の街の駅を根城にしてる。


生きていくために盗みを働いたり、文字通り体を売ったり……そうやって1日を過ごしている子供たちだ。


本来の首都である東京が機能していないこともあり、姫矢の街の復興作業が優先され、駅の子たちの存在は黙殺され続けてきた。


犯罪に手を染めるものが多かったこともあり、駅の子たちは姫矢の市民からは疎まれ、差別の対象となっていた。


姫矢の街が復興してからは駅の子たちは姫矢グループの保護施設に入れられたって聞いていたのだけど……

……まさか、まだいたなんて。



「………あぁ、酷い扱いを受けて人を信じられなくなったんだろうな」


「…………」


──俺たちのせいだ。

俺たちがあの災害を防げていれば、
駅の子たちみたいに苦しむ子供たちが出ずに済んだのだろう。


俺は拳を握りしめる。



「………道紀くん」


「あっ、ごめんなさい!

……さっきまでですね!みんなで優里香ちゃんと一緒に遊んでたんですよ!」


暗い顔をしてしまった。

ネガティブな感情は人に伝染する。

話題を変えないと。


そこで俺は優里香ちゃんの事を話題に上げた。



「おぉ、そうか!ありがとな道紀くん!」 


「いえいえ!最高の友人ですから!」  


沖田巡査も笑顔を見せてくれる。


よかった…………。



「また子供たちと遊んでやってくれよ!」


「はいっ!ではまた!」


「じゃあな!」


そうして、俺たちは手を降り別れた。


今になって思えば、ここでなんで別れたんだろうと思う。

もう少し、沖田巡査と話していれば………

なんなら沖田さん家でご飯食べていけばよかったんだ。


そうすれば………そうすればきっと沖田巡査も優里香ちゃんも………


後悔ばかりが、俺の頭を支配する。



いつだってそうだ。


取り返しがつかなくなった後に悔やむんだ。




「不気味だな…………」


………すっかり日が落ちてしまった。


美しい冬茜から一転、闇夜に包まれた街は、不自然なまでに赤く染まった月に支配されていた。



───これが悪夢の始まりだったんだ。
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