Chapter.1:みっちゃん

「あっちにはラーメン屋があって、こっちには…………」


まるで無くしたものを探すかのようにあかりんは周囲を見渡していく。


その哀愁を帯びた泣いているような笑っているようなどちらともつかない表情は見ているこっちの心に小さな棘を残すひどく切ないものであった。


俺はなんて声をかけていいか解らず、その表情を黙って見ていることしかできない。



「……本当に変わっちゃったね………まるであの日のことが嘘だったみたいに」


あの日………今から更に4年前のクリスマスの日。


ある怪物の力によって“適性”のある住人たちが一斉に怪物“アンゲロス”に変化し“適性”のない住人たちを襲ったのだ。




その結果、約20万人いた住人の半数以上が犠牲となった。


その中には俺たちの親しかった友人や家族もいた。


首謀者は姫矢グループの重役である姫矢 雅紀……俺の実の兄だ。


だから俺たちも必死に戦った。
この街を救うために。兄を止めるために。






だが、現実は悲惨だった。




諸悪の根源たる姫矢グループを叩くことはおろか、兄の凶行を止める事すら出来なかった。


しかもこれらの事実は公に明かされることはなく、表向きには某国による同時多発テロという形で片付けられたのだ。


そして姫矢グループは皮肉にも姫矢市の復興を始めとする事業展開により急成長を遂げ、競合他社をその傘下に取り込みながら、今では世界中にその名前を知らぬ者はいない程の大企業となった。






「そうだね……。ホントにそうだ」



俺たちは多くのものを失った。



家族も、友人も、これまでの暮らしも、なにもかも。

この身を引き裂かれるほどの想いをしても、それでも世界は淡々と続いていく。

罵詈雑言が飛び交うSNSも、つまらないテレビ番組も、流行りの配信者の動画も……なにもかも変わらない。

傷ついて踞る自分達を置き去りにして、世界は今日も廻っていく。


この街のシンボルである三日月型のビルだって、今も昔も変わらずに目の前に聳え立っている。




──あの頃から前に進めずにいる俺たちを嘲笑うように。
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