Phase.5 再会─眠れ、愛しの姫君よ─

「……そんな……でもそんな力で産んでもその人の子供じゃないでしょうよ!」


『……アタシニハ分カル……ココニイルノハアノ人ノ子供ダッテ………!』


俺から距離を取ると、彼女は腹部をさする。

その腹部は前回戦ったときよりも大きくなっている。



『……ダカラ邪魔ハサセナイ!!』


蜘蛛の体の腹部から黒いナニカが溢れ出し、濁流となって襲いかかる。




「うわぁぁッ!なんだこれ!?」


漆黒の濁流に呑まれ、病院の奥へと流されていく。

俺は必死にソレを振りほどくのだが、その過程でソレの正体に気づくのだ。



「蜘蛛!?」


漆黒の濁流の正体は無数の子蜘蛛だった。

無数の子蜘蛛たちはプライムのスーツ……『コアフレーム・インナー』を食い破り、人工筋肉を引き裂いてゆく。


バイザー内に響きわたるアラームがダメージの深刻さを物語っている。




「……まずい、このまま、じゃ……!」


バイザー内でダメージコントロールが実施され、被害状況が更新されリアルタイムで表示される。

損壊率は50パーセントオーバー。


ダメージがスーツを超え、激しい痛みが俺の全身に襲いかかる。




「ううっ……止めなきゃ……!俺は姫華さんを助けなきゃいけないんだ……!」


彼女の事情はだいたいわかった。


事故で婚約者も、身ごもっていた子供も失ってしまった。

だからこそ最後のチャンスに全てをかけたのだろう。

婚約者を失った悲しみも、婚約者が生きた証を残したいという気持ちもわかる。



───俺だって理不尽に大切な人を奪われる痛みは知っている。





だが…………否、だからこそ俺は彼女を止めなきゃいけないのだ。




彼女が本当の意味で“怪物”になってしまうその前に。







「プライム……俺に力を貸せぇぇ!!」



このベルトが、俺の意思に応えてくれたのだろうか。

バックルから眩い光が放たれる。


それと同時に、全身に力がみなぎっていくのを感じる。



やがて、俺の全身は光に包まれていった。
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