Phase.5 再会─眠れ、愛しの姫君よ─

──ANGELOS SIDE──


「はぁ………はぁ………」


──あぁ、体が重い。


私……真中 姫華は、体を引きずるように重い体……いや、重いお腹を抱えながら歩く。


2月の寒空だと言うのに、体が熱い。


まるで、紅蓮の炎に焼かれるかのように。



───いや、私を包む熱気は生まれ出ずる我が子への祝福、またはそれに伴う高揚感からか。


私はこの寒空の下、すべての衣服を脱ぎ捨てた。

そして、その膨れ上がったその腹部には新たな命の鼓動を感じる。



ここに、私の……いや、私たちの子供がいるのだ。



全裸だというのに体が熱くて仕方がない。


真冬だというのにまるで真夏であるかのように汗が滝のように流れ出ている。





「あはっ…………あははははは…………

……生まれる………生まれるよ………


あたしたちの、赤ちゃん………!」



急に膨れ上がった腹の重さによろめきながら自身の顔が笑みに歪んでいくのが分かる。



彼女の脳裏に浮かぶのは1人の男性の姿。





───今はもう会えない、最愛の人。







「待っててね……信彦さん……」


「!……貴女何してるの!?」


右隣から声が聞こえる。

声が聞こえてきた方に顔を向けると、そこには看護士がひとり、私の方に慌てて駆け寄ってくるのが分かる。


当然よね。

全裸の妊婦が寒空のなか病院の外を闊歩しているのだから。



自身の手を掴み、病院内に連れて行こうとする看護士の顔を見つめる。


幸せ太りした体の女性。



あぁ……………






───きっと脂がのって美味しいんだろうな。











「……おなか減ったな」



「え………………?」



骨が砕け、肉が裂ける音が遠く聞こえる。


自分の目の前で起こっているのに、頭がボーっとして、なんか他人事みたいに捉えてしまう。




紅くて熱いものが私の全身を濡らす。



熱い…………熱い……………。




───これは本当に“私”?



鮮血にまみれ、一糸纏わぬ姿で薄桃色の肉を貪る私は本当に“私”?



──どうでもいいや。

だから、もっと頂戴。




私と…………私の赤ちゃんに栄養を頂戴……!
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