Phase.3 疾走─駆け抜ける騎兵─

黒い影は街灯がしっかりと整備されていない闇の深い方向へ進む。



街の開発から取り残され、そこに並ぶ家々も人が住んでいるのかどうかも怪しい。

黒い影はそんな町並みの中で、一際異彩を放つ古びた廃工場に目をつけたのかそこに入っていく。



元々はミルクカートンの充填機を製造する工場だったらしいが、
10数年前に倒産し、以降そのまま使わないまま放置されることとなった。


プレハブでできた場所は錆によって侵食されており、
コンクリート部分にもひび割れが広がっている。



黒い影が降り立ったのはそんな廃工場。




俺は懐中電灯代わりにライトをつけたスマホ片手に廃工場内に入ると
すぐさま降り立った黒い影と対峙する。




───月明かりに照らされたそいつはなんとも醜い姿をしていた。


右半身が人間が醜く変化した生身の体。
左半身が蝙蝠を模したロボットのような体。
両腕はコウモリの翼を思わせる形となっている。

腰にはベルトのようなものが巻かれており、
そのバックルにはこの間の蜘蛛男同様、宝石が埋め込まれている。



「うっ………!」


俺はその姿を見て思わずたじろぎ、逃げ出したいという衝動に駆られてしまう。
言い訳がましくてこんなこと言いたくないが、ベルトを………戦う力を手に入れたとはいえまだ高校生。

やはり目の前の怪人が恐ろしいのだ。



俺がたじろいだ一瞬、蝙蝠男は耳まで裂けた口を開き襲いかかる。

真っ赤な口から覗く鋭利を極めた牙が俺の首筋に迫る。



噛まれる!そう思った瞬間、手にしていたスマホを振り回す。
ライトを浴びた蝙蝠男は目が眩み、攻撃対象を見失った。



すんでのところで牙を回避した俺は相手から距離をとりベルト……プライムレイザーを装着する。




装着する場所は“丹田”。




───全ての気を生み出す機関だ。




………俺に出来るのか……?



だがここでいらない事を考えてしまう。



ベルトを装着したはいいが本当に自分にあの怪物を倒せるのだろうか。


この間の事件ではまぐれでなんとか倒すことは出来たが、
もし倒せなかったら自分はどうなるのか、と。




「グルルルルル………」


「ひっ…………!」


そんなことを考えている間に蝙蝠男は視力をとりもどし、
その牙が生えそろった口を開けジワリジワリとせまって来ていた。




それを見て、思わず気押されてしまい……





「………無理!やっぱ無理ィィ!!」


我ながらなんとも情けない。



俺は………恐怖のあまり一目散に逃げ出してしまった。
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