Episode.12 REPOSE

少し話は逸れるが、並行世界というものについて話さなければならない。

ここで俺の話を聞いている諸君らならば少し前に勝利が『落としたマグカップ』を例にパラレルワールドについて解説していたのを知っていると思うが……もう一度纏めるならば、並行世界とは有り得たかもしれない可能性の世界のことだ。

ひとつの“キッカケ”を機転に無数に枝分かれし、互いに干渉することなく並行しながら存在し続けていく。

そのキッカケは大きな事件から何気ない小さな決断まで大小様々だ。


だが……ここまでは一般的なパラレルワールドの概念だ。

厳密に言えば並行世界として存在できる数は決まっている。


何故ならば、並行世界を存続させる為の理が5つ程存在しているからだ。



一、並行世界が存続するには仮面ライダーの存在が必要。


二、世界を救う救世主としての素質がある仮面ライダーが世界の核となる仮面ライダーとなる。


三、仮面ライダーが存在しない世界は例外なく消滅する。


四、タイムパラドックス等に歴史が書き変わった場合、並行世界として存続することが出来ず古い時間軸は消滅してしまう。


五、仮面ライダーのいない世界も仮面ライダーの世界と繋がり融合しひとつとなることで存続することができる。



……何故このような理が存在しているのかは俺にも分からない。

だが現に、この人智の及ばぬ理によって時を操る王家の世界ですら滅亡の危機に瀕していたという。

王家の一族の血を引く男は仮面ライダーの世界をひとつに融合し、仮面ライダーがいる他の世界を滅ぼすことで世界を救おうとしたのだ。

だが、それも劣等感と分不相応に高いプライド故の非常に浅ましい動機からだったが。


まぁこれはほんの一例だが……こんな風に自由意思など持ち合わせていないはずの“概念”が明確な意思を持って作用しているように我々の世界はデザインされ、これらの理の元に数多の並行世界は誕生と消滅を繰り返してきたのだ。


その結果、並行世界の総数は第一次ライダー大戦が勃発した2009年8月時点で68億8600万となっていた。


──奇妙なことにその当時の世界の総人口と寸分狂わずに一致したのだ。

現在も世界の総人口は増え続けており、2022年11月には80億に達する見込みだ。

当然世界の総人口が増える度に、新たな並行世界と新たな仮面ライダーが生まれ続ける。

世界の総人口が約80億人になるのであれば、並行世界も80億に達することとなる。

そして並行世界の数だけ核となる仮面ライダーが存在することになるわけだ。


当時の俺はその事実を知り、『この世界に生きる全ての人間が世界を救う仮面ライダーになる可能性が示された』と喜んだものだ。


だが……現実は違う。


人間が善意も悪意も両方抱えているように、仮面ライダーも全員救世主とは限らない。

悪意を撒き散らすものも、独りよがりな正義で暴走する奴もいる。


そもそもその強大な力そのものが、それを使う者たちに分不相応だったのだ。


だからこそ二度に渡るライダー大戦が起こった。

己の世界を護るために互いに手を取り合うのではなく、互いに潰し合うことで自分たちの世界を護ろうとしたのだ。


この世界には正義も悪もないとは言うが、俺は『正義しかない』と考えている。

ひとりひとりが己の正義を掲げ、それぞれが掲げられた正義に味方する。

そして相反する正義とは潰し合う。


そうやって俺たち仮面ライダーの正義の系譜は紡がれてきたのだ。

志半ばで倒れた者たちや、仮面ライダーにすら選ばれなかった者たちの血と涙を対価として。



「オラァァァァァッ!!」


……スマンな、前置きが長くなってしまった。
だがこんな奴との戦闘、長引く程でもない。
こういうことでも語らなきゃ尺を稼げねぇんだよ、


……あ?尺ってなんだよ、って?
そういう細けぇこたぁ気にしなくていいんだよ。


さて、本題に戻ろう。
ディロードはライドブッカーを俺に振り下ろしてきた。
だが、そんな太刀筋で俺を捉えられるわきゃねぇだろ。


「なっ!?ぐっ!!」


「……なに驚いてやがる」

俺はライドブッカー・ソードモードを素手でいなし、太刀筋が逸れたタイミングで奴の顔面にひじ打ちを叩き込む。


ライドブッカーの刃はその構造上、切っ先から刀身の半分程度。

ホルダーや銃身として機能する“鍔”から刃を収納する黒い“鞘”、そして鞘から飛び出すような形で刀身が伸びている刀としてみてもかなり異質な武装だ。

変形機能の弊害によるものだが、刀身をしまう“鞘”を利用してやれば素手でも比較的安全にその剣戟をいなすことが出来てしまうのだ。


ディロードがよろけた所で奴に背を向けたままライドブッカーの“鞘”を握り締め、奴の胴にソバットを叩き込む。



「っ!!」

一瞬の隙を突かれた所に蹴りをくらい、奴は吹き飛ばされ、ライドブッカーを手放してしまう。

ライドブッカーは剣と銃に変形するだけではなく、次元戦士の力の源となるカードを収納するホルダーそのものである。

次元戦士はその手数の多さがウリだ。
しかしライドブッカーを奪われてしまえば一気に弱体化してしまう。

俺は奴から奪ったライドブッカーを自身の背後へ投げ捨てると一気に間合いを詰めた。



「ホラどうした……っ!」


流れる水のように相手を翻弄しつつ、打撃を叩きつけながら常に背後に回るように移動しながら相手の拳の間合いの内側から強打を見舞う。

打撃により吹き飛ばされたディロードは地面に倒れ伏した。


これは中国武術における『寸勁』と呼ばれる技術。

ゼロ距離から体のバネや体重移動などの身体操作により強烈な打撃を与える武術の基本技だ。

そもそも打撃というのは構えて、打ち出し、腕や脚が伸びきって速度が一番出た所で一番威力が出ると思われがちだがそうではない。


正しい打撃に距離など関係ない。
打撃とは四肢で撃つのではなく全身の質量をぶつけるものなのだ。

読んで字の如く『触れる所は全てが打撃』となりえるが、何も寸勁はそんな高尚なものなのではない。

戦いに身を置くものは、打てて当たり前のものなのだ。


それすら知らぬこいつは素人。

世界を破壊できる力を手に入れようが、あらゆる仮面ライダーの力を行使出来ようが……

俺から言わせれば、こんな奴は分不相応な手に入れた力を手に入れて粋がっているだけのお子様だ。



「情けねぇな……俺を倒すんじゃなかったのか?」

俺はディロードを煽るように奴の目の前にしゃがみこむ。

慣れない距離からの寸勁による打撃を受け続け既にグロッキーなディロード。

しかし上体を起こすと……



「うるせぇっ!!」

俺に一撃を見舞おうと拳を振るう。
頭に血が登ったようであり、その拳は非常に大振りなものであった。

その拳を軽く脚で払い拳の軌道を反らしてやるとそのまま倒れ伏す奴の体を椅子がわりにするかのように座ると奴の後頭部を掴み、



「キャンキャン吠えんなって」


そのまま奴の顔面を地面に叩きつけた。
当然掌底を起点とし寸勁を叩き込むという形でだ。

奴は「うっ……」といううめき声と共に力なく倒れこんだ。


まさかこれで終わりか?とは思ったが、むしろ終わってくれた方が助かる。

俺の敵は世界の核となる仮面ライダー全てだ。
世界が約80億あるのなら、核となる仮面ライダーも80億人いることになるのだ。

途方もない数だ。
それこそちっぽけなひとりの人間の尺度では無限大にすら感じてしまう程だ。

それに覚醒したハルシオンの力により、この世界と融合することで並行世界が加速度的に消滅しているとはいえ、まだまだ誤差の範疇だ。


だけども、なんとしても成し遂げなければならないのだ。

たとえ途方もない数の世界を滅ぼすことになろうとも。
80億の世界にそれぞれ住む80億の人間を犠牲にしようとも。


俺が……俺たちが望む新世界の為に成し遂げなければならないのだ。
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