Episode.12 REPOSE

「んー、合ってると言えば合ってるし違うと言えば違うかもな」

「どういうこったよ?」

「それは俺が説明してやるよ」


声がした方を振り向けば、そこにいたのはルーシー曰く“大変な目に遭ってた”はずの勇騎さん。

絶対安静だって聞いてたけど大丈夫なのだろうか。


「勇騎さん、体は大丈夫なのかよ?」

「ルーシーが勝手に言ってただけだ……。
それに、まぁどう考えても寝てる場合じゃないからな……」

まぁ、勇騎さんはいろんな意味で頑丈そうだしそこまで心配はしてなかったさ。
でも、なんか違和感を感じる。

なぜか、こちらと視線を合わせようとはしないのだ。
ていうか視線を反らしてくる。

俺なんかやったっけ?とも思ったが気にしたって仕方ない。
話を続けることにした。


「それで岩石大首領が何体もいるみたいな話だけどさ……どういうことなのさ?」

「その話の前だけどな、お前“リ・イマジネーション”って知ってるか?」

「あー……なんだっけ……?」


そういや月音たちの世界に迷いこんだときにちょっと聞いたような、いないような……。
たしか『再想像』とかそんな意味だったような気がするけど。



「まず大前提としてな、パラレルワールドは分かるな?」

「もちろん。ざっくり言えばひとつの世界から分岐して生まれた別の世界だよな?」


なんか昔、本で読んだことがある。
ひとつの世界から分岐しそれに並行して存在する別の世界。
言葉で説明すればこんな感じだが、なんとなく取っつきづらいと思う。

例えば俺の目の前にマグカップがあり、それを落として割ったとする。

そうなったらそれはこの世界の俺にとっては当然『マグカップが落ちて割れただけ』に過ぎない。

しかし、『マグカップを落とさなかった』または『マグカップが割れなかった』未来だってあったかもしれないという考え方も出来る。

そして『マグカップが落ちなかった』『マグカップが割れなかった』という“あり得たかもしれない未来”こそが、この世界のパラレルワールドとなるという訳だ。

そしてそれぞれの世界は互いに干渉することなく別々の時間を続行していく……というわけだ。



「そうだ。

そして無数に生まれたパラレルワールドの中で仮面ライダーは誕生し世界を護ってきた。
俺も、理緒や将なんかもその無数にあるパラレルワールドのひとつからやってきた。

今俺たちがいるこの世界をくまなく探せば『この世界の呼道勇騎』とか『この世界の村瀬理緒』『この世界の赤津将』と出会えるかもしれん。

つまり無数にあるパラレルワールドにそれぞれ呼道勇騎・村瀬理緒・赤津将にあたる人物がいて、その中には俺たちと同じようにリベル・ローズ・クロスに変身する奴もいるってこった。

……ここまではいいか?」


「おう。パラレルワールドって異世界じゃなくてあくまでも『あり得たかもしれない可能性の世界』だもんな」


当然のことだが、俺たちの世界のように『仮面ライダーが存在する世界』もあれば『仮面ライダーが存在しない世界』もある。

そして『仮面ライダーが存在する世界』だけでも『九郎ヶ岳遺跡で棺が発掘される』『不死の生命体の封印が解き放たれる』『渋谷に隕石が落ちる』等々、世界の行く末を大きく変えるような事件の発生の有無により誕生する仮面ライダーたちも大きく変わってしまう。

そして同じ人物が変身する同じ仮面ライダーの世界でも、選んだ選択によって無数の並行世界が生まれてしまう。

すなわち並行世界は仮面ライダーの数どころか無限に存在するということになる。

一般的なパラレルワールドの概念がすべて正しいと仮定するのなら、な。


「お前の言うようにパラレルワールドはあくまでも異世界ではなく分岐した可能性の世界。

だが、パラレルワールドを成立させた要素が大きく異なればそれだけ本来のものからかけ離れた似て非なる並行同位体が産み出される。

それが“リ・イマジネーション”って呼ばれる存在だ」


「なるほどね……。
『バタフライエフェクト』なんて言葉があるくらいだ。
本来の世界と異なる要素が多ければ多いほど違うものになってしまうってことか……」


えーっと、話をまとめると……。

例だけど椿勝利の変身する仮面ライダーヴァルツがいる世界があって、そのヴァルツの世界の他にもうひとつのヴァルツの世界が誕生したとしよう。

元のヴァルツの世界を構成する要素はざっくりと分けてふたつ。

ひとつめは『変身する仮面ライダーは仮面ライダーヴァルツである』こと。
もうひとつは『仮面ライダーに変身するのは椿勝利である』ことだ。

もうひとつのヴァルツの世界が誕生した条件が『椿勝利ではない誰かが仮面ライダーヴァルツに変身した』というものだった場合、ひとつめの条件は満たすが、『変身するのは椿勝利』というもうひとつの条件を満たすことが出来ない。

蝶の羽ばたきひとつで最終的には地球の反対側で嵐を起こす……なんて言われているくらいだ。
重要なウェイトを占めるふたつの条件を満たせないとなると、元の世界からの変化は非常に大きなものになるのは想像に難しくない。

つまり、その時点で『本来の仮面ライダーヴァルツとは似て非なるもの』が誕生することとなる。

そして、その本来の歴史に存在するものと大きく異なる存在をリ・イマジネーションと呼ぶのだそうだ。



「そうだな……。
そして4000mの方の岩石大首領も過去の世界に向かった『とある存在』がメダルを一枚落とした結果、歴史が大きく歪んでしまって生まれたんだ」

「なんだそりゃ」

「お前も言ったろ?
バタフライエフェクト……蝶の小さな羽ばたきひとつで最終的に地球の裏側で嵐を起こすこともあるって。

過去の世界でメダルひとつ落とした結果、世界のひとつやふたつ容易く破滅させることが出来る存在が生まれるなんてことはザラに起こるさ」

「マジか……」

あー、でもメダルか……。
そういや月音と一緒に戦ったあのネコみたいな怪人もメダルを体から出してたような……。

もしかしてメダルってあの怪人たちのメダルのことなのかもな。



「だから他の並行世界や別の時代に干渉することは本来はあっちゃならないんだよ」

「なるほどねー……」

リ・イマジネーションと呼ばれる存在についてなんとなくではあるが理解はした。

そして、今回リ・イマジネーションが話題に出たことで俺も個別で聞きたいことがひとつできた。



「それで勇騎さん。
その岩石大首領とあまり関係ないことなんだけどさぁ。

リ・イマジネーションでもなんでもいいけど……。


……ヴァルツってもうひとりいたりする?」

「……っ!」

ついでに、と軽い気持ちで勇騎さんに訪ねてみた。

そういえば最近戦ったエクスキメラに変身する奴らにもうひとりヴァルツがいるとかいないとか……そんな話をされたからな。

勇騎さんが知ってるはずもないだろうが、リ・イマジネーションの話ついでに聞いてみようと思っただけなのだ。

本当にそれだけ。


だが……勇騎さんは『もうひとりのヴァルツ』という言葉を聞いたとき、表情を強ばらせたのだ。

まるで何か恐ろしいものを思い出したかのように。


……隠していた何かを暴かれたかのように。
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