Episode.12 REPOSE

──???SIDE──

あれから何年たっただろうか。
組織が滅んで5年?いや違う。

それよりもずっと前だ。

当時俺たちが暮らしていた国じゃ貧困が社会問題となっててな、俺は娘と女房を養うためにジェネシスコーポレーションに身を売った。

『ボブ中野』なんて芸人みてぇな名前の男の手下になるのは気にくわなかったが、それで娘と女房を養えるなら……と俺は望んで人を捨てた。

富める者はより富み、貧しき者はより貧しくなる。
何もニホンだけの問題じゃない。

そんな俺を取り巻く世界で俺の家族を護れるってんなら、俺は人を捨てるし殺しだってやる。

そうやって意気込んで俺は家族と二度と会えなくなることを承知の上で怪物となった。


だが……そんな俺を嘲笑うように、俺の母国で戦争が起こった。

その戦争に巻き込まれ、女房と娘は死に俺一人だけがこの世界に残された。


それで……生きる気力すら失い、仮面ライダーとの戦いですら死にきれず、俺は今もここにいるって訳だ。

もう人としての自分の姿も、自分の名前も思い出せねぇってのに。



「……それでも俺にゃまだやらなきゃいけねぇことがある、か」


──ここは俺たちが根城にしている洞窟。

姫矢市の星葉区なんて場所にある俺たち似非人にゃお似合いの場所。


「おいたん!ねーえ!おいたんっ!」

「あぁ、わりぃ。ちょっと呆けてたぜ」

組織の隠れ家に響く明るい子供(ガキ)の声。
当然だが、人間のガキがこんな場所にいるわけもない。


俺に話しかけてきたのはカマキリの改造人間のガキンチョだ。

ジェネシスコーポレーション風に言えば『カマキリウーマン』か?

いや、ガキンチョに『ウーマン』はどうも似合わねぇ。
分かりやすく『カマキリガール』でいいか。


コイツはジェネシスコーポレーションが後期に開発した改造人間だ。

仮面ライダーの活躍により組織の存続さえ危ぶまれるようになり、開発陣が血迷った結果まだ5歳の年端もいかねぇガキを改造しちまったんだ。

女子供も見境もなく拐い、改造し戦力とした辺り組織の迷走ぶりが見て取れるようだ。


「アーニャ、おえかきした!」

「どれ、見せてみな。
……おぉ、うまいもんじゃねぇか」

「えっへん!」

画用紙に描いた絵を誇らしげに見せてくるカマキリガールの頭を撫でてやる。
娘が生きていれば、俺もこうして父親をやっていたのだろうか。

カマキリガールは、俺たちとは違い人間の頃の自分の名前は覚えているようだ。

どうやら『アーニャ』というのが本名らしいが、もうコイツも改造人間となって5年。
人間であればもう10歳になっているはずだ。
だが脳改造を含め全身に『不完全な改造』が施されており、元の人間の姿にも戻れやしない。

そして無茶な脳改造がたたりコイツの心は改造された5歳のままで止まっている。


親にも会わせられない。
人間のなかでも生きていけない。

それならば俺がコイツの親父になってやるってのも考えたんだがな……。



「ピッグマン様」

俺の思考を遮るように部下の戦闘員が声をかける。

……ちょうどいい。余計なことを考えずにすんだってもんだ。

おそらく、『作戦』の準備が整ったのだろう。


「各国から残党として戦い続けていた同志が集結致しました。
『スルト作戦』実行可能です!」

「了解した……!」


『スルト作戦』。

その作戦名は北欧神話に登場する神々に敵対した炎の巨人『スルト』に由来する。

本作戦は陽動班と救出班に別れて実行する。
陽動班は願葉区南方よりライダージュエルから召喚した岩石大首領によって姫矢市願葉区と姫矢コーポレーション本社を襲撃し、その混乱に乗じて救出班が姫矢市郊外の刑務所に収監されたジェネシスコーポレーション社長『ボブ中野』を救出・脱獄させる……というものだ。

当然キングダークによる襲撃によって姫矢の連中も、仮面ライダーたちも厳戒態勢を敷いているだろう。

紛い物とはいえ岩石大首領クラスの『切り札』を持ち出さなければ対等に戦えないほどに仮面ライダーの力も強くなっている。

故に岩石大首領は“切り札”ではなくあくまで“囮”。


桐山毅たちには『切り札』と言ったが、ありゃブラフだ。
なんせ岩石大首領のジュエルもあのジルとかいうガキが寄越してきたモンだからな……そこまでアテには出来ねぇさ。



「さて、と……集まった奴らを集めな」

「ハッ!」

まもなく作戦の決行の時間だ。
その前に士気を高めるための演説といこうか。

俺は戦闘員にこの隠れ家に集結した同志たちをこの場に集めるように命じた。
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