Episode.11 DESPAIR

──ANIMAL SIDE──

「ケッ……キングダークがやられちまったか」


採石所の方向から昇る爆炎。少し遅れて響く爆音。

どうやら勝利はあの巨大ロボの撃破に成功したようだ。



「勝利の奴がやったみたいだな……!」


「使い勝手はまぁまぁってとこか」


今度は俺たちの番……と言いたいところだが、勝利が巨大ロボットと戦っている間もピッグマンとの戦闘は続いていたのだが、2対1でもこちらが押され気味。

正直、俺もクロスもこれ以上戦闘が続けば無事ではすまない。



だが……。



「今回はここまでか……」


爆炎を見届けると、ハットを目深に被り俺たちに背中を向ける。



「待て!……くっ」

「桐山っ!」

背中を向けたピッグマンを追いかけようとするが、蓄積されたダメージから膝をついてしまう。



「今回は見逃してやるよ、仮面ライダー共……。

だが、まだ俺たちにゃ切り札がある」


奴の手の中で宝石のようなものが光る。
一見ただの綺麗な宝石だが、その宝石からは息が詰まるほどの禍々しいオーラを感じる。
宝石に封じ込められた『ソレ』を解放すれば世界を滅ぼすことさえ叶うような……。

現に宝石の中には岩石の体を持つ巨人の姿が確認できる。



「岩石大首領……!」


隣にいるクロスが宝石に封じ込められたその巨人の名を口にする。

岩石大首領。
名前は聞いたことがある。

昭和の時代、複数の組織を裏から支配し仮面ライダー1号をはじめとする栄光の7人ライダーと戦った謎の存在『大首領』。
その真の姿とも言われている姿であり、規格外の戦闘力を誇るとされている。

平成の時代にもその姿を現したと言われているが、大規模な被害が出たにもかかわらず、情報が殆ど残されていない。

改編された歴史の中での戦いであり、歴史の修正と共にその存在も闇に葬られたのだろうか。

俺自身、アルティメットアニマルの時空を超える力こそあるが殆ど使う機会もなく、その戦いにも参加出来ていない為真実を確かめる術はない。


だが今はそんなことよりも、奴がその岩石大首領の力を街中で使えば、これまでの事件とは比べ物にならないほどの被害を出すことになるのは確実だということだ。

奴からあの宝石(ジュエル)を奪わなければ。

だが、俺もクロスも疲弊しきっており体が動かない。



「……今から3日後。
俺たちは全国に散らばる残存兵力を纏め上げ、岩石大首領と共に姫矢市願葉区に総攻撃を仕掛ける」


「お前……!」


「姫矢グループからジェネシスコーポレーションの全てを取り戻し、組織を再編する。

当然お前たち仮面ライダーも、この街の一般市民も皆殺しだ。

止められるもんなら止めてみな……。

俺たちは真っ向からお前たち仮面ライダーを打ち破る。


───思う存分、闘(や)り合おうじゃねェか」


「くそっ……ふざけんな……ッ!」


何が『思う存分闘り合う』だ。


俺たちが望んでることはこんなことじゃないはずだ。

人としての人生も奪われ、組織もなくなって……それでも心のどこかで平穏を求めてた。


それはジェネシスコーポレーション残党のアイツらも、残党狩りを続けていた俺も同じだったはずだ。

俺も同じ『痛み』を知る改造人間だから分かっているつもりだ。


だけど、逃げる人たちを踏み潰して、焼き払って、怨念をぶつけて……。

そうでもしなきゃ俺たちは平穏を勝ち取れないっていうのか?


俺はクロスの制止も振り切り、ピッグマンに掴みかかる。


「よせよ。皺になるだろうが」

「……俺たちの戦いは終わったんだ。  

ジェネシスコーポレーションが壊滅して改造人間の技術が失われたその時に」

「残党狩りをやってた奴が言うことかよ」

ドンという爆発音にも似た衝撃音。
腹部に走る強い衝撃。

俺はその衝撃により奴のスーツを掴んでいた手を離してしまいその場で蹲る。


「まだ終わっちゃいねぇさ。

姫矢の連中が隠し持ってるジェネシスコーポレーションのテクノロジーがあるかぎり。
そしてこの俺様がいる限り永遠にな。


俺たちは俺たちの尊厳を取り戻す……それだけのこった」


「ま、待て……!」


再び踵を返し歩き去っていくピッグマン。
先程の駄目押しの一撃がトドメとなり、俺は奴を追いかけることも出来ずに視界が真っ暗になっていく。

駆け寄ってきたクロス……赤津将の声すら遠退いていく。


そして俺は消え行く意識の中で奴の背中を見つめることしか出来なかった。

その背中は……。

圧倒的強さを見せつけた男のものとは思えないほどに小さく寂しげなものであった。


(続く)
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