Episode.11 DESPAIR

「こいつ、空飛べねぇのかな……?」

ルーシーのおかげでビッグバンブレイカーの動かし方はわかった。
あとは一気に畳み掛け、キングダークを街から追放し人気のない採石場へ誘導し、そこでキングダークを処理する。

しかし俺が出来るようになったのはあくまでも『走って殴る』という動作だけ。

今のままでは『市街地での戦闘』は出来ても本来の目的である『採石場への誘導』は限りなく不可能だ。



『勝利さん、まずはコンソールのスイッチを“巡航モード”に切り替えてください』

「おう!」

『それから両足のペダルを踏みながら両手のレバーを開いてください』

「お、おう……おわぁっ!」

言われた通りに正面コンソールパネルの巡航モードのスイッチをオンにし、ペダルを思いっきり踏み、両側のレバーを外側に開くように倒した。

直後、重力から解き放たれたかのようにフワリと体が浮かんだような感覚を覚える。

少し遅れて背中からシートに叩きつけられるように強力なGが俺の体を襲った。


「っ………は、はやっ……!!」

ヴァルツのスーツを纏っていても尚、独り言を呟く余裕すら奪うほどに体を打ち付けてくる強烈なG。

モニター越しのキングダークが凄まじい速度で近づいてきているように錯覚してしまう。


無論、キングダークが近づいているのではない。

こちらがキングダークに肉薄しているのだ。
それも凄まじいスピードで。



「っ……!!」

このままじゃキングダークにぶつかる……!
そう思った瞬間、ビッグバンブレイカーは両腕を伸ばしキングダークを捕縛。

そのまま離陸するように市街地を離れ、空へ飛び立った。


コックピットに座り、簡単な操作をするだけの俺には体に叩きつけられる衝撃とモニター越しの光景でしかビッグバンブレイカーのとった行動を察することが出来ないが、ここまでは概ね俺の望んだ通りの行動をやってくれている。

あとはこのまま採石場まで連れていき、そこで毅さんたちと合流する。


『勝利さん。あとは両手のレバーをバイクのハンドルの要領で動かして目的地まで行けますよ!』

「……っ!わかった!
ルーシー、通信して毅さんたちに予定どおり採石場まで向かうように言ってくれ!」

『わかりました!』


ルーシーが通信を切ると、俺はペダルを踏みながら操縦桿を動かし、最短ルートで採石場まで向かう。

途中、キングダークがこちらの拘束から脱出するために攻撃を仕掛けるがビッグバンブレイカーの堅牢な装甲はびくともしない。

せいぜいコックピットが少しだけ揺れる程度。


こうして巨大ロボットで空を飛んでいて全く不安がないと言えば嘘になるし操縦にもかなりの集中力が必要になってくるが、格闘ゲームのキャラクターを操作する要領でこれだけのロボットを操作できるのは革新的だと思う。

たしかにこれなら子供でも動かせると思えるほど操作も簡単であり、なおかつ今までのヴァルツとは比べ物にならないほどのパワーを秘めている。

だけど正直、この形態を使用する機会は自ずと限定される……と思う。

というのも常に想定外の事が起こる戦いの場ではその状況に臨機応変に対応出来なければ死に直結する。

にも関わらずプログラムされた大味な動きしか出来ないのであれば、このロボットはたちまち棺となるだろう。

かといってヴァルツのスーツに内蔵された機能を応用して操縦桿を握らなくても頭で考えた通りの行動をこのロボットに取らせる……というのもおそらく不可能。

人間の脳みそでこのサイズのロボットを動かすにはその容量が物理的に足りなさすぎるのだ。
それこそ鳩の脳みそで人間の体を動かすようなもの。
ヴァルツのスーツの機能なり使って脳を拡張しようにも、これだけの巨大ロボットを動かせるだけの脳の拡張に使用者の脳が耐えられないだろう。

ヴァルツを作った人物はおそらく『ソレ』をわかっていたからこそ、ビッグバンブレイカーの操作系を今の形にしたんだろうさ。


だけど……ここまで来るといよいよヴァルツというライダーシステムが『何と戦うために作られたライダーシステム』なのかが分からなくなってきた。

基本形態のベーシックフェイズ、デュアルフュージョン形態のディアマンテエモーション、ワイルドローゼス、そしてビッグバンブレイカーとどの姿も一長一短があるとはいえ、明らかに過剰な戦力なのだ。
スペックもベーシックフェイズの時点で高すぎるし、デュアルフュージョンをすることでそのスペックはベーシックフェイズから倍以上にはね上がる。

“どれだけ技術が進歩しようとも『超えられぬ一線』と『超えてはならぬ一線』がある”とは俺の恩師が言っていた事なのだが、まさにその通りだ。

どれだけ力を手に入れても、人は生まれてから死ぬまでただの“人”でしかない。

力を手に入れても、その力を手懐けるだけの心の強さがなければただの獣(ケダモノ)に成り下がる。

俺もそうだ。
何度もアンゲロスへの憎しみに飲まれてしまっている。
現にコルプスレイザーを使っていた時は何度も“意識が遠退くような感覚”を味わっていた。

ヴァルツの力はコルプス以上。
にも関わらず、このまま簡単に力を手に入れ続ければきっと俺も……。



──いや、過ちを犯すのも他の誰かを救うことができるのも“人”なら、それを使いこなせるか否かも、手に入れた力をどのように使ってどのような結果をもたらすかも自分次第。

与えられたビッグバンブレイカーや理緒や勇騎さんたちから借りた力を使いこなせるかどうかは俺次第。


──そう信じたい。そう、信じさせてほしい。




「……まったく、俺に足りない頭使わせやがって……!」


さて、ウダウダ考えるのはこれでおしまいだ。

目的地の採石場をモニターに捉えたのだ。
障害物もなにもない空中での移動だったためか想定よりも早く到着できた。



『勝利さん!』

「皆までいうな、よっ!!」

ルーシーの言葉を遮り、俺はコンソールパネルのスイッチを戦闘モードに切り替え、両腕のレバーをおもいっきり押し込んだ。

するとモニター越しに映るビッグバンブレイカーの両腕は、しっかりと掴んでいるキングダークを地上目掛けて投げ飛ばした。

キングダークは採石場の乾いた大地に叩きつけられ、周囲に大きなクレーターを形成した。

……やっぱり思った通りだ。
プログラムされた動きしか出来ないという制約はあるとはいえ、その行動パターンの量はあらゆる状況を想定されているようで、その量も多種多様だ。
全身に備え付けられたカメラやセンサーの類いが自らの状況を判断し、コンピューター制御によって最もその状況に適した行動を取ってくれるようだ。

キングダークが地面に叩きつけられると、すかさずスイッチを巡航モードに切り替えスラスターをふかしながら安全に着地した。



『……もう、むちゃくちゃですよ』

「まっ、そういうなよ……!」

大地を震わしながら再び立ち上がるキングダーク。
モニター越しでその姿を捉えると俺は戦闘モードのスイッチに切り替え、操縦桿を握りしめた。


これで手筈は整った。

……あとはキングダークを処理するだけだ。
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