Episode.11 DESPAIR

はやく理緒と合流してキングダークを止めなきゃならない。

だけどなまじ実力も高く、こいつを放っておいてキングダークを止めにいくなんてことも出来ない。
だから……こいつとはここで決着をつける。

不意を突いて組みつくことに成功した。
あとは奴を無力化できる分のリヒトシュトロームを流し切るだけ。


そう思っていた矢先のことだ……。



《エクスライザーノヴァ!》


「「なっ!?」」


突如、どこからともなく鳴り響く電子音声。
こんな音声は日常生活では聞くことなどない。
十中八九これはライダーシステム……それもエクスライザーのガイダンスボイスだ。

案の定、俺の脳より早くライダーシステムがその攻撃を察知した。
俺は……いや俺たちは何者かに攻撃されているのだ。



「ぐっ……!!」

《ローズ!バースト!》
 

「あぁぁぁぁぁっ!!」


俺は咄嗟にその高速移動能力で、黒いライダーから離れ奴の攻撃を回避。

残されたあの黒いライダーは奴の攻撃をモロに喰らい生体装甲が砕け強制変身解除されてしまった。



「…んなっ……!」


「………っ」


あの黒いライダーに変身していたのは赤髪の女の子。
10代後半くらいの……それも俺たちと歳の差はほとんどないくらい。

少しキツい顔立ちをしているが、顔もまあまあ整っている。


俺は今までこんな女の子と戦ってたのか……!!


……いや、驚いてる場合じゃない。
赤髪の少女の視線の先を追うように顔を上げてみれば、そこにいたのはあの強烈な攻撃の主。
赤いペスト医師のような姿の異形……左手のカプセルホルダーからしてエクスキメラだ。

足が隠れるほどの赤いコート。
鳥を思わせる不気味な仮面。
背中やコートの袖口から伸びる手術道具が繋がれた触手。
胸部のブラッドベゼル……。

今まで戦ってきたエクスキメラと比較してもかなり異質な存在である。



「貴様、どういうつもりだ……!」


「やれやれ。助けてあげたのに随分な言い草じゃないか。
彼の指示とはいえ、僕も何度も君のオペなんかしてられないんだよ……」


赤髪の少女が“ペスト医師”を睨む。
無理もないだろう。
助けてやったといいながら、攻撃を喰らったのは自分で、しかも強制変身解除までされてしまえばな。

しかし、口振りから察するに恐らく目の前のふたりは仲間。

俺は再び武器を構えた。
あの赤髪は戦えないとしても、ここから先はあの“ペスト医師”との戦闘になると踏んだのだ。

しかし……



「私はまだ「残念だけど潮時だね」


「お、おい!」


赤髪の少女の声を遮ると、彼女を米俵のように抱え“ペスト医師”は俺に背を向けた。
少なくとも“ペスト医師”の方は俺と戦う意図はないらしい。



「ホントにどういうつもりだよ!?」


思わず、米俵のように抱えられた赤髪と全く同じ言葉が出てしまった。
ソイツでもないけどこのペスト医師もどきが何を企んでいるのかが分からない。

いきなり赤髪ごと俺に襲いかかってきたと思ったら、今度はむしろ俺に有利な状況を作り出しているようにも見える。
今、奴に米俵のように抱えられている赤髪だってたしかに強かった。
ヴァルツの性能がなければ確実にやられていたのは俺の方だっただろう。

甘い考えだが、ここでこのふたりが撤退してくれればキングダークの元に行けるからな。



「事情が変わったのさ。
まさか君がその力を手にして、しかもそこまで手懐けているとはね」


「は……?」


「やれやれ……どうやら2人の“次代の王”が相まみえる日も近いのかもしれないね」


“次代の王”。
なんか聞き慣れない単語だ。

たしかにここ数日何人かが『俺以外のヴァルツ』が存在するような発言をしていたりはするけど、それと何か関係があるのか?


うーん……。

そもそも仮面ライダーで“王”って何さ?

仮面ライダーってのは仮面被ってバイクに乗るから『仮面ライダー』な訳であって、そこに王様だとか家臣だとかそんなファンタジーじみた要素なんてあるわけないと思うけど……。


そうやってひとりで思考を巡らせていると“ペスト医師”が背を向けているのに気がついた。




「お、おい!」

反射的に“ペスト医師”を呼び止めてしまう。

アイツに戦う意志があろうとなかろうと、エクスキメラである以上来栖さんたちの一味であることは間違いない。


でも何故だろうか。
『この男は俺たちに危害を加えるような奴じゃない』、なぜかそんな気がするんだ。


甘い考えなのは分かる。
……いずれにしてもこいつには聞きたいことが山ほどある。
ヴァルツのことも、それからノエルのことも全部。
おそらくコイツも何かを知ってるはずだ。



「悪いが僕は忙しいんだ。
それに君も僕と話している暇なんてないんじゃないのか?
このままじゃあの巨人にこの街は破壊されてしまうよ?」


「それは………」


「ほら」


去ろうとする“ペスト医師”が何かを投げ渡してきた。
俺は反射的にそれを受け取り、投げ渡したものを見てみることにした。

手のなかにあったのは………



「ライダー……カプセル?」


そう。ライダーカプセル。
それもご丁寧に2本も用意されている。

しかし、カプセルに描かれていたライダーは俺の仲間たちのライダーのどれでもなく、ロボットのような姿をした見たことないライダーだった。




「なんだこれ?ロボット?」


「これであの巨人と戦えるはずだ」


共鳴するかのように2つのカプセルが光り輝く。
これはデュアルフュージョン可能である証。
そのロボットみたいなライダーたちのカプセルでデュアルフュージョンすればキングダークと戦える。
どうやら“ペスト医師”の言葉は嘘ではなさそうだ。

だけど、コイツが俺を助けることでなんのメリットが得られる?
『危害を加える存在じゃない』という甘い考えは捨てろ。
俺はコイツらを……この街の大人を信じちゃならないんだ。
それは骨身に染みて分かってるつもりだ。


しかし……




「ここは任せるよ……勝利」


「!?」


奴の言葉が、声色が俺の警戒心を解いていく。
いや待てよ……コイツ、なんで俺のことを知ってるんだ?

どこかで聞いたことのある口癖といい……もしかしてこのエクスキメラは……。



「……っ!!ま、待て!!」


刹那、暴風が俺の体を打ち付ける。
どうやら奴は赤髪を連れて本当に撤退したようである。

現に風が止む頃には“ペスト医師”の姿もあの赤髪の少女の姿もなかった。


残されたのは……2本のライダーカプセルとキングダークを止めるという使命だけであった。
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