Episode.11 DESPAIR

「このやろっ……!」

切り結ぶ刃と刃。
パワーは圧倒的にこちらが上だが、決定打に欠ける。

それもそのはず。
目の前の黒いライダーはあの赤い刀身でこちらのヴァルツクローによる斬撃を受け流しているのだ。



「……。

以前の私だったら捌ききれなかったな……」


俺を挑発するでもなく、奴はなにやら独り言を呟くとヴァルツクローを弾きがら空きになった胴体に掌(しょう)を繰り出す。


「やばっ……ぐっ!」

がら空きになった一瞬のタイミングだ。
こちらも防御が間に合わず、掌による一撃をモロに喰らってしまう。

掌による一撃がアーマーに守られていない脇腹にヒットすると黒いオーラが奴の掌と俺の脇腹の間で炸裂し、凄まじい衝撃が俺の体を駆け巡った。



「っ……!!」

発勁(はっけい)の類か?
いや、発勁は中国武術における基本の技術であり、間違っても神通力だとか超能力の類ではない。
当然こんなオーラみたいなものは出ない。

恐らくは奴の能力なのだろう。

アーマーのないところを狙われたが、ヴァルツはインナースーツも頑丈に作られているのか、戦闘不能になるほどの痛手ではない。

俺は間髪いれずに振り下ろされた奴の刃を真横に飛び退き回避すると、ライダーカプセルを起動した。


《ローズ!》《α!》

「やべっ……!」

奴の攻撃を回避しながらカプセルを取りかえる。

使うカプセルはローズとα。

戦術を考えるためにもとりあえず奴の手の内を見たい。

俺が現在変身できるヴァルツの派生形態のうち、手数の多さで圧倒するディアマンテエモーションより、足の速さに特化したワイルドローゼスならどんな攻撃が来ても対応できると踏んだのだ。

ヴァルツクローをエクスライザーに戻し、装填したふたつのカプセルをスキャンした。


ちなみに……今回は余裕がないので口上はナシだ。



「変身!」

《デュアルフュージョン!ヴァルツ!ワイルドローゼス!》

《託された祈り!揺るがぬ誓い!
今こそ悲しみの雨を断ち切れ!》

奴の刀を左腕の装甲で受け止め、右手でエクスライザーのトリガーを引くとヴァルツ・ベーシックフェイズの鎧は赤いカラーリングのヴァルツ・ワイルドローゼスのものへと姿を変えた。



「はっ!!」

俺はすかさずワイルドローゼスの力で高速の世界へと突入し、間髪入れずにヴァルツクローによる斬撃を敢行する。


「っ……!」

流石の奴も防戦一方となっており、刀を盾がわりにしてこちらの攻撃を防いでいる。

やはり奴は手練れ。
防戦一方にはなっているものの、高速移動中の敵の攻撃に対応して、こうして攻撃を防いでいるのだから。

やはり油断は出来ない。
一気に決めないとこちらがやられてしまう。

追撃するべく更に加速しようとした瞬間、奴も動き出した。



《BEAN!》

奴が取り出したのはUSBメモリのようなアイテム。

たしかこれは勇騎さんや将さんがその力を借りている仮面ライダーWが使っているアイテム……『ガイアメモリ』だっけか。


奴は俺の攻撃を受け流すと右腰に装着された機械にガイアメモリを装填した。


《BEAN!MAXIMUM-DRIVE!》

ガイダンスボイスと共に現れる巨大な枝豆の木。
いや空豆か?

て言うか空豆?なんで?

一瞬そのシュールな光景に呆気にとられてしまう。

しかし、油断は出来ない。



「行け」

巨大な空豆の木を模した砲台から大量の豆型弾丸が放たれた。


「嘘だろっ!!」

『豆の木砲台』が火を吹き、大量の空豆弾丸が吐き出される。

その様はさながら巨大なマシンガン。


弾速も連射速度も速い。とにかく速いのだ。

そしてその威力もアスファルトを貫通するほどにはある。


だが取り回しはそこまでいいという訳でもないようで、何もないところに出鱈目に撃っていることすらあったため回避には苦労しなかった。

ただ、攻撃に巻き込まれ建物が倒壊した箇所が何ヵ所かあったがだからといってあれを受け止めるだけの余裕はない。コイツとの戦いが終わったら次はキングダークを処理しなきゃならない。
そこはもう、致し方なしだ。


だが、問題はここからだ。



「ふっ……これで終わりだと思ったか……?」


「ん?うわっ!」


突如として俺の足元から伸びる豆の木。
地面にめり込んだ豆型弾丸が発芽したのだ。

俺は慌てて飛び退いた。


しかし………!



「なっ!?……くっそ!」


飛び退いた先々に豆型弾丸が撃ち込まれた跡があり、それを視認した途端豆の木が発芽・成長し俺の行く手を阻む。

ヴァルツクローを地面に食い込ませ無理やり方向転換し、避けると俺は建物の路地裏へと入った。

そこは豆の木弾丸を受け、一部倒壊したビルとビルの隙間だ。
間違いなく、ここにも豆型爆弾が撃ち込まれている。

だが咄嗟に豆の木に捕まるのを避けるとするなら、ここに逃げ込むしかなかったのだ。


だけど、このまま奴の思惑通りに行く気もない。



「……やってやるよ……!」


直後、俺の足元から発芽した豆の木。

俺は豆の木をバク転で回避すると伸びてきた豆の木にヴァルツクローを突き立て、豆の木が成長するスピードを利用して一気に上空へ舞い上がる。

そして見晴らしのいい上空まであがると、奴の姿を見つける。



「はぁぁぁっ!」

そして豆の木を足場にして、おもいっきり蹴ることで奴に一気に肉薄しクローを振り下ろした。



「甘いな」

「!?」

しかし、これも奴の思う壺。

奴は一気に俺との距離を取り、クローを回避する。

宙を切り、地面に突き刺さるヴァルツクローの刀身。


「マジかっ……!」

しかも、先ほどまで奴がいたのは豆型弾丸が重点的に撃ち込んだ場所だ。

まさか、弾丸をやたらと外していたように見えたが……“俺を罠にハメる”ためにわざとやってたってのかよ。



「くそっ!」

奴の目的に気付き、ヴァルツクローを引き抜いた反動を利用して退避を試みたがもう遅い。

俺を取り囲むように四方八方から無数の豆の木たちが一斉に発芽し、成長する。


さらにそれらの豆の木がドームのように俺の頭上を覆った。
そこから俺を押し潰さんと豆の木のドームが急速に狭まっていく。


このままでは……文字通り押し潰されてしまう。



「さぁ……絶望を受け取れ……!」

豆の木ドーム越しに奴の声が聞こえてくる。
抑揚こそ少ないが、恐らく勝ち誇っているんだろうな。


たしかにこのままでは、俺も殺されてしまう。

だけど……



「このまま死んでたまるかよッ!」
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