Episode.11 DESPAIR

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「ぐっ……マジかっ……!」

毅さんがあのアホ蜘蛛男と対峙するべく別行動になった後、俺たち……椿 勝利と村瀬 理緒はキングダークを採石場へと誘導するべく、作戦を続けていた。

しかし、作戦が予定調和に進むことなどあるわけもない。



「フニーッ!!」

俺たちの進行を防ぐかのように現れたのはジェネシスコーポレーション残党の戦闘員たち。

ドンキのコスプレセットにありそうな『THE 戦闘員』って感じの安い覆面に安っぽいスーツに身を包んだという出で立ちだが、こんなみすぼらしい装備でライダーに挑むしかないというのだから哀れに思えてくる。

だからといってコイツらに同情はできない。

コイツらを野放しにすれば、次は他の誰かが犠牲になる。
それにキングダークだっていつまでも市街地で暴れさせたまま……という訳にもいかない。


「邪魔すんな!!」

ヴァルツガンをこちらに向かってくる戦闘員たちに向け、トリガーを引く。

ヴァルツガンから放たれる光弾が戦闘員たちを貫いた。


「「フニーッ!!」」

光弾を受けて吹っ飛ばされた戦闘員たちは機能停止したように動かなくなるとそのまま泡となって消える。

ヴァルツガンのエネルギー球には放った相手を腐食させる効果などない。
恐らくあの戦闘員の体に組み込まれた何らかの装置が作動したのだろう。


機密保持の為……ってか?



「エグいこと考えやがる……」

こいつらが毅さんの言う改造人間なのか、それとも培養されたクローンのようなものなのかは俺には判断がつかない。

だけどいずれにしてもこいつらを見逃す訳にはいかない。


たとえ元・人間だとしても今は怪物。

『怪物となった人間を元に戻せるチカラ』があるのなら別なのかもしれないが、生憎俺はそんなチカラなど持ち合わせてはいない。


だから……その命を奪う覚悟は出来てる。

こいつらが他の誰かを殺す前に。
こいつらが自分の大切な人を殺すその前に。

それは、なによりもこいつらが一番望んじゃいない。


……だから俺が介錯してやる。
そして、その責任は俺が背負うんだ。



《エクスライザーショット!》


「はぁっ!!」


ヴァルツガンの銃口に膨大な量のエネルギーが蓄積されていく。

ヴァルツガンを頭上で構え、トリガーを引けば巨体なエネルギーの塊が頭上に発射される。


そして、ある程度の高さでエネルギーの塊が弾ければ、それが無数のエネルギー弾の雨となり、戦闘員たちに降り注ぐ。



「「「フニーーーーーッ!!!」」」

エネルギー弾の雨が戦闘員たちを貫き、その体を焼き尽くす。

戦闘員たちのなんとも間の抜けた断末魔が響き渡る。


“これ”もおそらく機密保持の類い。

多分、脳に細工を施して自由に会話出来なくさせているんだ。

こいつらを作ったジェネシスコーポレーションは様々な事業を展開してきた世界有数の大企業だった。
それこそ俺たちですら知ってるくらいには、商品のCMを打ち出していた。

そんな世界有数の大企業が社会の裏側から世界征服をするために使っていたのが改造人間であり、末端の戦闘員レベルの改造人間から組織の情報が漏えいを懸念し、対策するのは当然のこと。

こいつらは所詮は使い捨ての駒。
機密保持の為の自爆装置が搭載されていたり、脳に細工を施されていてもおかしくないということだ。


「ちっ………」

偽物のようなものだが、俺だって“仮面ライダー”だ。
人を襲う悪い怪人を倒して人や街を護った。
当たり前のことをやった。

それなのに、毎回なんとも後味が悪い。

アンゲロス狩りだってそう。
憎くて仕方ないはずなのに。

あんな奴ら死んでもいいって思ってるはずなのに。 

同情なんてするはずもないのに。

奴らを殺せば殺しただけスッキリするどころかモヤモヤしていく。
罪悪感に押し潰されそうになる。


──俺は一体どうしたいんだ?




「……勝利くん!上ッ!!」


「なっ!?」


後ろに載せていた理緒……もといローズが俺の肩を叩いた。

頭上をみてみれば、黒い影が俺たち目掛けて突っ込んでくるのがわかった。


俺は慌てて、バイクのハンドルを切り黒い影の攻撃を避けた。


刹那、俺たちのすぐ側で響く爆音。爆風。

土煙が舞い上がり、俺たちの視界が遮られる。


俺たちは慌ててバイク……もといヒメを停車させると飛び降りた。



「くそっ……キングダークをどうにかしなきゃなんねぇのに……今度はなんだ……?」



「……よく避けたじゃないか。

『その姿』は伊達じゃないということか」


土煙が晴れ、その中から姿を現す。

黒いボディに赤い複眼。
しかしヴァルツとは異なり、全体的にスマートな印象を受ける。

肩と胸には金色のライン。
Wを象ったシンプルな角。
見た目だけなら将さんの変身するクロスの合体元となった仮面ライダーダブルや、その派生の仮面ライダージョーカーに似ている。

そして最も目につくのはその体に纏うマントとその手に握られた赤い刀身の剣。



「なんなんだ……!?」


「特訓の成果を試させてもらう……」


──目の前の黒いライダーから筆舌に尽くしがたい殺気を感じる。
どす黒くて重い……そう、真っ暗な水の底に引きずり込まれるようなそんな感覚。

敵はおそらく手練れ。
まともにやり合って勝つのは難しいのはこうして対峙しているだけでわかる。

だけどキングダークや戦闘員も放っておくわけにはいかない。

状況は絶望的。
だが、リスクは高くても取る行動はひとつだ。


《クローモード!》


「……理緒」

「キングダークは任せて」

「わかった……俺もすぐに追い付く」


ヴァルツガンをヴァルツクローへと変形させ構える。

そんな俺の意図を察したようで、ローズは再びバイクに股がるとキングダークを誘導しながら走り出した。


「いいのか?私相手に1対1で」

「いいも悪いも、あのデカブツどうにかしなきゃなんないんでね」


バイクが走り去ると、目の前のライダーは刀を構えた。
たしかあの刀はみたことがある。

月音と出会ってこっちの世界に帰ってきた頃にハマったガンバライジングのカードで。

たしかあの刀はシャドームーンの『サタンサーベル』。
世紀王とやらが持つことを許される『偉大なる剣』だ。

……しかし、そのサタンサーベルとは異なる部分がひとつ。
グリップエンドに当たる部分にオリジナルのサタンサーベルにはなかった複雑な機械が装着されている。
ちょうど何かアイテムを装填できそうなスロット……だろうか。
まさかサタンサーベルをそのまま強化するなどとは考えられない。

奴の剣はサタンサーベルによく似た別物なのだろうか。


──おっと、今はそんなことどうでもいいな。



「さぁ!俺色に染めるぜ……!」


「……ッ!!」


互いに地面を蹴り駆け出す。
スーツにより強化された脚力はアスファルトで出来た地面を大きく抉り、互いの距離を一瞬にして縮めた。



「「はぁぁっ!!」」

互いの命を刈り取るべく振るわれる刃。
それらがぶつかり合い、火花が迸る。


こうして文字通り戦いの火蓋が切って落とされた。
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