Episode.11 DESPAIR
──JILL SIDE──
「ありゃー……バレちゃったか……」
雑音と共に盗聴機から発せられる音声が再生されなくなった。
どうやらあのカエル顔、盗聴機に気づいた上に盗聴機を壊したようだ。
量子通信式のまだ世の中に出回ってないスゴいやつだったんだけどなー……。
まぁいいや仕方ない。
皆さんどーも、ジルです。
あれから逃げ帰るフリをして、近くの路地裏に隠れて父さんとカエル顔の会話を盗聴していた。
カメラまでは仕込めなかったから音声だけだったが、かなりいい情報を仕入れることができた。
それこそカプセルふたつと盗聴機を渡しても十分にお釣りが来るくらいには。
「それにしても、地下には一体何があるんだろうね………」
父さんとカエル顔の会話から得た情報を頭のなかで整理する。
まず、カエル顔の診療所には地下室がある。
その地下室へと入るためにはカエル顔が持っている特別なキーが必要であり、そのキーは盗聴機越しに聞こえてきた電子音声からプログライズキーだと解った。
そして……その地下室の奥には『何か』が封印されている。
その『何か』の正体は映像がない以上よくわからない。
ただ、『これ』だとか『使う』だとかというワードは聞き取れた。
すなわち地下に地下に封印されているものは無機質な『道具』だと想像できる。
──無論、これも想像の余地を出ないのだが。
「さて、そろそろキミたちにも動いて貰おっかな……」
僕は盗聴用に使っていたインカムをしまうと、背後に視線を映す。
「ようやく出番か、坊っちゃん。感謝するぜ……」
そこにいたのは、“人ならざるモノ”。
……否、“かつては人だったモノ”と形容するべきか。
遠目から見ればグレーのスーツとハットを着こなした小太りな男にも見えないことはない。
だが、スーツを着こなしているのは人……ではない。豚なのだ。
読んで字のごとく二足歩行の豚がスーツとハットを着ているのだ。
某アニメーションの主人公がそのまま映画館のスクリーンから出てきたようにすら思えるが、この目の前の豚は改造人間。
その名はシンプルに『ピッグマン』という。
ピッグマンは右の前足……ではなく右手のヒヅメで器用にハットを被り直す。
「あぁ……頼んだ」
「ありがとよ」
僕はポケットから取り出したジュエルをふたつ、ピッグマンに渡した。
ジュエルの中に宿っているのは『キングダーク』と『岩石大首領』。
どちらもかつて仮面ライダーを苦しめた強敵だ。
ピッグマンはジュエルをそのヒヅメで受け取ればそれをスーツの上着のポケットにしまった。
それにしても……本当にシュールな光景である。
しかし、こんな姿にされた挙げ句、人間社会を追放されたとなると哀れにも感じてしまう。
しかも仮面ライダーの活躍で組織という居場所すらもうないのだ。
『人類の自由のため』と意気込むのはいい。
だけど、その『人類』という枠組みには『かつて人間だったもの』は含まれないようだ。
自ら望んだものも、やむを得ず組織に与するしかなかったものも、望まぬままに改造人間にされたものもいる。
それが改造人間の実態だ。
だけど……改造人間だから、組織の一員だから。周りと違うから。
そんな理由で人間社会から追放され、仮面ライダーの手で葬り去られる。
……結局の所、“力”の強さなどどうでもいい。
多数派こそが強者であり、少数派は弱者なのだ。
この世界で弱者となった改造人間たちは誰にも理解されずに迫害され続けるか、自分達を迫害した強者たちを呪いながらの垂れ死ぬしかない。
それならば……こういう『答え』を出すのも納得だろう。
「あとこれも」
そしてボクはピッグマンにアタッシュケースを手渡した。
ピッグマンがそのケースを受け取り、ケースの蓋を開けるとそこに入っていたのはエクスライザーとふたつのライダーカプセル。
以前に……というかつい最近まで組織に所属していた奴に宛がわれていたものを僕がコッソリと回収していたものだ。
「うまく役立ててくれよ?」
「あぁ、コイツはありがたく使わせてもらうぜ」
ピッグマンはライダーカプセルとエクスライザーを受け取ると踵を返す。
奴の向かう先にはジェネシスコーポレーション残党の改造人間たちが待ち構えている。
ドーパントやゾディアーツ、そしてボクたちのエクスキメラなど、何の力も持たぬ人間ですら手軽に怪人となれるアイテムが流通した今となってはコイツらはただの時代遅れの改造人間たち。
人間としても人ならざるモノとしても満足に生きられぬただの『弱者』。
……だからといって同情する気などない。
僕には僕の戦う理由がある。
そのためにコイツらにも手駒になってもらう。
だけど………
「ねぇ!
……僕たちの組織に来ないかって聞いたら、君はどうする?」
何を思ったのだろうか。
僕は仲間と共に戦地に赴こうとする彼に声をかけていた。
僕は彼を仲間にしたいのだろうか。
それは分からないけど。
「へっ……俺は俺の信念(カセギ)でしか戦わねぇよ」
「戦った所で豚は豚だろうに……どうせ居場所だってないんだろ?」
「ガハハハハハハ……ちげぇねぇや。
だがな、坊っちゃん。
心(ココ)で戦わねぇ豚はただの豚だ。
そんな奴ァ、ローストポークにしちまえ」
「………」
「どうせ豚でいるしかねぇなら、イカした豚でいてぇのよ……」
そしてピッグマンは帽子を深く被り直し、戦地へと赴いていく。
どれだけ見た目はシュールでも、この男の背中は『覚悟を決めた男の背中』。
僕はその背中をただ黙って見守ることしか出来なかった。
「ありゃー……バレちゃったか……」
雑音と共に盗聴機から発せられる音声が再生されなくなった。
どうやらあのカエル顔、盗聴機に気づいた上に盗聴機を壊したようだ。
量子通信式のまだ世の中に出回ってないスゴいやつだったんだけどなー……。
まぁいいや仕方ない。
皆さんどーも、ジルです。
あれから逃げ帰るフリをして、近くの路地裏に隠れて父さんとカエル顔の会話を盗聴していた。
カメラまでは仕込めなかったから音声だけだったが、かなりいい情報を仕入れることができた。
それこそカプセルふたつと盗聴機を渡しても十分にお釣りが来るくらいには。
「それにしても、地下には一体何があるんだろうね………」
父さんとカエル顔の会話から得た情報を頭のなかで整理する。
まず、カエル顔の診療所には地下室がある。
その地下室へと入るためにはカエル顔が持っている特別なキーが必要であり、そのキーは盗聴機越しに聞こえてきた電子音声からプログライズキーだと解った。
そして……その地下室の奥には『何か』が封印されている。
その『何か』の正体は映像がない以上よくわからない。
ただ、『これ』だとか『使う』だとかというワードは聞き取れた。
すなわち地下に地下に封印されているものは無機質な『道具』だと想像できる。
──無論、これも想像の余地を出ないのだが。
「さて、そろそろキミたちにも動いて貰おっかな……」
僕は盗聴用に使っていたインカムをしまうと、背後に視線を映す。
「ようやく出番か、坊っちゃん。感謝するぜ……」
そこにいたのは、“人ならざるモノ”。
……否、“かつては人だったモノ”と形容するべきか。
遠目から見ればグレーのスーツとハットを着こなした小太りな男にも見えないことはない。
だが、スーツを着こなしているのは人……ではない。豚なのだ。
読んで字のごとく二足歩行の豚がスーツとハットを着ているのだ。
某アニメーションの主人公がそのまま映画館のスクリーンから出てきたようにすら思えるが、この目の前の豚は改造人間。
その名はシンプルに『ピッグマン』という。
ピッグマンは右の前足……ではなく右手のヒヅメで器用にハットを被り直す。
「あぁ……頼んだ」
「ありがとよ」
僕はポケットから取り出したジュエルをふたつ、ピッグマンに渡した。
ジュエルの中に宿っているのは『キングダーク』と『岩石大首領』。
どちらもかつて仮面ライダーを苦しめた強敵だ。
ピッグマンはジュエルをそのヒヅメで受け取ればそれをスーツの上着のポケットにしまった。
それにしても……本当にシュールな光景である。
しかし、こんな姿にされた挙げ句、人間社会を追放されたとなると哀れにも感じてしまう。
しかも仮面ライダーの活躍で組織という居場所すらもうないのだ。
『人類の自由のため』と意気込むのはいい。
だけど、その『人類』という枠組みには『かつて人間だったもの』は含まれないようだ。
自ら望んだものも、やむを得ず組織に与するしかなかったものも、望まぬままに改造人間にされたものもいる。
それが改造人間の実態だ。
だけど……改造人間だから、組織の一員だから。周りと違うから。
そんな理由で人間社会から追放され、仮面ライダーの手で葬り去られる。
……結局の所、“力”の強さなどどうでもいい。
多数派こそが強者であり、少数派は弱者なのだ。
この世界で弱者となった改造人間たちは誰にも理解されずに迫害され続けるか、自分達を迫害した強者たちを呪いながらの垂れ死ぬしかない。
それならば……こういう『答え』を出すのも納得だろう。
「あとこれも」
そしてボクはピッグマンにアタッシュケースを手渡した。
ピッグマンがそのケースを受け取り、ケースの蓋を開けるとそこに入っていたのはエクスライザーとふたつのライダーカプセル。
以前に……というかつい最近まで組織に所属していた奴に宛がわれていたものを僕がコッソリと回収していたものだ。
「うまく役立ててくれよ?」
「あぁ、コイツはありがたく使わせてもらうぜ」
ピッグマンはライダーカプセルとエクスライザーを受け取ると踵を返す。
奴の向かう先にはジェネシスコーポレーション残党の改造人間たちが待ち構えている。
ドーパントやゾディアーツ、そしてボクたちのエクスキメラなど、何の力も持たぬ人間ですら手軽に怪人となれるアイテムが流通した今となってはコイツらはただの時代遅れの改造人間たち。
人間としても人ならざるモノとしても満足に生きられぬただの『弱者』。
……だからといって同情する気などない。
僕には僕の戦う理由がある。
そのためにコイツらにも手駒になってもらう。
だけど………
「ねぇ!
……僕たちの組織に来ないかって聞いたら、君はどうする?」
何を思ったのだろうか。
僕は仲間と共に戦地に赴こうとする彼に声をかけていた。
僕は彼を仲間にしたいのだろうか。
それは分からないけど。
「へっ……俺は俺の信念(カセギ)でしか戦わねぇよ」
「戦った所で豚は豚だろうに……どうせ居場所だってないんだろ?」
「ガハハハハハハ……ちげぇねぇや。
だがな、坊っちゃん。
心(ココ)で戦わねぇ豚はただの豚だ。
そんな奴ァ、ローストポークにしちまえ」
「………」
「どうせ豚でいるしかねぇなら、イカした豚でいてぇのよ……」
そしてピッグマンは帽子を深く被り直し、戦地へと赴いていく。
どれだけ見た目はシュールでも、この男の背中は『覚悟を決めた男の背中』。
僕はその背中をただ黙って見守ることしか出来なかった。