Episode.11 DESPAIR
地下室の中の冷えた空気と、我々の間に流れる沈黙。
そしてライトに照らされた培養槽の中で蠢くベルト型デバイスのケーブル。
このベルトには名前などない。
ただ他と違うのは、このベルトは『生きている』ということ。
いや、正確にいえばこのベルトの中に閉じ込められているものが生きているのだが。
何故こんなものが生まれたのかは僕にも分からない。
だが、コイツがひとたび解き放たれればこの世界どころか、この世界と同時に存在する並行世界たちもたちまち消滅してしまう。
そして、ジニアの作ろうとしている新世界すらもその脅威に晒されるだろう。
だから我々はコイツをベルトに封じた。
そうすることしか出来なかった。
道は違えど、僕もジニアものコイツに対する見解は同じ。
──僕たちはコイツの存在を隠し続ける。
誰にも悪用させないために。
世界の終焉を避けるために世界が終わるその瞬間まで。
「……ジニア」
「なんだ?」
沈黙に耐えられなかったのか、つい僕はジニアに話しかける。
「君は新たな世界を作る為に今ある世界を全て破壊する……そう言ったね」
「あぁ」
「それならば何故君も僕に協力するんだい?
コイツを解き放てばそれもすぐに終わるだろうに」
長年の疑問をぶつける。
新世界を作ると言いながら今ある世界を破壊し、世界を破壊すると言いながら世界を容易く破壊できるコイツを使わずに封印し続ける。
病的なまでに合理性ばかり求めるジニアなら、コイツを解き放って全ての世界を破壊してその後に新世界を作ってしまう……なんてこともやりかねないと彼をよく知る人物たちなら口を揃えてそう言うはずだ。
しかし、彼は最短ルートで目的を達成できる方法を知りながら決してそれだけはしなかった。
その理由がどうしても彼の口から聞きたかったのだ。
「俺の望むのは世界の破壊じゃない……。
平和な新世界だ」
「……」
“平和な新世界”。
今のこの男から出てくるとは到底思えないワードだ。
しかし、この男が出任せで言っているとは到底思えない。
「ひとつふたつ世界を融合させたくらいじゃ生まれやしない。
他の並行世界からテクノロジーや外来種が流れ込むなんてザラだからな……
だからこそ文字通り全ての世界をこの世界に喰わせてようやく完成する。
争いのない新世界が。
仮面ライダーも怪人も、それらに近い存在も何もかもが虚構となった平和な世界が」
並行世界は無限に存在する。
しかし、仮面ライダーという特異点となりえる者のいない世界はなかったものとして瞬く間に消滅してしまう。
そうやって消滅と誕生を繰り返し、現在では約80億……すなわち世界の人口の数と同じだけの並行世界が存在している。
しかし、それは言い換えれば80億の並行世界の全てに仮面ライダーが存在しているということ。
当然平和を脅かす悪しき者たちも。
仮面ライダーディケイドや仮面ライダージオウの存在により容易く世界の融合が果たされた今、別の並行世界からの脅威すらも無視できないものとなった。
なかには単体で世界の改変すら行えてしまう者だっている。
それに新世界の創造に成功し、なおかつ並行世界からの脅威がやってこなかったとしても、似通った他の並行世界の存在がバックアップとなり結局は改変前の世界に戻ってしまうという事例も報告された。
だからこそジニアは文字通り80億の世界を破壊し、80億の2乗の人間の命を奪うという業を背負う気でいるのだ。
それも自分の家族を犠牲にして。
「だが、コイツを解き放って世界を破壊した後に新世界を作ってもコイツはその新世界すらも破壊しちまう。
それじゃ意味がねぇんだよ
だから……コイツを使わない。それだけだ」
培養槽の中に浮かぶベルト。
それが全ての世界を容易く破壊するといわれれば大多数の人間が疑問に思うだろう。
僕ですら信じられなくなる瞬間はある。
だが、僕はその力の片鱗をかつて見たことがある。
6年前の12月……そう、血の聖誕祭のあの夜に。
だからこそ分かるのだ。
その力の邪悪さに。
「そうか………」
「話はそれだけか?
なら俺は行くぜ。
──誰が盗み聞きしてるかわかんねぇからな」
そう言ってジニアは僕の白衣のポケットを指差すと、そそくさと元来た道を戻っていった。
たしかそのポケットにはジルから没収したカプセルが。
「………まさか……!」
僕はカプセルをポケットから取り出すとスイッチを操作する。
しかし、スライド式のスイッチは上がらずスイッチが入らない。
──やはりそうか。
僕はライダーカプセル上部の蓋を開けた。
ライダーカプセルは整備性を追及するために構造は至ってシンプルに作られている。
故にある程度なら工具すら使わずに簡単に分解出来るのだ。
分解したライダーカプセルの蓋の中には小型の盗聴機が無理やりねじ込まれていた。
ねじ込まれた盗聴機が干渉していたため、スライド式スイッチが稼働しなかったのだ。
「……やれやれ。
本当に喰えない男だよ」
どうやら僕にライダーカプセルを奪わせたのは計画のうちだったようである。
そこまでして僕や自分の父親の“弱み”を知りたいか。
ため息をつくと、僕は盗聴機を指で握りつぶしたのであった。
そしてライトに照らされた培養槽の中で蠢くベルト型デバイスのケーブル。
このベルトには名前などない。
ただ他と違うのは、このベルトは『生きている』ということ。
いや、正確にいえばこのベルトの中に閉じ込められているものが生きているのだが。
何故こんなものが生まれたのかは僕にも分からない。
だが、コイツがひとたび解き放たれればこの世界どころか、この世界と同時に存在する並行世界たちもたちまち消滅してしまう。
そして、ジニアの作ろうとしている新世界すらもその脅威に晒されるだろう。
だから我々はコイツをベルトに封じた。
そうすることしか出来なかった。
道は違えど、僕もジニアものコイツに対する見解は同じ。
──僕たちはコイツの存在を隠し続ける。
誰にも悪用させないために。
世界の終焉を避けるために世界が終わるその瞬間まで。
「……ジニア」
「なんだ?」
沈黙に耐えられなかったのか、つい僕はジニアに話しかける。
「君は新たな世界を作る為に今ある世界を全て破壊する……そう言ったね」
「あぁ」
「それならば何故君も僕に協力するんだい?
コイツを解き放てばそれもすぐに終わるだろうに」
長年の疑問をぶつける。
新世界を作ると言いながら今ある世界を破壊し、世界を破壊すると言いながら世界を容易く破壊できるコイツを使わずに封印し続ける。
病的なまでに合理性ばかり求めるジニアなら、コイツを解き放って全ての世界を破壊してその後に新世界を作ってしまう……なんてこともやりかねないと彼をよく知る人物たちなら口を揃えてそう言うはずだ。
しかし、彼は最短ルートで目的を達成できる方法を知りながら決してそれだけはしなかった。
その理由がどうしても彼の口から聞きたかったのだ。
「俺の望むのは世界の破壊じゃない……。
平和な新世界だ」
「……」
“平和な新世界”。
今のこの男から出てくるとは到底思えないワードだ。
しかし、この男が出任せで言っているとは到底思えない。
「ひとつふたつ世界を融合させたくらいじゃ生まれやしない。
他の並行世界からテクノロジーや外来種が流れ込むなんてザラだからな……
だからこそ文字通り全ての世界をこの世界に喰わせてようやく完成する。
争いのない新世界が。
仮面ライダーも怪人も、それらに近い存在も何もかもが虚構となった平和な世界が」
並行世界は無限に存在する。
しかし、仮面ライダーという特異点となりえる者のいない世界はなかったものとして瞬く間に消滅してしまう。
そうやって消滅と誕生を繰り返し、現在では約80億……すなわち世界の人口の数と同じだけの並行世界が存在している。
しかし、それは言い換えれば80億の並行世界の全てに仮面ライダーが存在しているということ。
当然平和を脅かす悪しき者たちも。
仮面ライダーディケイドや仮面ライダージオウの存在により容易く世界の融合が果たされた今、別の並行世界からの脅威すらも無視できないものとなった。
なかには単体で世界の改変すら行えてしまう者だっている。
それに新世界の創造に成功し、なおかつ並行世界からの脅威がやってこなかったとしても、似通った他の並行世界の存在がバックアップとなり結局は改変前の世界に戻ってしまうという事例も報告された。
だからこそジニアは文字通り80億の世界を破壊し、80億の2乗の人間の命を奪うという業を背負う気でいるのだ。
それも自分の家族を犠牲にして。
「だが、コイツを解き放って世界を破壊した後に新世界を作ってもコイツはその新世界すらも破壊しちまう。
それじゃ意味がねぇんだよ
だから……コイツを使わない。それだけだ」
培養槽の中に浮かぶベルト。
それが全ての世界を容易く破壊するといわれれば大多数の人間が疑問に思うだろう。
僕ですら信じられなくなる瞬間はある。
だが、僕はその力の片鱗をかつて見たことがある。
6年前の12月……そう、血の聖誕祭のあの夜に。
だからこそ分かるのだ。
その力の邪悪さに。
「そうか………」
「話はそれだけか?
なら俺は行くぜ。
──誰が盗み聞きしてるかわかんねぇからな」
そう言ってジニアは僕の白衣のポケットを指差すと、そそくさと元来た道を戻っていった。
たしかそのポケットにはジルから没収したカプセルが。
「………まさか……!」
僕はカプセルをポケットから取り出すとスイッチを操作する。
しかし、スライド式のスイッチは上がらずスイッチが入らない。
──やはりそうか。
僕はライダーカプセル上部の蓋を開けた。
ライダーカプセルは整備性を追及するために構造は至ってシンプルに作られている。
故にある程度なら工具すら使わずに簡単に分解出来るのだ。
分解したライダーカプセルの蓋の中には小型の盗聴機が無理やりねじ込まれていた。
ねじ込まれた盗聴機が干渉していたため、スライド式スイッチが稼働しなかったのだ。
「……やれやれ。
本当に喰えない男だよ」
どうやら僕にライダーカプセルを奪わせたのは計画のうちだったようである。
そこまでして僕や自分の父親の“弱み”を知りたいか。
ため息をつくと、僕は盗聴機を指で握りつぶしたのであった。