Episode.11 DESPAIR

「………」


力なくユラリとこちらを一瞥すると、右腕の鉤爪を構え駆け出す。

一瞬にしてトップスピードに達し、その勢いを保ったまま鉤爪が振り下ろされた。



「ちっ!」


アナザージオウが元々持つ未来予知により攻撃を防ぐことに成功したものの、その攻撃は途轍もなく重い。

少しでも力を抜けばキングデストロイヤーといえども力負けしてしまう。


だが、それよりも脅威なのはそのスピードだ。
瞬きする間もなくトップスピードに達した死神ロイミュードならぬ死神キルバス。
このゼロからトップスピードに達する敏捷性は元々のキルバスのそれを遥かに超えている。



「くそっ……!
面倒なことしてくれたね……!」


《アナザーディケイド!バースト!》


ダークライダーや怪人をアナザーワールドから呼び出せるアナザーディケイド本来の能力では、対象の改造と使役を得意とするあのエクスキメラ……メディックスタークとは相性が悪すぎる。

こちらがいくらダークライダーや怪人を召喚したところで全て死神ライダーなり死神怪人に改造され、全て奴の手駒となるのは想像に難しくない。


だからここで使うのはライダーの“チカラ”のみ。

そして……ここで僕が選んだのは仮面ライダーナイトの力だ。



《─Trick Vent─》


どこからともなく響く電子音。
自らの体から解き放たれる鏡像。

死神キルバスの背後にもうひとりの“僕”……キングデストロイヤーが現れ、死神キルバスの背後から斬りかかった。



「……ッ!?」


もうひとりの僕の攻撃を受け、体制を崩す死神キルバス。

実力差を埋めるための手駒が使えないのなら、自らの分身……もとい鏡像に頼るしかない。

召喚された実体を持つライダーならともかく、召喚のそれとは原理が大きく異なる実体も意思もない鏡像ならば奴も強化改造することは出来ないはずだ。

だからこそナイトのシャドーイリュージョンはうってつけだというわけ。



「一気に決める……!」


鏡像からもう一体新たな鏡像が生み出され、キングデストロイヤーは僕を入れて3人となる。

一体の鏡像は死神キルバスに攻撃を仕掛け、本体の僕と最初に現れたもう一体の鏡像は死神キルバスを操るメディックスタークへと向かっていく。

数だけならこれで形成逆転。

死神キルバスを押さえつつ、メディックスタークを2体で倒す。


結局戦争は数が物を言う。
個々人の『戦術』がいくら優れていようと戦況の全てを把握した上での『戦略』の前には無力。
所詮、ひとりの個人に世界を変えうるだけの力などありはしない。
“己”という“小さな世界”すら変えられないのだから。

これは父さんの受け売りだが、僕だってそう思う。

あの目の前の男がいくら実力者だろうと所詮は『ひとりの個人』。


──圧倒的な数の前には一個人の力などあまりに無力だ。



《アナザーディケイド!バースト!》


《エクスライザーノヴァ……!》


本体である僕の体から更に分身が生み出される。

その数はざっと50体。

次に僕が使ったのはオーズ・ガタキリバコンボの“力”。

こちらも分身による人海戦術を得意とするライダーだ。


少し卑怯かもしれないが、ここまでやらなければ勝てない相手なのは間違いない。

更にエクスライザーでカプセルをスキャンすると50体の僕の分身たちは一斉に駆け出す。

その手には白く輝く剣。

予備動作の大きく、小回りの効かないキック技だと蹴りを放つ間に触手による攻撃で薙ぎ払われてしまうし、パンチ技だとリーチが短い。

故にある程度リーチも稼げて未来予知により触手を掻い潜り相手に確実に攻撃を与えられるのは必然的に剣戟による攻撃に絞られる……というわけだ。



「はぁぁぁぁぁぁっ!!」


「……くっ……!」


その攻撃はまさに無数のキングデストロイヤーによる“人型の荒波”。

当然メディックスタークも触手で反撃するが、それも全て段階的な未来予知により軌道を予測し回避。


そして、その白き刃は再び奴を捉えたのだ。
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