Episode.11 DESPAIR

「……なんの成果も得られなかったか」


仮想世界から逃げ出し……いや、追い出されたというべきか。

結局一時的にセキュリティシステムを黙らせるくらいのことしか出来なかった。

なぜ血の聖誕祭に関するデータが全て閲覧不可になっているのだろうか。

『大量発生したアンゲロスの暴走』という理由だけでここまでのセキュリティが設けられるのはいささか不自然である。




「……何かあるんだろうな」


元々この姫矢市という街は、姫矢グループ……いや姫矢一族がヴァイトップやライダーシステムを研究するための“箱庭”として、願葉市というなんの変哲もない街を姫矢グループが事実上乗っ取るという形で出来上がった街だ。


血の聖誕祭以前、すなわち6年前までアンゲロスが姫矢市にしか現れなかったのも、許可証なしに姫矢市の市民が街の外に出られなかったのも。

……全て姫矢市という街のルーツに関係している。


姫矢市の市民は全員アンゲロスの材料であり、モルモット。

姫矢グループのエージェントがヴァイトップのセールスマンとしてターゲットに接触し、その都度市民をアンゲロスにしていたのだ。
アンゲロスやそれを撃つ仮面ライダーの実戦データをとるために。

現に僕も事情こそ異なる上に組織の目的とは関係なしにヴァイトップを持ち出し、自分の友人となった少女をアンゲロスにした事がある。

故にアンゲロスかただの人間か、なんの区別もせずに市民を迂闊に檻の外に出すわけにはいかない。

……だからこそ形式としての許可証制度が必要だったということだ。


だけど、それは姫矢グループのメンバーなら誰だって知っているはず。
それも当時の惨状を経験したであろう本社の人間なら尚更。

今更、本社のローカルネットワークにセキュリティを張り巡らせる必要なんてないはずだ。


だけど、最高の人工知能たるアークですら突破できないセキュリティを張り巡らせられていた。


つまり、姫矢グループの社員にすら知られると都合の悪い“何か”があの血の聖誕祭で起こった……と考えるべきだろう。

そして、それを知られたくないごく一部の……ひとりの人物がその真実を隠しているとも。




「やっぱりあの人しかいないよね……」


──ここまで来たら思い浮かぶ人間は、ひとりしかいない。


かつて姫矢の地であの災害を経験した姫矢の上層部まで潜り込んだ人物。


そして、アークにすら突破できないセキュリティプログラムを構築できる頭脳を持っている人物。


そして、あの災害の中心にいてもなお、生き残ることができる程の“チカラ”を持つ人物………。








「僕たちの父さん……ジニア・ロックディールしか」
19/48ページ
スキ