Episode.11 DESPAIR
──RIVEL SIDE──
「やっぱりコレ……」
BATTLERから少し歩いた場所にある工場。
ここは前に怪人たちに襲われていたところを助けた一般人が社長を勤めていた工場だ。
今ではこうやってたまに俺が発明品を作るために間借りさせてもらっている。
勝利から渡されたドライバーは予想以上に損傷が酷く、今日は部品の一部を新造するために訪れていた。
そして勝利のドライバーの修理を終え、俺は工具を片付けるところでふとドライバーを見た。
「………」
──あれだけ顔色の悪い勝利を見たのははじめてだった。
勝利が帰ってから、もしかしてと思い『コルプス』という単語をもう一度調べてみたのだが、『コルプス(CORPUS)』とはラテン語で『体』……すなわち人体を現す言葉だ。
結論から言えばコルプス=死体ではなかった。
それだけならよかった。
それだけなら勘違いだったと言って謝れば済む話だ。
『人体から全ての“気”を生み出す丹田にベルトを装着し、産み出された“気”を活性化させ強い“体”へと変える』。
そういったコンセプトで開発された量産型のベルトなのだろうとそれっぽい説明もつけてやれば勝利も安心するだろうと。
しかし……少しでも勝利を元気付けてやろうと、読めなくなっていたベルトに刻印されていた文字まで復元させてしまった。
それがいけなかったのだ。
読めなかった部分も含めて復元させると浮かび上がった文字は『CORPSE LAYSER 』……“コープスレイザー”。
決して『CORPUS LAYSER』……“コルプスレイザー”などではなかった。
戦闘のダメージで読めなくなったというより、意図的に誰かがこの刻印を潰して読めなくした……そんな感じだった。
「最悪だ……」
まさか裏目に出るとは。
文字なんて復元するんじゃなかった。
次の瞬間、俺は組み上げたベルトを再び分解していた。
刻印が刻まれた問題のカバーを溶接器具を使って復元した刻印を強引に潰すことにしたのだ。
ヘルメット状の遮光マスクを被ると刻印された文字を溶かすように溶接棒で文字をなぞっていく。
遮光マスク越しからでも分かる激しい光と共に、溶けた溶接棒を流し込み文字を潰していく。
……本来なら真実を告げるべきなのだろう。
それが『正しい』ことなのだろう。
しかし正しいことの全てが人を救うとは限らない。
“到底受け入れようのない真実だって、この世の中にはある”のだ。
だから俺だって嘘をつき続けている。
……勝利だけじゃなくて、他の仲間たちにも。
『ノエルさえいれば俺たちは元の世界に帰ることが出来る』と。
本当ならもう、元の世界に帰る術なんてないのに。
もう、俺たちの世界なんてどこにもないのに。
──俺たちの世界は『この世界』に飲み込まれて消えたのだ。
それでも自分たちが生きていくために真実を知らない仲間に嘘をつくことにした。
真実を隠すことにした。
だから今回だって、勝利の心が少しでも軽くなるのなら……。
俺は『コープスレイザー』もといコルプスレイザーのカバーの刻印を潰し終えると、俺は溶接機の電源を落とし、遮光マスクを脱いだ。
それから溶接した箇所の冷却もかねて焦げた部分を綺麗にするための酸性の薬品を塗り、溶接台の上で冷ますことにした。
これであと数時間ほど置いて熱が冷めた頃に焦げた箇所を水洗いし、乾燥させてやれば完成だ。
ふと刻印を潰し終えたカバーを見やる。
我ながら綺麗なビートである。
これなら違和感ないだろう。
しかし………
「こんなことしたって意味ねぇのにな……」
この溶接で潰した刻印のように嘘を上塗りしても本質が見えなくなるだけで現実は変わらない。
そんなことは分かっている。
だけど俺は………。
「お父さん!」
「……ルーシーか」
ぼんやりとしていた俺のもとに現れる小さな影。
声のした方へ顔を向ければそこにいたのは油と鉄粉と塵が混ざった空気の悪い工場には似つかわしくない可愛らしい格好の少女。
そう。この間空から降ってきた少女……ルーシーだ。
「探しましたよ、お父さん」
「いや俺、娘がいるような年齢じゃ……」
「細かいことはいいんですよ!どうせ私ロボットだし!」
「えー…………」
何故かどや顔になるルーシーに俺は思わず苦笑してしまう。
ロボットにしては人間くさくて、どこか抜けてて。
一緒にいるだけで何故か笑顔になってしまう。
顔立ちも全然違うのに、似てるところなんてないって思ってたのに。
だけど、この柔らかい雰囲気だけは……そうだな、アイツに似ているんだ。
俺が元の世界に残してきたアイツに………
………白羽 美穂に。
「ん?どうかしましたか?お父さん?」
「いーや、何でもねぇよ」
俺は誤魔化すようにルーシーの頭を撫でてみた。
普段の俺なら女の子相手にこんなことは絶対にしない。
さわった瞬間卒倒だからな。
だけど、ルーシーは未来の俺が作ったというロボットだからか出来たのだろうか。
それは俺にもわからないけども。
頭を撫でられたルーシーは少しだけ驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔を見せてくれた。
あぁ、やっぱり似てるよ美穂に。
美穂も、そうやって笑ってた……。
ルーシーを作ったのが本当に未来の俺ならば、未来の俺は何を思ってルーシーを作ったのだろうか。
美穂の代わりか?
自らの寂しさを埋めるためか?
そのどちらにしても俺は目の前にいる“自分の娘”にすら己の胸のうちを話せずにいた。
己の胸のうちを隠すようにルーシーの頭を撫で続けた。
ふとルーシーから視線を反らすと……刻印を潰したカバーだけがポツンと溶接台の上に置かれているのが見えた。
「やっぱりコレ……」
BATTLERから少し歩いた場所にある工場。
ここは前に怪人たちに襲われていたところを助けた一般人が社長を勤めていた工場だ。
今ではこうやってたまに俺が発明品を作るために間借りさせてもらっている。
勝利から渡されたドライバーは予想以上に損傷が酷く、今日は部品の一部を新造するために訪れていた。
そして勝利のドライバーの修理を終え、俺は工具を片付けるところでふとドライバーを見た。
「………」
──あれだけ顔色の悪い勝利を見たのははじめてだった。
勝利が帰ってから、もしかしてと思い『コルプス』という単語をもう一度調べてみたのだが、『コルプス(CORPUS)』とはラテン語で『体』……すなわち人体を現す言葉だ。
結論から言えばコルプス=死体ではなかった。
それだけならよかった。
それだけなら勘違いだったと言って謝れば済む話だ。
『人体から全ての“気”を生み出す丹田にベルトを装着し、産み出された“気”を活性化させ強い“体”へと変える』。
そういったコンセプトで開発された量産型のベルトなのだろうとそれっぽい説明もつけてやれば勝利も安心するだろうと。
しかし……少しでも勝利を元気付けてやろうと、読めなくなっていたベルトに刻印されていた文字まで復元させてしまった。
それがいけなかったのだ。
読めなかった部分も含めて復元させると浮かび上がった文字は『CORPSE LAYSER 』……“コープスレイザー”。
決して『CORPUS LAYSER』……“コルプスレイザー”などではなかった。
戦闘のダメージで読めなくなったというより、意図的に誰かがこの刻印を潰して読めなくした……そんな感じだった。
「最悪だ……」
まさか裏目に出るとは。
文字なんて復元するんじゃなかった。
次の瞬間、俺は組み上げたベルトを再び分解していた。
刻印が刻まれた問題のカバーを溶接器具を使って復元した刻印を強引に潰すことにしたのだ。
ヘルメット状の遮光マスクを被ると刻印された文字を溶かすように溶接棒で文字をなぞっていく。
遮光マスク越しからでも分かる激しい光と共に、溶けた溶接棒を流し込み文字を潰していく。
……本来なら真実を告げるべきなのだろう。
それが『正しい』ことなのだろう。
しかし正しいことの全てが人を救うとは限らない。
“到底受け入れようのない真実だって、この世の中にはある”のだ。
だから俺だって嘘をつき続けている。
……勝利だけじゃなくて、他の仲間たちにも。
『ノエルさえいれば俺たちは元の世界に帰ることが出来る』と。
本当ならもう、元の世界に帰る術なんてないのに。
もう、俺たちの世界なんてどこにもないのに。
──俺たちの世界は『この世界』に飲み込まれて消えたのだ。
それでも自分たちが生きていくために真実を知らない仲間に嘘をつくことにした。
真実を隠すことにした。
だから今回だって、勝利の心が少しでも軽くなるのなら……。
俺は『コープスレイザー』もといコルプスレイザーのカバーの刻印を潰し終えると、俺は溶接機の電源を落とし、遮光マスクを脱いだ。
それから溶接した箇所の冷却もかねて焦げた部分を綺麗にするための酸性の薬品を塗り、溶接台の上で冷ますことにした。
これであと数時間ほど置いて熱が冷めた頃に焦げた箇所を水洗いし、乾燥させてやれば完成だ。
ふと刻印を潰し終えたカバーを見やる。
我ながら綺麗なビートである。
これなら違和感ないだろう。
しかし………
「こんなことしたって意味ねぇのにな……」
この溶接で潰した刻印のように嘘を上塗りしても本質が見えなくなるだけで現実は変わらない。
そんなことは分かっている。
だけど俺は………。
「お父さん!」
「……ルーシーか」
ぼんやりとしていた俺のもとに現れる小さな影。
声のした方へ顔を向ければそこにいたのは油と鉄粉と塵が混ざった空気の悪い工場には似つかわしくない可愛らしい格好の少女。
そう。この間空から降ってきた少女……ルーシーだ。
「探しましたよ、お父さん」
「いや俺、娘がいるような年齢じゃ……」
「細かいことはいいんですよ!どうせ私ロボットだし!」
「えー…………」
何故かどや顔になるルーシーに俺は思わず苦笑してしまう。
ロボットにしては人間くさくて、どこか抜けてて。
一緒にいるだけで何故か笑顔になってしまう。
顔立ちも全然違うのに、似てるところなんてないって思ってたのに。
だけど、この柔らかい雰囲気だけは……そうだな、アイツに似ているんだ。
俺が元の世界に残してきたアイツに………
………白羽 美穂に。
「ん?どうかしましたか?お父さん?」
「いーや、何でもねぇよ」
俺は誤魔化すようにルーシーの頭を撫でてみた。
普段の俺なら女の子相手にこんなことは絶対にしない。
さわった瞬間卒倒だからな。
だけど、ルーシーは未来の俺が作ったというロボットだからか出来たのだろうか。
それは俺にもわからないけども。
頭を撫でられたルーシーは少しだけ驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔を見せてくれた。
あぁ、やっぱり似てるよ美穂に。
美穂も、そうやって笑ってた……。
ルーシーを作ったのが本当に未来の俺ならば、未来の俺は何を思ってルーシーを作ったのだろうか。
美穂の代わりか?
自らの寂しさを埋めるためか?
そのどちらにしても俺は目の前にいる“自分の娘”にすら己の胸のうちを話せずにいた。
己の胸のうちを隠すようにルーシーの頭を撫で続けた。
ふとルーシーから視線を反らすと……刻印を潰したカバーだけがポツンと溶接台の上に置かれているのが見えた。