Episode.10 LUCY

「それにしても、ヴァルツにこんな力があろうとはね……!」
 

《アナザーディケイド!バースト!》


《邪武……!》

《ダブル……!ルナトリガー……!》


奴の周囲に現れる腐敗したリンゴを模した無数のエネルギー弾。

ルナトリガーのダブルの能力も付与したということは、この追尾能力を得たエネルギー弾で俺を捉えようという訳か。



「はっ!!」


奴が腕を振るうと同時に放たれるエネルギー弾。

案の定、エネルギー弾は俺の動きに合わせるように不規則な軌道を描きながら俺に迫る。


だけど……!



「一気に決めてやる……!」


地面を蹴り、一気に加速。

赤い……いや、薔薇色の軌道を描きながらあっという間にトップスピードに達する。


エネルギー弾も俺を察知してはその軌道を変え俺に迫るものの、ワイルドローゼスへと変身した俺の動きにはついてこれず、翻弄するどころが逆にエネルギー弾の方が俺に翻弄される始末。


俺がいた場所には赤く輝くワイルドローゼスの残像のみが残されている。

そのスピード故、銃撃等の飛び道具による攻撃ではワイルドローゼスを捉えることは不可能なのだ。



「はっ!!」


残りのエネルギー弾が俺を捉えようと俺を取り囲み一斉に降り注ぐ。

しかし、俺は瞬間移動と見紛う程のスピードで包囲網から脱出。


先ほどまでそこにいた俺に襲いかかったエネルギー弾たちは、エネルギー弾同士でぶつかり合い一斉に爆ぜた。


狙った獲物を仕留めるまでどこまでも追尾する弾丸の回避に成功したのだ。



「おぉう……そんなことある……?」

『勝利さん!今です!』

「あぁ……チェックメイトだ……!」


《エクスライザーソニック!》


反応こそ薄いが、奴が少なからず驚愕している今がチャンスだ。
俺はルーシーの指示と共にホルダーのカプセルを2本スキャンした。

背面の鱗が何層にも重なった形状の装甲が展開し、そこからマフラー状のエネルギーが2本放出される。

マフラーは仮面ライダーを象徴する要素のひとつだが、まさか理緒とアルの変身するライダーの組み合わせでマフラーが拝めるなんて。


しかも俺が変身していたコルプスにもこんな装備が搭載されていたが、それとは比べ物にならないほどの出力だ。


俺は地面を蹴り駆け出すと、奴の体にアッパーを叩きこんだ。

未来予知すらもなんの意味も成さない圧倒的なスピード。

奴は当然何も出来ずに宙へ放り出される。


もう、奴に俺を止めることなど出来はしない。




「はっ!」


光のマフラーを翼の代わりとし、こちらも天高く飛び上がる。

その瞬間、マフラーから放たれた赤い粒子がまるで羽毛のように宙を舞った。

 

「ダァァァーーーーーッ!!」 


しかし粒子には目もくれず奴の体を蹴り飛ばすと、自慢のスピードですぐさま追いつき、もう一度蹴り飛ばし、更に追いつきもう一発蹴り飛ばす。

途切れなく続く連続キック。
本来ならば、次の蹴りの予備動作に入るまでに相手は壁なり建物なりに激突しているはずだ。

それを可能にしているのはルーシーから送られてくるヴァルツのスーツのコントロールプログラムと、敵の能力のアナライズの結果、そしてワイルドローゼスのトリッキーな能力の数々である。

だからこそゲームでしか見たこともないような非現実的な攻撃が実現してしまうのだ。


ここまで来れば、あとは最大最強の一撃を奴に叩き込むだけだ。




「はーーーーーーーーっ!!」


右脚の鋭い鱗が伸びると、それはまるで鉤爪のような形状となる。

更にバイザー越しに見える奴の姿にバイザー内に映し出されたターゲットマーカーが重なり、ロックオンされる。


薔薇の花びらの如きオーラを纏いつつ空中で加速。

自らの脚を深紅の槍として奴の体を貫いた。



「……ハハハハ…………グッジョォブ………!

なるほどね……これから楽しくなりそうだ………!!」


奴とすれ違う際になんとも意味深な言葉が聞こえてきた。

だが、それは負け惜しみにしか聞こえない。


それを証拠に…………




──ドォォォォォォォン!!!



空気を揺さぶる爆音。
視界の全てを白く塗りつぶすほどの閃光。
背中をジリジリと焼くような熱気。



この瞬間、王を打ち倒す者の名を冠した合成獣はたしかに討ち倒されたのだ。
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