Episode.10 LUCY

──JILL SIDE──


時間がゆっくりと流れる“そこ”は僕と彼だけの世界。

僕らの頭上にはあのヒューマギア。


僕たちはこの2人だけの世界で切り結ぶ。


激しい剣と鉤爪のぶつかり合いにより火花が飛び散る。



さて、ここからはこの僕……ジル・ロックディールが語り部をつとめさせてもらうよ。




「ぐっ……速い………!」


「何いってんのさ………アンタが遅いんだろ?」


先程まで怒り心頭といった面持ちで斬りかかってきたカブトゲーマーだったが何度か切り結ぶうちに奴はこちらのスピードについてこれなくなった。


どうやら呼道勇騎はドライブ以前の平成ライダーの力はエグゼイドのライダーガシャットという形で継承したようだ。


そして時の王者……ジオウとはまた違う形で全ての平成ライダーの力を束ね、もう一人のライダーの王……それも裏の王となった。



だけど……それがどうした。




「そらっ!!」


「っ!!」


鉤爪による斬撃で奴の装甲を切り裂く。

さて………これで決着とするか。


僕はベルトのスイッチを押そうと、手を伸ばすが…………




「させるかっ………!」


その瞬間、奴の懐から何かが放たれ僕の視界を覆う。



「うっ!!」


それと同時に眩い光により、目がくらみ爆発音と爆風が襲いかかる。

それの正体はもう分かりきっている。



『ゼクターボマー』。

『ゼクトマイザー』なる手甲型武器から射出される自律飛行破片手榴弾。


マスクドライダーシステムのライダーならどのライダーも使え、カブトの場合だと変身アイテムであるカブトゼクターを模したゼクターボマーを使用するのだけど………



なるほど、カブトの力を使ったカブトゲーマーでも使えるって訳ね………!




「悪いけど………こまちは返して貰ったぜ」


「………女の子アレルギーの勇騎さんの代わりに俺がなっ!!」


爆風が晴れ、互いに高速の世界から追放されるとそこにいたのはカブトゲーマーと、ヒューマギアの女の子を抱えた黒き次代の王……ヴァルツ。


“部下”の報告によってその存在を確認はしていたけども、まさかこうしてお目にかかれるとは。




「…………全く、楽しませてくれるね。君たちも」


──少し侮っていたかな。

呼道勇騎は最初から自分を囮にして、あのヒューマギアをヴァルツを受け継いだあの男……椿 勝利に助けさせたんだ。


頭に血が昇ってるのだと思ってたけど、意外と冷静だったようだ。



本当に喰えない男だよ。






「さて───


───少し、本気を出させて貰おうかな」


こうして僕はベルトを外し、変身を解除し素顔を晒す。


構えるライダーたち。

ヒューマギアと………それから“妹”を護るように身を乗り出すルーシー。


当の妹は僕の顔を見ても大したリアクションを見せない。





やっぱり………僕の事、覚えてないか。











「残念だよ…………。














───────────ノエル」













それは妹に忘れられた寂しさか、悲しみか。


思わず自嘲気味に呟いた。



それでも………放たれた僕の声は、誰にも届きはしない。
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