Episode.10 LUCY

「マジかよ……?」


俺と勇騎さんは慌てて裏口から飛び出し、女の子が文字通り舞い降りた場所へと駆け出す。

……勇騎さんは女の子が苦手で女の子に触った瞬間緊張でぶっ倒れてしまう所謂『女の子アレルギー』なのだが大丈夫なのだろうか。

将さんと一緒につい先日退院したばかりで、再びぶっ倒れられても困るが……正直そんな事言ってる場合じゃない。

猫の手も借りたいくらいだ。

 
淡い光を纏いなから天から舞い降りた眠り姫はさながら天使のよう。



なんかSF映画のような近未来チックなレオタードに緑のヘッドギア。

美しい金の髪に、幼さを残した顔立ち。



今俺たちの目の前で展開されている幻想的な降臨とは対照的に、彼女の姿はまるでありがちなSF映画から抜け出したような近未来的なものであった。


勇騎さんがこの子を触ったら卒倒確実。

猫の手も借りられないな、こりゃ。


ゆっくりと重力に抗うように静かに降り立つ女の子を俺は受け止めた。



光が霧散すると、重力を認識したかのように俺の手に彼女の重みが伝わる。




「なんだこの子……?

“ヒューマギア”か………?」


「ヒューマギア?」


勇騎さんが女の子を抱えた俺に駆け寄ってくる。



「勇騎さん、まだヒューマギア見たことないんだっけ?

『ヒューマギア』ってのは飛電インテリジェンスって会社が開発した汎用人工知能搭載人型ロボットの名前だよ。

病院とか宇宙ステーションとかいろんなとこで活躍してるんだけど……。

まぁ、その開発元の飛電も今じゃ姫矢に買収されて子会社になったみたいだけどさ」


「あぁ……あの耳にヘッドフォンみたいな奴着けてるロボットだろ?

そういやムトーナノカドーに買い出しに行った時にレジにいたような」


「そうそう、それそれ」


勇騎さんは“この世界”の人間じゃないから知らなくて当然だ。


人工知能搭載人型ロボット『ヒューマギア』。

かつて、人工知能のリーディングカンパニーである飛電インテリジェンスが開発したものだ。


10年以上前から旧型のモデルがごく一部の地域で運用されてきたようだが、一般に流通し始めたのは飛電が買収された後のことだ。

街の復興事業や孤児の精神的ケアなどで大きく注目を集めた。

今から2年前の春先に流行した疫病によって医療崩壊寸前に追い込まれたこの国の医療を支えたのもヒューマギアだ。


こうしてヒューマギアは俺たちの生活には無くてはならない存在となっている。

今、BATTOLERでヒューマギアを導入していないことの方が不思議なくらいには。



「しっかし………ヒューマギアにしてはロボットっぽすぎる気がするし、モジュールのデザインも違う………。

しかも頭に放熱板着いてるし…………」


ここで目の前の少女型ロボに向き直る。

少女型ロボの頭にはヒューマギアと同じようにモジュールが装着されているが、こちらの方が大型だ。

しかも体の方も特殊なコーティングで人間と遜色ない見た目に加工されたヒューマギアと異なり、関節が剥き出しでより“人形”といった言葉がしっくり来るような容姿をしている。


しかし、抱えたボディからは優しい暖かさを感じ、そのボディの方も人間の皮膚とは質感こそ違うものの、弾力がある柔らかい素材となっている。



「親方、空から降ってきた女の子……直せる?」


「あー…………どうしようか」


勇騎さんに視線を写せば、なんともバツの悪そうな顔をする。

この親方はロボットだと分かっていても女の子は苦手なようである。


参った……さすがに放置は気が引けるしなぁ……………



「んっ……………」


やがてモーターの駆動音とともに腕に抱えた少女ロボが起動する。


緑のモジュールが輝き、少女ロボはゆっくりと目を開く。


その様子は、さながら人間の行動をひとつずつ確かめているかのように精密で丁寧なもの。




「ここは………ここはどこですか………?」




「え…………?」


少女ロボはその大きく青い瞳をぱちくりとさせながら俺たちを見る。


目を覚ました彼女はまさに西洋の人形の如く可愛らしく、美しい。


金髪のショートヘアーも凄く似合ってる。









しかし……………











「「キィェエエエエエエエエ!

シャベッタァァァァァァァァァァ!!」」





俺たちはその光景に驚いてしまい、叫んでしまう。


そんな俺たちの姿に、彼女は不思議そうに首を傾げたのであった。
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