Episode.9 HOPE

──DESPAIR SIDE ──


日本・姫矢市。


世界を裏から操る組織・姫矢グループの城下町として発展したというこの街の“城”……。


三日月を模した姫矢グループ本社ビルの地下の訓練施設に私“たち”はいる。



「…………なんの真似だ?」


目の前にはベルトを巻いたジニア。


私はあの東南アジアの国……『シャングリラ』のゴーストタウンとなった町・エスポワールから奴の呼び出したオーロラカーテンをくぐり抜けこの場所………今の私たちのアジトに来たのだが、少しの休憩時間の後、私は奴に呼び出された。



「なんの真似だ?……はねーだろ。

二度も同じ事言わすなよボケ。
特訓つけてやるって言ってんだ」


「特訓?」


「さっきも言ったろ?

“お前を強くしてやる”って。

ただ、お前を気に入ったとはいえ今のお前はただの雑魚ライダーだからな……。


だから鍛えてやるっていってんだよ………」



奴の手にはジュエルが握られている。

ジュエルの中には紫のライダー……たしか『滅』と言ったか。




「………面白い」


私も愛用のデバイスを構える。

この魔性の小箱を地球のデバイスで例えるのならUSBメモリであろう。

その中に込められたものは地球に存在するものの記憶………俗にいう『地球の記憶』である。


そして私が所有する魔性の小箱『ガイアメモリ』に内包された記憶は『絶望』。


奴によって弱体化させられたが……それでもまだ戦える。




《DEPAIR!》


ベルトを装着し、ディスペアーメモリを起動。


そしてそれを装て…………






「………遅ぇよ」



───刹那。




私の視界が暗くなり顔面と背中の衝撃と共に激痛を感じる。


最初は何が起きたのか理解出来なかった。

だが、上げていた片足を地面に下ろしているジニアの姿を見て私は理解した。



変身しようとした瞬間に顔面に蹴りを叩き込まれたのだ。


全く反応出来なかったし、姿も見えなかった。


まさにコマ落としで『近づく』『蹴りを放つ』という過程を飛ばして『蹴り飛ばされた』という結果だけを見せられているようだ。



「………漫画やアニメとは違うんだ。


『変身中に敵が待っている』なんてご都合主義はお前の世界にあってもこの世界にはねーよ?」


いつも思うが……この男、私を見下しているんだろうな。


自分の実力を誇示するのではなく、私を哀れむような目を向ける。




「………私もナメられたものだ。変身!!」


《DESTPIA!》


奴は私を本気にさせた。


最初から全力で行かせてもらう。


私はディスペアーメモリをベルトに装填しベルト……『ディスペアードライバー』を展開しながら駆け出すと私の体に鎧が装着されていく。


黒き雷とともに私の姿は絶望の名を冠した戦士へと変わる。



黒いボディに金色のライン。
Wを模した角。
全体的に『仮面ライダージョーカー』に近いシルエットを持つがその体にはローブを羽織っている。


これが絶望の担い手である私のもうひとつの姿………『ディスペアー』だ。



「ふっ!!」


暗めの紫……現代人の言葉でいうならバイオレットアッシュとでも言えばいいのだろうか。

そんな煌めきを放つ光と共に私の左手には魔導書が収まる。


かつて『闇の神龍』なるものが使っていたものだ。


エクシードディスペアーの力は失ってしまったがそれでもこの技の威力はお墨付きだ。



「“ダークネスミニアド”!」


魔導書……『ブリュンヒルデ』から放たれた闇の奔流が変身すらしていないジニアに向かって放たれる。


私をコケにした報い。それからエクシードディスペアーメモリを退化させた報いだ。


奴の特訓など受けるつもりなどない。





これで……………!







「………『奴を殺してやる』、か?」


「!?」


まるで結び目がほどけるように、闇の奔流は奴に直撃する前に跡形もなく消えてしまう。


その瞬間、周囲が闇に包まれ………



《チェーンジ………

仮面ライダー………滅………!》


黒よりも暗い闇の深淵から妖しく光る黄金の煌めき。


それは私の知る“絶望”ではない。



それは“虚無”。

奴からは殺気をまるで感じない。

それも不自然なくらいにだ。



畏怖すらも生温い、一種の薄気味悪さすら感じてしまう。




《FORCE RISE 》


《STING SCORPION………

BREAK………DOWN……!》



闇が掻き消えた後に現れたのはあのジュエルに描かれた紫のライダー。


セッテ・クロハラに引導を渡したその戦士の名は“滅(ホロビ)”。




「さぁ、特訓を始めようか…………」
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