Episode.9 HOPE

「………ご、ごめんなさいっ」


どれだけ泣き続けただろうか。

私は彰一さんから離れると、恥ずかしさのあまり彰一さんから目を背けてしまう。

しかし、目を背けるだけで彰一さんからは離れない。

むしろ彼の服の裾をより強く握っている。




「少しは落ち着いたか……?」


「は、はい………」


しかし、彰一さんは気にすることなく笑顔を見せると、私の頭を撫でてくれた。

ゴツゴツした大きな手の感触。


私のお父さんとは雰囲気や性格は違うし、タイプの異なる男性なのだが、私のあたまを撫でる手の感触は似ている。


その懐かしさと優しさ、そして暖かさは私の涙腺を更に刺激してくる。


しかし、これ以上泣くと彰一さんに迷惑をかけかねないのでぐっ、と我慢する。



「なら、お気に入りのTシャツを濡らした甲斐はあったかな」


「………」


そういって彰一さんは私の顔を見てまた、微笑む。

しかし、彰一さんの着ているTシャツを見てみれば……。



真っ赤な生地に、上から猫の頭、湯気がたちのぼるお茶、猫の手のシルエットが描かれている。


…………シンプルなTシャツなのだが、これはなんとも形容し難い。




「…………『にゃん』『ちゃ』っ『て』ー」


「…………」


「…………」


場をなごませるギャグなのだろうか、それぞれのシルエットを指で差す。


しかし、笑えない。くだらなすぎて笑えないのだ。


彰一さんもそれに気づいたのか気まずそうに黙る。




「……ノゾミちゃん、今のギャグはね。

冗談まじりの発言であることを示す『なんちゃってー』と猫とお茶と手をかけたすっごく面白いギャグだよ☆」


「勝手に人のギャグを解説するなローラァ!!」


またまた通り掛かったのかドアからひょっこり顔を出す半笑いのローラさんと困惑した表情で叫ぶ彰一さん。


落ち込んでなくても………うん。




これは、笑えない…………。
8/30ページ
スキ