Episode.9 HOPE

────

あれから何日たったかは覚えていない。


私は、私たちを助けてくれた“彼ら”と共にエスポワールの街を離れ、『アイギス』と呼ばれる町の、彼らの拠点へとやって来た。


大きさはや雰囲気は先ほどのエスポワールの町とは変わらないが、こちらは人の気配すらなかったエスポワールと違い、人で賑わっている。

私はそれを部屋の窓から眺めることしか出来ないが、ボディラインの出るスリットの深い着物に直線裁ちのズボンを着用する『アオザイ』なる民族衣装を身に纏った女性たちが印象的だった。


なんというか………みんな綺麗だ。


彰一さん曰く本来は『ベトナム』という国の民族衣装らしいが………今はどうでもいい。

オシャレとか……今はそういったものには関心が向かない。




「………少しは落ち着いたか?」


「………」


窓の外を見つめる私に話しかける、あの無精髭が特徴の茶髪の男性。


この人は百瀬 彰一(ももせ しょういち)さん。

あの時、私を助けてくれた人だ。

私たちをこの家に連れてきてくれて、私たちを手当てしてくれた人。

命の恩人だ。


しかし私は、そんな相手にも受け答えできなかった。


この人からは悪い“気”というものは感じないのだが、この人を信じていいのか分からない。


いつだってそう。

私は無意識のうちに、誰かを信じるか信じないかすらも自分の“力”によって得た相手の感応波によって決めていたような気がする。

要するに自分自身の人間力といったものではなく、なんでもかんでも都合のいい便利な能力で解決してきたんだ。


そしてその感応波は………今は感じ取れない。

目の前の彼は生きている人間のはずなのに。


わかってる。これは私の問題だ。




「動けるようになったんならセッテ………だっけか?

……会ってやってもいいんじゃねぇか?」


「嫌………です」



………あれから私は、暗い部屋で眠れなくなった。


この世界にやって来た瞬間に見たあの“暗闇”やセッテが倒されたあの夜の出来事を思い出してしまうのだ。


そしてあの日以来、セッテとは会っていない。


隣の部屋で今も寝ており、町医者が毎日訪問しているし、たまにセッテの呻き声が聞こえてくるのだが……どうしてもセッテに会いに行けない。



………セッテに会わせる顔がない。



あの戦いで私は、セッテを救うことより奴と戦うことを選んでしまった。


その結果、セッテを苦しめる羽目になってしまったのだから。
4/30ページ
スキ