Episode.8 Re:BUILD

「いきなりなによ!!そんなの知らない………知らないよ!!」


私に考える余裕など到底なく、反射的に叫んでしまう。

ただ、なんとなく“運命”と混同して考えていた私はきっと考える余裕があっても答えることなど出来なかったと思う。






「なら教えてやる………。



“宿命”とは“運命”より残酷なモンだ。

抗うことも、逃れることも出来ん……。



つまり……それは『この世に生まれた事』そのものだ。


もちろん、俺たちがこうして巡りあった事も、戦う力を手に入れたことも、それで何を為すかも………全てな。



俺は『炎の十字架』を背負ってでも“為すべきことを為す”。


たとえ罪という名の炎が俺の身を焦がそうとも………。

それが俺自身の“宿命”だと。

俺の生まれてきた理由なのだと」



「それがっ………!!


……それがどうしたのよ!!

そんな宿命とかそんな訳の分からないものの為にセッテは!

他のみんなは!ウェズペリアは犠牲になったの!?」


私の足を貫く剣をひっこ抜き、放り投げると醜く奴に食い下がる。

我ながら幼稚で情けない言い分だ。

先ほどから口を開けば同じ言葉ばかりで、もはやまともに反論できていない。



「…………だが、お前はどうだ?

希望の担い手とかうつつを抜かして、周囲にちやほやされてるだけで、何一つとして自分で考えようとはしない………。

ただ目の前の敵と戦って、ただ力を手に入れて……。

結局やってるのは、“自分の気に入らないものを壊しているだけ”じゃねぇか」



「っ!違うっ!!

私はみんなを!大切な人を………」



「……『護りたい』、か?

笑わせんな。



───だったらセッテを見てみろよ」



「っ!!」


私はセッテの方をみる。

するとセッテは…………!!



「っ……アァァァァァァァァァァ!!!」


「セッテェェェェ!セッテに何をしたぁぁっ!?」


奴の言葉と共に倒れていたセッテが急に目を覚まし、悶え始める。

奴の必殺の一撃が貫いた箇所を中心に段々と皮膚が焼けただれていき、それはあっという間に全身に広がっていく。

セッテがもがく度、ピンクの長髪が抜け落ちていく。


「………“スティングディストピア”の一撃と共にライダーシステムの力で精製した腐食性の毒を撃ち込んだ。

毒の効果が発揮されるまでに時間こそかかるが、毒が効き始めれば、全身が溶ける激しい痛みと共にTHE END………って訳だ。


…………俺が見逃してやるって言ったときにNSを使って近くの街に逃げるべきだったな」



「っ………!!」



体が震える。涙が溢れる。


力なくそこにへたりこむ。



「遅効性の毒で、なおかつ地球の技術でならギリギリ解毒できるくらいの毒にしてやったのに。

わざわざ変身を解いて見逃してやるって言ったのに。


………あれほど沢山ヒントをくれてやったのに。



お前はどうした?何を選んだ?


親友の命じゃなく、俺と張り合うこと、自分の憎しみを晴らすことを優先したんじゃないのか、お前は。


浅はかな判断で。軽はずみな行動で。


だから言ってるんだ。

仮面ライダーを冒涜するなってな」




───あぁ、奴の言葉が遠退いていく。


目の前が真っ暗に、頭が真っ白になっていく。


私は全部失った。


故郷も、家族も、友達も、仲間も、戦う力も。


そして………ずっと掲げてきた信念すら打ち砕かれた。



セッテだけでも救えたかもしれないのに………その可能性すら捨ててしまった。





「……………っ!

アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」





──私の心が黒く塗りつぶされていく。


この感覚は以前にも感じたことがある。


あの時も暴走して、落ち込んで、励ましてもらって。

もう……暴走なんてしないと思ってた。

“御守り”も……龍石もらってたし。



でもそれももう……なんの意味もない。



ピキッ……ピキッ……という音と共に龍石にヒビが入っていく。

この龍石は私のNSを制御するためのもの。


だけど、もう制御する必要なんてない。



私は龍石を握りつぶした。


龍石は粉々に砕け散った。






そうだよ………もう、いい。








───もう、どうにでもなってしまえ。
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