Episode.1 VALZ

「■■………!?」

黒い戦士が拳を引き抜くと、蜘蛛の怪物はゆっくりと前のめりに倒れる。

直後、貫通した傷口を中心に肥大化した血管のようなものが全身に広がっていく。



「ひっ………!?」

今度は何が起こるのか分からず、私は声を上擦らせてしまった。

しかし、そんな私を護るように黒い戦士は私の盾になるように倒れ込んだ怪人に背を向けしゃがむ。


そして…………



「■■■■ーーーー!!!」

声にならない叫びと共に、蜘蛛の怪物の体はまるで風船のように何倍も膨れ上がり、やがて赤黒い液体を散乱させながら破裂。

床や壁、天井を赤黒く染めた。


……どうやらあの怪物は絶命したようである。



「………大丈夫か?」

黒い戦士が顔をあげると、私の顔を覗き込むようにその赤い複眼が私の姿を捉える。



「み、みないでっ」

安心感からか下着が濡れたことを思い出し、慌てて黒い戦士から離れた。




「………悪かったな、怖がらせて」


しかし、そんなことなどどうでもいいかのようにポツリと黒い戦士が呟くと立ち上がる。



「立てるか?………と思ったが、その様子なら大丈夫そうだな。……ホレッ」


「あうっ」


あの黒い戦士が何かを手渡してきた。

それは黒いラインの入った赤い機械。
中央には二重螺旋が刻まれたシリンダーのようなものが埋め込まれている。

でもコレなんていうか……形か握力計みたい。



「………それ持って行ってやれよ。

まぁ、起動出来るかどうかはお前“たち”次第だけどな」


私を……いや、私とあの男の子を試すような言葉。

冷静に考えてみれば、この人が“何か”を知っているのは明白。


きっと、この人なら私のことも……!



「待って……貴方は……!


……………ッ!?」


私の言葉を遮るように黒い戦士は壁を突き破り、その衝撃と舞い上がった粉塵に吹き飛ばされそうになり、身を屈めてしまう。

その次の瞬間には、もう、あの黒い戦士はいなかった。


───残されたのは手元の赤黒い握力計みたいな機械だけ。



「………


……………………いかなきゃ」



あの黒い戦士にはいろいろ聞きたいことがあった。


でも今はあの男の子を助けたい。

私を護るためにあの場に残った名も知らない男の子。



私はこの握力計のような機械を握りしめながら元来た道を戻るのであった。
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