Episode.6 RAINY
「……やっぱり理緒はすげぇよ。俺には真似出来ないや」
「えっ……?」
沈黙を破り、勝利くんは口を開く。
これまた思わぬ反応だった。
あんなに責めたのに、勝利くんはボクの涙をぬぐうと笑顔を見せてくれた。
ノエルちゃんと一緒にいるときに見せるあの人懐っこい笑顔。
きっとボクには……いや他の誰にも見せないんだろうなって思ってた。
だから、ボクはそれを見たとき思わず呆気にとられてしまった。
「だってそうだろ?
俺が言うのもなんだけど、アイツらそこまで考えてねぇよ。
輝もシフト入ってなかったらフツーにゲーセン行ってるし。
アルも食うことしか考えてねぇし。
勇騎さんは……うん、あんな感じだし」
「…………」
「自分も辛くて仕方ないのに、そこまで他人のことを思いやれるなんて俺は理緒のことスゴいって思うよ。
だってみんな自分のことでいっぱいいっぱいで人のことを思いやることなんて出来ねぇのに……俺だってそう。
仲間だとかいって、孟や亨多を振り回してるだけ。
自分のことだけで手一杯になってるのがたまに嫌になる。
だから、俺は理緒のこと尊敬してるんだけどな。
それも出会った時からずっと」
なんで彼はこうもボクのことを肯定してくれるんだろう。
いっそ罵ってくれれば楽なのに。
勝利くんだけじゃない。
勇騎さんも、アルちゃんも、輝くんも。
なにもしない、ただ喫茶店を切り盛りだけやってる役立たずを誰も責めようとはしない。
みんな優しくしてくれる。
でも、それが辛くて仕方がない。
「……ボクにはそんな価値はないよ」
「自分が嫌いなんだな、理緒も……」
何かを悟ったように、勝利くんが呟くとボクは静かに頷いた。
そうだ、その通りだ。
ボクはこの世の中で自分が一番大嫌いなのだ。
道化の仮面を被って、本心を偽って。
それでもボクは別の誰かじゃなくてボクにしかなれない。
思えば薔薇魔人になったのも、なんでもいいから別の何者かになりたかったからだ。
「自分が嫌いならそれでもいいじゃん。
……悲しい気持ちが消せないなら悲しい気持ちのままでもいい。
悲しい気持ちのまま笑ったっていい。
悲しい気持ちのまま怒ったっていい。
無理に乗り越えようとしなくたっていい。
でもさ……今、理緒に必要なのは悲しみを乗り越えることでも他の誰かに気を使うことでもない。
ましてや自分を卑下することなんかじゃない。
巴ちゃんへの気持ちを整理する時間じゃないのか?」
「巴ちゃんへの気持ち………?」
──気持ちの整理なんて考えてもなかった。
巴ちゃんのことを忘れようとすらしていた。
終わったことなんだって。
もうどれだけ悔やんでも時は巻き戻せないって。
そう思ってた。
だから気持ちに蓋をして考えないようにしてきた。
でも巴ちゃんが大好きだったコーヒーを淹れるようになって、巴ちゃんが憧れていた喫茶店を仲間たちと一緒にやるようになって。
知らず知らずのうちに巴ちゃんのことを追いかけてたんだ。
忘れたくなかったんだ。
思い出す度に悲しくなっても、後悔に押し潰されそうになっても、それでも……
「別に焦らなくたっていい……理緒のペースでやればいいんだよ。
きっと巴ちゃんもそれを望んでる。
それに巴ちゃんの代わりにはなれなくてもさ、巴ちゃんの分まで理緒は理緒として幸せにならなきゃ。
それが巴ちゃんの唯一の望み。
──その巴ちゃんの唯一の願いをさ、理緒は叶えてやらなくていいの?」
「……っ!!」
その瞬間、ボクは頬をぶたれたような痛みを覚え、自らの頬を押さえる。
当然だが、勝利くんがボクをひっぱたいた訳ではない。
ボクが勝手に痛みを感じ、勝手に押さえているだけなのだ。
……きっとまた巴ちゃんが怒ってるんだ。
現に勝利くんはボクが頬を押さえたのを見て不思議そうな顔をしている。
そうだ、そういえば昔にもこんなことがあったな……。
「えっ……?」
沈黙を破り、勝利くんは口を開く。
これまた思わぬ反応だった。
あんなに責めたのに、勝利くんはボクの涙をぬぐうと笑顔を見せてくれた。
ノエルちゃんと一緒にいるときに見せるあの人懐っこい笑顔。
きっとボクには……いや他の誰にも見せないんだろうなって思ってた。
だから、ボクはそれを見たとき思わず呆気にとられてしまった。
「だってそうだろ?
俺が言うのもなんだけど、アイツらそこまで考えてねぇよ。
輝もシフト入ってなかったらフツーにゲーセン行ってるし。
アルも食うことしか考えてねぇし。
勇騎さんは……うん、あんな感じだし」
「…………」
「自分も辛くて仕方ないのに、そこまで他人のことを思いやれるなんて俺は理緒のことスゴいって思うよ。
だってみんな自分のことでいっぱいいっぱいで人のことを思いやることなんて出来ねぇのに……俺だってそう。
仲間だとかいって、孟や亨多を振り回してるだけ。
自分のことだけで手一杯になってるのがたまに嫌になる。
だから、俺は理緒のこと尊敬してるんだけどな。
それも出会った時からずっと」
なんで彼はこうもボクのことを肯定してくれるんだろう。
いっそ罵ってくれれば楽なのに。
勝利くんだけじゃない。
勇騎さんも、アルちゃんも、輝くんも。
なにもしない、ただ喫茶店を切り盛りだけやってる役立たずを誰も責めようとはしない。
みんな優しくしてくれる。
でも、それが辛くて仕方がない。
「……ボクにはそんな価値はないよ」
「自分が嫌いなんだな、理緒も……」
何かを悟ったように、勝利くんが呟くとボクは静かに頷いた。
そうだ、その通りだ。
ボクはこの世の中で自分が一番大嫌いなのだ。
道化の仮面を被って、本心を偽って。
それでもボクは別の誰かじゃなくてボクにしかなれない。
思えば薔薇魔人になったのも、なんでもいいから別の何者かになりたかったからだ。
「自分が嫌いならそれでもいいじゃん。
……悲しい気持ちが消せないなら悲しい気持ちのままでもいい。
悲しい気持ちのまま笑ったっていい。
悲しい気持ちのまま怒ったっていい。
無理に乗り越えようとしなくたっていい。
でもさ……今、理緒に必要なのは悲しみを乗り越えることでも他の誰かに気を使うことでもない。
ましてや自分を卑下することなんかじゃない。
巴ちゃんへの気持ちを整理する時間じゃないのか?」
「巴ちゃんへの気持ち………?」
──気持ちの整理なんて考えてもなかった。
巴ちゃんのことを忘れようとすらしていた。
終わったことなんだって。
もうどれだけ悔やんでも時は巻き戻せないって。
そう思ってた。
だから気持ちに蓋をして考えないようにしてきた。
でも巴ちゃんが大好きだったコーヒーを淹れるようになって、巴ちゃんが憧れていた喫茶店を仲間たちと一緒にやるようになって。
知らず知らずのうちに巴ちゃんのことを追いかけてたんだ。
忘れたくなかったんだ。
思い出す度に悲しくなっても、後悔に押し潰されそうになっても、それでも……
「別に焦らなくたっていい……理緒のペースでやればいいんだよ。
きっと巴ちゃんもそれを望んでる。
それに巴ちゃんの代わりにはなれなくてもさ、巴ちゃんの分まで理緒は理緒として幸せにならなきゃ。
それが巴ちゃんの唯一の望み。
──その巴ちゃんの唯一の願いをさ、理緒は叶えてやらなくていいの?」
「……っ!!」
その瞬間、ボクは頬をぶたれたような痛みを覚え、自らの頬を押さえる。
当然だが、勝利くんがボクをひっぱたいた訳ではない。
ボクが勝手に痛みを感じ、勝手に押さえているだけなのだ。
……きっとまた巴ちゃんが怒ってるんだ。
現に勝利くんはボクが頬を押さえたのを見て不思議そうな顔をしている。
そうだ、そういえば昔にもこんなことがあったな……。