Episode.6 RAINY

「……へ?」


意外だった。
きっと「なんで乗り越えようとしないの?」とかそんな風に言われると思ってた。

だから思わず変な声が出てしまった。



「……だって理緒、明らかに無理してんじゃん。

なんか笑いたくもないのに無理やり笑って……。
正直出会った時はノエルのことで色々あったからアレだったけど……

なんていうか昨日とか特にそうだったからさ………。ずっと心配してたんだよ

だから、昨日だって戻ってきたし入院も取り止めた。

……うやむやにしたまま今の理緒の側を離れることは俺には出来ねぇ」


「………」


そっか……。
やっぱりバレてたんだ。

でもそれだけの為に怪我を押してここに戻ってくるの?
それだけの為に入院を拒むの?


無茶苦茶だ………。無茶苦茶すぎる。



「……『乗り越えろ』なんて無責任な言葉、当事者じゃない俺には言えねぇよ。


それに、理緒は戦ってんじゃん。
ちゃんと自分の居場所で。

前線で戦ってる勇騎さんたちや俺を支えてくれてるじゃん。


それじゃダメなのか?

俺は何も前線で戦うことが全てじゃないと思うけど」



「でも…………っ!」



ダメだ、耐えられない。

我慢しようと必死だったのに、涙が溢れてくる。

どうやっても巴ちゃんの最期の言葉が、最期の笑顔が頭を過る。


『私の代わりに、あなたは……』


巴ちゃんは最期に何を伝えようとしたのか、ボクには分からない。

もうどこにもいない人にその言葉の真意を聞く術などない。


次々と溢れる涙をぬぐいながら、ボクは言葉を紡ぐ。




「む…………無理するなって言ったって……



───ここでひとりだけ暗い顔なんて出来るわけないじゃん!


勇騎さんも、輝くんも、アルちゃんも!
みんなこの世界に飛ばされて不安なのに、我慢して明るく振る舞ってるのに!

逃げだしたボクが落ち込んでいられる訳ないじゃん!!」


勝利くんを責め立てる気なんてなかった。
ボクと同じように大切な人を失くして傷ついて。
大人たちの悪意に晒され続けて生きてきた。
ボク以上にやり場のない気持ちを抱えているはずだ。

でも……それを頭で分かっていたはずなのに、やり場のないこの気持ちを何処にぶつけていいかなんて分からず、ボクは勝利くんにぶつけてしまったのだ。


「ボクは仮面ライダーですらない!
ただの怪人薔薇女。薔薇魔人。

ただ自分で名乗ってるだけの偽物!

しかも友達が死んで嫌になって自分の世界から逃げ出した卑怯者だ!


そんなボクが明らかに自分より辛い目にあってる人の前で暗い顔なんて出来るわけがない。
する資格もない。
みんな辛いのを我慢してるのに!
そんなこと………」


ずっと堪えてきた気持ちがひとたび溢れだすと、何かに押されるように言葉が涙と共に溢れだした。
目の前にいる勝利くんの姿が滲んでおり、どんな顔をしているかすら分からない。


やがて息をつくようにボクは叫ぶのをやめる。

しかし、勝利くんはなにも話さない。


なんとも言えぬ気まずい空気のなか、雨音とボリュームを下げたラジオから流れてくる音楽だけが店内に虚しく響いていた。
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