Episode.6 RAINY

「ねぇ、勝利くん」

「どうした?」


よろめく勝利くんに肩を貸し、椅子に座らせる。

確かにこの間もアンゲロスとか言う怪人の集団に対しても異様な敵意を見せていた。
それに『アンゲロス狩り』ってものやってるって、輝くんからも聞いてる。

彼のことはボクは全然知らない。
ただ、なんだろうこの“危うさ”は。

放っておいたらいずれ自分の命すらドブに捨てるんじゃないかって思ってしまう。



「……なんでそこまでして戦ってるの?」

「は?」

「何が君をそこまで駆り立ててるの?

他の子たちもそうだけど……
大怪我してまで、嫌な想いまでして……なんで戦ってるの?」


自分の世界から、仮面ライダーの名前から逃げ出したボクには分からない。
なんで体も心も傷ついてまで戦ってるのか。
何がその体を突き動かすのか……全く分からない。

だからボクは殆ど店番だけやって、戦いは殆ど他のみんなに任せてきた。

みんなそんなボクを責めはしなかったけど……正直罪悪感に押し潰されそうだった。

だからノエルちゃんが拐われたとき、その罪悪感に耐えかねて案内役をかって出たのだ。

でも分からなかった。
そこまでして戦って、何がしたいのかなんて。


勝利くんはしばらく黙っていたが、ボクの目をしっかり見つめると口を開いた。




「……俺さ、アンゲロスに母さん殺されてるんだよね」


「え?」


「……10歳の頃にこの街でアンゲロスが大量発生する事件があってさ、その時に俺もその事件に巻き込まれた。

俺には母さんしかいなかったからさ、その母さんが目の前でアンゲロスに喰われて俺は天涯孤独になった」


………怪物に大切な人を奪われた。

確かに仮面ライダーの世界ならよくある話だ。

ボクだってそう。大切な人を奪われてずっと蹲ったままだ。

彼は怪物への復讐心を糧にその手足を動かしているのだろうか。



「それでどうなったの?」


「……災害が終息して、災害に巻き込まれた地域を中心に姫矢の街は立入禁止区域になった。
姫矢の住民も街の外に出られなくなった。

姫矢の住人の中にアンゲロスがいるかもしれないからってな。

しかもこの街の市民証っていうシステムが邪魔をして復興も救助活動もなかなか進まなかった……。


だから俺も、他の子供たちも。
孤児になった連中みんなで、使われなくなった駅に身を寄せあって夜を明かして、建物の中から食糧をあさって……そうやって生きるしかなかった。


だから俺たちは『駅の子』なんて呼ばれてたよ』


「……」


……なにそれ。

予想の斜め上を行く話にボクはなにも言えずにただ勝利くんを見つめることしか出来なかった。

駅の子って……。

大人は誰も助けてくれず子供たちだけで生きてきたって?

まさかそんな……
戦後直後の日本じゃあるまいし………
そんなことって………。




「ま、待ってよ。日本の政府は?
そんな街ひとつで大きな災害があったら政府が自衛隊派遣したりとかするでしょ?

まさか助けが来なかったの?」


「………誰も助けてくれなかったよ、俺たちの時はな」


「えっ………」


「……自衛隊は来た。
でもアンゲロスを止めるために出動して、壊滅的な被害を被ったんだ。

そのせいで自衛隊は撤退した。
この街で生きてる俺たちを見捨ててな。

でも仕方ないよな。
自衛隊が全滅すれば、それこそこの国は終わる。
『少数を切り捨てても、より多くの人数の命を救う』……それは当たり前の話だ。
俺も撤退するって判断は正しいって思ってる」


「……でも」


ボクの予想を遥かに上回る話に、何も言えなくなってしまう。
学園というあまりに狭い世界で戦ってきたボクには想像もつかないような世界だ。

年端もいかない子供が理不尽に母親を奪われて、ホームレスとして生きてきたって……



これでもかなり辛い話なのに、勝利くんはさらに話を続けた。




「……でもそこまでなら良かった。

最悪、自分は助かったんだからそれで良かったんだって……そう自分に言い聞かせてひとりで生きるのも手なんだと思ってた。

でもさ、街が復興されていく頃に俺たちの敵になったのはアンゲロスじゃなくなっていった」
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