Episode.6 RAINY
──ROSE SIDE──
『……窓の外は前 生きるのは誰のため?
こんな夜に君がいれば……』
勝利くんが出ていってから数時間が経過した。
既に辺りは暗くなっていたが、雨は相変わらず降り続ける。
ラジオから流れる音楽も暗い。
まるで今のボクの心を覗き込んでいるかのようなチョイスだ。
「……たまには感傷に浸りたい時もあるけどさ」
結局店番はボクひとりでやることとなった。
輝くんも留守だし、アルちゃんも勇騎さんも帰ってこない。
勝利くんは来てくれたけど、勇騎さんに呼ばれてどこかに行ってしまった。
……なんだろう、この寂しさは。
ひとりで店番するのは楽しいから好きなんだけどさ。
ボクは外に出て、看板を裏返し『CLOSE』と書かれた面を見えるようにすると、店内に戻り本日の売上金の精算に入る。
もちろん手元にはお手製のコーヒーを用意して、だ。
こんな態度で精算を行っていれば普通なら怒られるだろうが……勇騎さんも帰ってこないし許してよね。
『……好きだなんて言えない この想いを告げたなら
君はきっと消えてしまうね……』
ハスキーな女性ボーカルの声が、しっとりとしたメロディーを紡ぐ。
窓の外から聞こえる雨音とラジオから流れる音楽だけが響くがらんどうの店内が、嫌でも自分がひとりぼっちだということを告げている。
なんでこんなに寂しいのだろう?
この混乱に乗じて自分で自分の世界を捨てて逃げ出したようなものなのに。
……きっとラジオから流れるこの歌のせい、だよねきっと。
ボクは帳簿を記入する手を止めると、コーヒーが入ったマグカップに手を伸ばした。
『……嘘も意地も見栄も 弱さの裏返しだよと
少し笑いながら 教えてくれたよね……』
「……」
歌がCメロに入ると、マグカップへと伸ばした手を止める。
……そういえば、巴ちゃんもこうやってラジオを聞くのが好きだったな。
ラジオから流れてくる歌を口ずさみながら
手間のかかる手動のコーヒーミルで豆を挽いて……。
家族が喫茶店のマスターだったのもあってかボクと同じ高校生とは思えないほどの腕前だったと思う。
──ボクは、そんな巴ちゃんの横顔を見ているのが好きだった。
『………本当はずっと一緒にいたい 10年後も君といたい
でも叶わぬ願い and you’re breaking my heart again………』
ラジオから流れる歌が思い出させてくれたのか、それともコーヒーの香りが思い出させてくれたのか、つい物思いに耽ってしまった。
そうだ。全ては過去の話だ。
ボクは自分の世界を捨てたんだ。
それにどれだけ望んだって叶わないのなら望む意味もない。
ボクは、徐に手に取ったコーヒーを飲み干した。
「…………やっぱり巴ちゃんのようには出来ないや」
寂しさを埋めるように。
虚しさを埋めるように。
もうどこにもいない彼女に笑いかけるように呟くと、空になったマグカップが少しだけ滲んで見えた。
『……窓の外は前 生きるのは誰のため?
こんな夜に君がいれば……』
勝利くんが出ていってから数時間が経過した。
既に辺りは暗くなっていたが、雨は相変わらず降り続ける。
ラジオから流れる音楽も暗い。
まるで今のボクの心を覗き込んでいるかのようなチョイスだ。
「……たまには感傷に浸りたい時もあるけどさ」
結局店番はボクひとりでやることとなった。
輝くんも留守だし、アルちゃんも勇騎さんも帰ってこない。
勝利くんは来てくれたけど、勇騎さんに呼ばれてどこかに行ってしまった。
……なんだろう、この寂しさは。
ひとりで店番するのは楽しいから好きなんだけどさ。
ボクは外に出て、看板を裏返し『CLOSE』と書かれた面を見えるようにすると、店内に戻り本日の売上金の精算に入る。
もちろん手元にはお手製のコーヒーを用意して、だ。
こんな態度で精算を行っていれば普通なら怒られるだろうが……勇騎さんも帰ってこないし許してよね。
『……好きだなんて言えない この想いを告げたなら
君はきっと消えてしまうね……』
ハスキーな女性ボーカルの声が、しっとりとしたメロディーを紡ぐ。
窓の外から聞こえる雨音とラジオから流れる音楽だけが響くがらんどうの店内が、嫌でも自分がひとりぼっちだということを告げている。
なんでこんなに寂しいのだろう?
この混乱に乗じて自分で自分の世界を捨てて逃げ出したようなものなのに。
……きっとラジオから流れるこの歌のせい、だよねきっと。
ボクは帳簿を記入する手を止めると、コーヒーが入ったマグカップに手を伸ばした。
『……嘘も意地も見栄も 弱さの裏返しだよと
少し笑いながら 教えてくれたよね……』
「……」
歌がCメロに入ると、マグカップへと伸ばした手を止める。
……そういえば、巴ちゃんもこうやってラジオを聞くのが好きだったな。
ラジオから流れてくる歌を口ずさみながら
手間のかかる手動のコーヒーミルで豆を挽いて……。
家族が喫茶店のマスターだったのもあってかボクと同じ高校生とは思えないほどの腕前だったと思う。
──ボクは、そんな巴ちゃんの横顔を見ているのが好きだった。
『………本当はずっと一緒にいたい 10年後も君といたい
でも叶わぬ願い and you’re breaking my heart again………』
ラジオから流れる歌が思い出させてくれたのか、それともコーヒーの香りが思い出させてくれたのか、つい物思いに耽ってしまった。
そうだ。全ては過去の話だ。
ボクは自分の世界を捨てたんだ。
それにどれだけ望んだって叶わないのなら望む意味もない。
ボクは、徐に手に取ったコーヒーを飲み干した。
「…………やっぱり巴ちゃんのようには出来ないや」
寂しさを埋めるように。
虚しさを埋めるように。
もうどこにもいない彼女に笑いかけるように呟くと、空になったマグカップが少しだけ滲んで見えた。