Episode.6 RAINY

「……そっか」

「ごめんね……変な話をして」

ボクの話を聞き終えると勝利くんはより一層暗い顔をした。

……やっぱり話すべきではなかったかな。
こんなこと話されたって困るだけだよね。

ボクは己の浅はかさを悔やむ。


「……理緒、ひとつだけ聞いてもいい?」

「ん?」

しばらく黙り込んでいた勝利くんだったけど、コーヒーを一口啜ると口を開いた。


何を言うつもりなのだろう?

ボクは思わず身構えてしまった。



「……あの……巴ちゃんだっけ?

その子のことなんだけど、なんていうか………」

いつもなら饒舌に話す勝利くんだったが、今日はどうも言葉に詰まっているような気がする。

言葉を紡ぎながら、最適な言葉を選んでいるのだろうか。

どうやらボクは本当に勝利くんに気を遣わせてしまったらしい。



「…………あっ、ゴメン!電話かかってきた」

「あ、どうぞ~」

しかし、幸か不幸かその沈黙を破るように、ボクのスマホに着信が入る。
電話の主は勇騎さんだ。

ボクは内心ホッとすると電話に応答する。


「……もしもし?どうしたの勇騎さん」

『もしもし。スマン理緒……そっちに勝利いるか?』

電話の主はボクではなく、どうやら目の前の彼に用事があるようだ。

それならなんで直接勝利くんに電話するのではなく、ボクのスマホに電話をかけてきたのだろう?

ボクは思わず首をかしげるのだが、一度スマホを離して、自分のスマホを勝利くんに差し出す。


「勝利くん。勇騎さんから電話だけど」


「………あ。

忘 れ て た ………」

勇騎さんの名前を聞くと、勝利くんの顔が青ざめる。

……なるほど。何の約束をしたかは分からないけど勇騎さんと何かしろ約束をして、それを忘れてたのね。


「………ゆ、勇騎さん!ゴメン!!マジでゴメン!!今行くから!!

理緒ゴメン!俺行くわ!これお代とスマホ!

じゃ、じゃあまた!!」



そうして勝利くんはコーヒーを飲み干し、通話を切るとスマホとコーヒー代を置いてそそくさと店を出ていった………。


全く間がいいのか悪いのか。


「……あ、うん。またね………あはは」


本当に騒がしい人たちだ。
勇騎さんたちも勝利くんも。


でも、それでいいのかもしれない。

これで忘れられるのなら。

これで前を向けるのなら、それで………。


ボクは店を飛びだし、何もないところで転ぶ勝利くんを見て苦笑しつつもそう思うのであった。
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