Episode.6 RAINY

「お、おう……いきなり態度変わったなぁ」

「まぁた勝利くんにエッチな目で見られるのかなーって考えてただけだし♪
昨日だってボクのパンツ見てたの分かってるんだからね??」

「ばっ、バカッ!声がデカ……って覗いてねぇわバカタレ!」

……これもボクの悪い癖である。
本当は話したい気分でもないのに、無理やり笑顔を作ってバカ話をして自分の気持ちに蓋をする。

こうして暗い気持ちを誤魔化して、少しだけ気が紛れるのだけど、ひとりになるとどうしてもまた思い出してしまう。
それの繰り返しだ。



「……まったく相変わらずだなぁ。
理緒、コーヒー頼む」

「はーい」

勝利くんは呆れたようにため息をつくと、カウンター席に座り、いつものコーヒーを頼んできた。

その声を聞くとカウンターに立つと、コーヒーミルに入れたコーヒー豆を挽く。

個人的な好みでしかないが、豆を挽く時は常に手動ミルを使っている。

豆を挽く感触とコーヒーの香りを直に感じることができるからだ。


それにこうしていればあの子を傍で感じられる。
そんな感じがして………。




「……ねぇ、勝利くん」

「ん?どした?」

きっとこれは気まぐれだ。

窓を打ち付ける雨の音が、コーヒーミルから漂うコーヒーの香りがそうさせたんだろう。

我ながら少し気恥ずかしい。

でも……誰かに聞いて欲しかった。


そうじゃなきゃボクは…………。


「…………聞いて欲しいことがあるんだけど」


「なに?愛の告白か?それとも夜のお誘いか?
理緒となら大歓迎だけど」

お冷やの入ったコップを握り、何かを期待するかのようにニヤッと笑う勝利くん。

いやいや、キミにはノエルちゃんがいるでしょ。
まっ、ノエルちゃんには気づいて貰えてないケド。

ボクも日頃から悪ふざけしてたから、これには思わずボクも苦笑した。



「違う違う……そういうのじゃなくて……。

ちょっと前にボクにコーヒーの淹れ方教えてくれた子がいるって言ったの覚えてる?」


「……あぁ、出会ったときにも『あの味が~』って言ってたしな」


「うん。その子なんだけどさ…………。


───もう、いないんだよね」


「えっ………?」


先ほどまでニヤニヤしていた勝利くんの顔がこわばる。

そうだよね。キミも“そういうの”には敏感だもんね……。

勝利くんの過去は知らないけども、時々見せる表情でなんとなく分かってた。

この子もずっと死と隣り合わせだったんだろうって。



「…………」

言葉が詰まる。
自分で話すって言っておきながら。

その現実をどこかで認めたくない自分がいるんだ。


でもここで話を切るのは、ボクの言葉を待ってくれている彼に失礼だ。


だから、ボクは言葉を絞り出した。


まるで止まった時間を無理やり動かすように。





「………死んじゃったんだよ、その子。ボクのせいで。

その子は……巴ちゃんはボクが殺したようなもんなんだ」
3/45ページ
スキ