Episode.5 DUAL FUSION

「勝利、だっけ?」

「あ、うん……」

歯形だらけになった手を擦っているとアルが俺の服の裾を掴んでくる。


「メロンパン美味しかった。有り難う」

「お、おう……」

それさっき聞いた。
て言うか俺の手ごとむしゃむしゃしてましたけどね!

……といってやりたかったが、そこはぐっと堪えておこう。



「よく分かんないけどこれ、あげる」

「えっ」

しかし、何を思ってかアルはポケットから何かを取り出すと俺に差し出してきた。

それはなんと、ライダーカプセル。

しかもそこに描かれているのは見たことのないライダーの姿。


「少し前に、カプセル拾った。

さっき輝が渡してたから私も……
多分、この中に私の力、あるから」


「………いいのか?」


「うん」


アルもこの世界で戦っている時にブランクのカプセルを拾って、勇騎さんの時と同じようにブランクカプセルにライダーの力が宿ったのだろう。

そしてこの子の言葉が本当なら、このカプセルの中にはこの子が変身するライダーの力が宿っているはずだ。

でも………本当に貰っていいのか?

ライダーの力ってのはその人たちが歩んできた歴史そのもの。


実力を認めるどころか、一緒に戦ってきた訳でもないのに、そんな見ず知らずの俺にライダーの力を渡すだなんて…………



「……あなた、優しいし。信用してもよさそう」


「……そんなこと、ねぇよ」


“優しい”。

彼女からの評価は思いもよらぬものだった。

俺はただ腹ペコの彼女にメロンパンを差し出しただけだ。
それもあの様子じゃアル自身も全然足りないはず………それなのに、だ。

彼女はそれだけで満足し、お礼にと拾いものではあるがカプセルを差し出してきたのだ。

これじゃギブとテイクが釣り合わないのではないか?


それに俺は“優しさ”という言葉が大嫌いだ。

結局のところそれはただ自分に利益をもたらすものにだけいい顔をして、そうでないものは爪弾き。

少なくとも俺の出会った連中は皆そうだった。
『優しさ』の意味を履き違えて、善意の押し売りをして、それで自らの立場をアピールして………。


……嫌なことを思い出してしまった。
この子には悪気があった訳ではないのに。



「あー……でも貰っとくよ。ありがと」

「うん……」

少し後ろめたさのようなものはあるが、俺はアルからカプセルを受け取った。

そして彼女の顔を見てみれば彼女ははにかむように笑った……ような気がした。

彼女もまた理緒やノエルとはまた違った魅力を持っている。
なんというか高嶺の花のような高貴な美しさというかなんというか……。


……まっ、俺たちの手はむしゃむしゃしてたけどな。
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