Episode.1 VALZ

夜の街を走る。

ここは『願葉(がんば)区』。

姫矢市の中心街であり、そして後に『血の生誕祭』と呼ばれるあの事件が起こった場所でもある。


血の生誕祭とは6年前のクリスマスの四季祭り……姫矢市生誕祭の時の話だ。

祭りの最中、突然目眩や吐き気を訴えた人たちが一斉にアンゲロスとなり姫矢市の市民に襲いかかったのだ。

被害は姫矢市全土に及び、死傷者は10万人以上に及んだ。

既にご存知のように、その中には俺の母さんもいた。

表向きには某国によるテロになっているらしいが詳しい事は俺にもわからない。

ただ事件の終息にはかつて姫矢市を騒がせた『姫矢市の仮面ライダー』が関わっているらしい。


とにかく、だ。

ここではそんな事件があったのだが、それすら信じられないくらいに復興が進み、更に発展を遂げたのがこの願葉区だ。




「俺は…………」

グリップを握る手が震えている。

向かい来る風のせいだろうか。

否、今まで感じたことのないそれは自然現象で説明のつくものではない。



「うわっ!」

焦燥が視界を狭める。

対向車に危うく掠りそうになったのもそれのせい。

無理にアクセルを開けても唸りが高まるだけで一向にスピードが上がらない。




「速く………もっと速く………」

速く、もっと速く走ればきっと悩みも忘れられるはずだ。

はやくこの重い気分から解放されたかった。

だがそんな思いとは裏腹に鉛の海に浸かったかのように重い音を立てながらバイクを走らせるしかなかった。
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