サヨナラ夢のプリンセス
――え?
私、結婚したいだなんて願ったっけ?
「ディアナ、お前にはノワ辺境伯と結婚してもらう」
こんな展開、望んでない。
●
ひとには決して言えないが、私には得意なことがひとつある。
それは明晰夢を見ること。私は自分自身の夢を、昔から自由自在にコントロールすることができた。
どれぐらい自在かというと――
「ディアナ様!」
「ああ、ディアナ殿下、なんとお美しい……」
「我らの姫君、ディアナ様!」
私は私の夢の中で、ディアナというお姫様だった。
美しく、聡明で、明朗で、武芸も天才、誰からも愛される完璧なお姫様。
……高校3年生にもなって「夢の中でお姫様になってチヤホヤされている」なんて、ひとから見れば、さぞ痛々しく映るんだろう。
だけど、もし自分の夢が自由自在になるのなら、誰だって自分を素晴らしい王様やお姫様、社長や英雄にするでしょう? だって自分の好きに世界を創れるんだもの。わざわざリアルに寄せて、リアルと変わらない夢を見たって、それこそ「夢がない」。夢の中でまで、疲れるような想いはしたくないもの。
――夢という空想の中で、私は自由だった。
どんな夢を見ようとも、誰にも決して馬鹿にされない。
今夜は豪勢な舞踏会。
きらきらしたカラフルなドレスを着たご令嬢達と、同じぐらい優雅で綺麗な礼装を着た貴族の青年達がくるくる踊る。
広い広いホールは壁一面がガラス張りで、宝石をちりばめたような夜空が瞬く。
天井にはダイヤでできた立派なシャンデリア。床は鏡のように眩い黄金。
全てがきらきら輝いて。
私はその真ん中を歩く。
真っ白いドレス。オパールのように七色に移ろう光沢、誰のものよりも綺麗な衣装。
胸元には同じ虹色をした宝石のブレスレット、頭には同じ趣のティアラ、長い長い髪も右に同じ色。
肌は雪のように白く、自身に溢れた瞳は何よりも輝く黄金色。
すらりとした足が一歩を踏み出す度、星のように瞬くヒールが床を鳴らした。
人々の歓声。惚れ惚れする嘆息。
誰もが私を見つめている。
誰もが私に憧れている。
誰もが私を愛している。
きらきら、美しい、私だけの自由な世界。
この世界の主人公は、私。
「ディアナ様、わたくしめとダンスを」
「いいえどうぞ私と!」
王子や貴族の子息達が、私へ手を差し出してくる。あるいは薔薇の花を、思いの丈を綴った恋文を。彼らだけでない、美しい姫君や令嬢らも負けじと、ディアナの気を引こうと同じことをしていた。
さて誰と踊ろうか――私は美男美女を見渡して。ふと、人混みの向こうにひときわ美しい王子様が立っていることに気付いた。金髪碧眼、とろかすような優しい眼差し、王子様と言われて誰もが想像するような、はっとするほどの美青年。
「アーベル様!」
そう、彼はいつも私の夢に出てくる王子様。幼馴染で、友人で――まだ恋人でこそないけれど、友達以上といった関係で。いわゆる、両片思いというやつだった。
「ディアナ」
アーベルは優しい笑顔で駆け寄る私を迎えてくれる。私の手を取り、手の甲へと薔薇のような唇で口付けを捧げてくれた。
「今日もかわいいね」
「ふふ、ありがとう。あなたも素敵よ」
「光栄だよ。……では、可憐な姫君と踊る栄誉にあずかっても?」
一番最初に踊る相手は、やはりアーベルに決まりだ。差し出される手を、「もちろん」と私はとった。
――煌びやかな楽団達が、私達の為に美しいワルツを奏でる。
私は美しい王子と見つめ合い、麗しいドレスを翻し、軽やかに踊る。
誰もが私に憧れて、誰もが私を称賛する。
これが夜な夜なの、私の夢。幸せで、輝いて、安全で、私の為だけの、楽しい楽しい夢の世界。
明日はアーベルが行うドラゴン退治に同行しようか。それとも、美しい花畑でおいかけっこをして遊ぼうか。まだ夢の中なのに、私は明日の夜の夢を思い描いていた……。
――こんなふうに、私だけの世界が、夜になる度に続いていくのだと思っていた。
だって、ずっとそうだった。生まれてこのかた17年、ずっとずっとそうだったから。
「ディアナ、楽しんでいるようだね」
アーベルと踊り終えて、拍手喝采に包まれる最中、私を呼ぶ声があった。
お父様――国王陛下だ。もちろん『私』の父親とは見た目も振る舞いも何もかも違う、夢の中の登場人物としての父親である。王様らしく煌びやかないでたちで、いつもニコニコと穏やかな紳士だ。
「お父様」
私は微笑みかけ、アーベルは深々と一礼をした。国王は穏やかな笑みのまま、こう言った。
「今夜は素晴らしい発表があるよ」
「素晴らしい発表、ですか?」
あれ……なんだろう? 知らない展開の訪れに、私は目をぱちくりさせる。
国王は一同へ視線を巡らせると、高らかにこう言った。
「我らの姫、ディアナの結婚相手が決まった!」
――え?
わぁっと湧いた歓声の中、私はただただ驚きの中にあった。
貴族の御曹司や王子達が、夫は自分か? と色めき立っている。
……私、結婚したいだなんて願ったっけ?
相手はアーベルだろうか。……まだ恋人にもなっていないのに、いきなり結婚だなんて。少し照れ臭いな……やっぱり恋人期間を経てからの方がいいや。
私は『夢/世界』がそうなるように望んだ。いつもならこうすることで、夢のシナリオは私の思うがままになった。
けれど。
「ディアナ、お前にはノワ辺境伯と結婚してもらう」
続く国王の言葉は、私の望みを全く反映していなかった。どうして? ていうか……ノワ辺境伯って、誰? ここにいる人じゃないみたいだけれど。
「あ、アーベル様……」
思い通りにならない急展開に、私は不安な気持ちになって、王子様を探した。私が夢の中で困った時、いつも助けてくれるのは彼だ。……まあ、『困った時』というのは『そうなるように創造主たる私がわざと仕組んだご都合展開』なんだけれども。
かくして振り返ったそこに、アーベルはいた。……知らない令嬢と手を繋いで見つめ合っていた。熱っぽい眼差しと距離感は、二人がねんごろな関係だと一目で分かるものだった。
「え――そんな、」
おかしい。ありえない。
こんな展開、望んでない。
夢が私の思い通りにならないなんて。
こんなの……生まれて初めてのことだった。
――あれよあれよと、まるで追放されるかのように、私は馬車に乗せられた。
「ディアナ、幸せにね!」
夢の中の両親(国王と妃)、それからアーベルと名前も知らない彼の恋人に手を振って見送られ。
「ちょっと待ってよ、ねえ――」
私の言葉と伸ばした手は、勢いよく閉じる馬車の扉に遮られ。
まるで籠をシェイクされるような激しい揺れに、私は座っていることもままならなくなって、悲鳴を上げた。
なんなの、これ。
どうしてこんなことに!
ぐるぐる揺れる視界の中、私はどうにかこうにかドアに手をかけると、必死に思いでそれを開け放った――その勢いで、私はぽーんと空中に放り出される。
「きゃああっ!」
ぬかるんだ地面に転がった。冷たい泥が、白い肌とドレスを汚した。
……周囲は淀んだ黒い沼地になっていた。ねじれた枯れ木が疎らに生え、空はぞっとするほど暗く、辺りは闇に閉ざされていた。私が倒れていたのは荒れ果てた道のようで、その先には、おどろおどろしい屋敷が見えた。
気付けば馬車は消えており、私はひとりぼっちだった。
(……これが悪夢なの?)
悪夢なんて今まで見たことがなかった。全部全部、思い通りになったから。
ああ、どうしてこんなことになったのか。訳が分からない。
(醒めろ、醒めろ……)
強く念じてみる。いつもなら醒めようと思えば目覚めることができるのに、今回に限ってはそれすらもできなかった。
……そうしている間に雨まで降り始めた。空から泥が降るような、べたついた、黒くよどんだ、冷たくて嫌な雨だった。
私の、ディアナの白い体が、黒く汚れていく。ヒールではこの泥沼をうまく歩けない、ぬかるんで足がとられる。
こんなところにいたくない。……雨をしのげそうなところは、あの屋敷だけみたいだ。気味が悪くて近寄りたくない……だけどこの黒い沼地にひとりぼっちでいるのも怖かった。
(どうして、夢の中でこんな目に遭わなきゃならないの)
夢の中でぐらい、幸せな想いをさせてよ。泣きそうになりながら、私はドレスと肌が汚れていく不快感と共に沼地の道をどうにか歩いた。
そして、屋敷の門の前にたどりついた。
ボロボロで、廃墟みたい。門は朽ちてひしゃげて、歯抜けになった格子の隙間から中に入ることができた。庭園も荒れ放題だ……こんなに暗いのに窓から光も見えない。誰も住んでいないのだろうか?
おそるおそる、玄関の屋根の下へ。はあ、と吐いた溜め息は冬の日のように白かった。そういえば――寒い。抱え込んだ腕は冷えきっていた。
(……このまま目覚めなかったらどうしよう)
不安が不安を連れてくる。ドアを背に、私はずるずると座り込んでしまった。泥を吸ったドレスが重たかった。ドレスより重たい溜め息を吐く……。
と、そんな時だった。
足音が聞こえる……後ろから……つまり、ドアの向こう、この廃墟屋敷の中から。
誰かいるの? 立ち上がって振り返り、私は後退る。足音は人間のものにしては不規則で引きずるようで、おぞましくて……震えながら立ち尽くしていると、やがて、不気味な軋む音を立てて扉が開いた――。
――現れたのは、黒い、歪な、巨体。
影が現れたのかと思った。よく見ればボロきれの黒いローブ。垂れ下がる布で顔の隠れた大男。ローブの隙間からは歪な角とナイフのような爪が覗き、下半身からは骨のような長い尾を引きずっていた。
化け物――私は息を詰まらせる。悲鳴すらも出なかった。化け物の顔らしき部位が私の方を向いた。
「これはこれは――ディアナ姫」
低く掠れてざらついた、しかし、敵意のない声だった。
その声は目の前の黒い巨体から発せられていた。
「辺境伯のノワと申します、御足労頂きありがとうございます」
鋭い大爪を自らの胸にあてがい、黒い巨体――ノワ辺境伯は恭しくかしずいた。
――化け物のようなそのひとこそ、『私(ディアナ)』の婚約相手だったのだ。
「、っ……!」
殺されるのではないか、と思考が凍り付いた。動作こそ穏やかそうに見えるし『婚約者』ではあるが、黒い顔からは表情が読み取れないから何をする気なのかもわからない。わからないから、怖い。
巨体の怪物はゆらりと身を起こすと、そんな私を見下ろして。
「どうぞこちらへ……ここの雨は穢れていますから、濡れたままというのはよろしくありません」
穢れ、と聞いて私はぎょっとして黒く染まってしまったドレスを見た。「すぐに害が出ることはありませんが」とノワは言って、「さあ」と手の動作で屋敷の中に入るよう促している。
どうしたらいいんだろう。扉の向こうの屋敷は明かりもついておらず、蜘蛛の巣だらけで、陰鬱で、廃墟そのもので、不気味で……でも、こんな恐ろしい雨の中で独りでいるぐらいなら。意を決して私は屋敷内へと踏み込んだ。
「お召し物が汚れてしまいましたね。……浴場へご案内を」
私が屋敷内に入って数歩歩いたところで、扉が軋みながらひとりでに閉まる。その音に驚いて私が振り返っていると、ノワがそう言って手を軽く叩いた。
そうすると……するする、天井から現れたのはボロボロのマネキンだった。ぼろきれ同然のクラシカルなメイド服、顔は何もなくつるんとして、髪の毛も何もない。手足には操り人形のように糸がついていて――天井を見上げたけど、妙に薄暗くて糸の先は分からなかった。
「ディアナ様、こちらへ」
乙女の声だが、機械音声のように棒読みめいた言葉だった。メイドが一礼し、スーッと床の上を滑るように移動し始める。まさに操り人形のようだった。
……こんなお屋敷のお風呂なんて、想像するだけで鳥肌が立ちそうだった。「早く覚めろ」と念じ続けても結局無駄で。だから私は慌ててこう言った。
「だっ……大丈夫! その、魔法……そう魔法! 私は魔法を使えるから!」
夢の中は思いのまま、私は魔法だって使える。手をかざして、いつものように夢の中で魔法を扱うイメージを強くして――もし魔法も使えなくなっていたらどうしよう――かくして魔法は無事に発動した。掌から清らかな水を思わせる光が流れて、私の汚れを綺麗にしていった。次いで吹き抜ける風が、濡れた髪や服を乾かしていく。
しかしドレスは黒いままだった。汚れは確かに落ちているのに、穢れがドレスの白を塗り潰してしまっていたのだ。
(どうして……なんで思い通りにならないの)
真っ黒なドレスを握り締め、呆然と立ち尽くすしかなくて。けれど――
「黒もお似合いですよ」
ノワの声がして、私は弾かれるように顔を上げた。そのひと(ひとかどうか分からないけれど)の顔は相変わらず分からないけれど、その場しのぎのお世辞とか、憐れみからの慰めとか、そんなのではないように感じた――私の思い込みかもしれないけれど。
「……ありがとう」
どうにかそう返せた。緊張でぎくしゃくした笑みになってしまったけれど。
ノワはそんな私を、一歩離れたところから見ている。
「不安を抱かれるのも無理はありません。……温かいお食事でもいかがでしょう。身体が温まれば心も少しは落ち着くはずです」
「……なんだかごめんなさい。気を遣わせてばかりで」
「いえいえ。夫婦円満のコツは思いやりですから」
「ふうふえんまん、」
そうだ。私はこのひとの、妻となるべくここに放り出されたのだ。
「食堂はこちらです」と歩き始めるノワの後を追いつつ、私は大きな背中に問いかける。
「あの――どうして私達は結婚することになったの? あんまりにも突然で、私、なにがどうなってるのか」
「王様が決められたことです。……式も何も準備ができておらず申し訳ございません」
「いえ、そんな……あなたを責めたいわけじゃなくて、ただ、私は……ただ」
「ただ?」
「ただ……、」
自分の中で、自分を整理する。
私は――不安で。ままならなくて。
それはどうして?
夢が思い通りにいかないから……それもあるけど、もっと深いところで感じていたのは……。
――脳裏に、私を素知らぬ笑顔で見送る人々の姿が蘇る。
「私は、ただ……」
ぽたり、ドレスを握り締める手の甲に涙が落ちた。
「アーベルやお父さんお母さんや、皆から……『お前なんてもう要らない』って捨てられたような気がして、悲しくて、こんなこと今までなくて、どうしたらいいのか分からなくて」
拒絶への恐怖。孤立への不安。未知への混乱。モヤモヤの理由が見つかれば、次から次へと涙が出てきた。
「このまま夢から醒めなかったらどうしよう。これからずっと思い通りにいかなくなって、夢でも嫌なことばっかりになったらどうしよう。どうして……私、なんにも悪いことしてないのに」
とうとう耐えきれなくなって、私はわあっと泣き崩れてしまった。両手で顔を覆って――だから私は知らなかった。ノワがその手を私の方に差し出そうとして、刃物のような爪で傷つけてしまいそうだから引っ込めたことを。
「ディアナ姫、――」
ノワの声が聞こえた。手と涙で閉ざされた視界の中、最後に聞こえたのは……
「俺になにができる?」
――なんにもできないよ。
だってあなた、私の夢の中の登場人物なんだから。
●
いつも、スマホのアラームが鳴る2分前に自然と目が覚める。
見慣れた天井。いつものベッド。私の部屋。
夢から覚めて、私は『綺麗で万能なお姫様ディアナ』ではなく『ありふれた女子高生ミチル』に戻った。
しばらく天井を見上げたままボーッとしている。あっという間に2分が過ぎて、スマホのアラームでようやっと、目を覚ました実感が湧いた。
「……変な夢……」
よく「夢はすぐ忘れてしまう」なんて言うけれど、私は夢の出来事を鮮明に覚えている。
あんな夢、生まれて初めてだった。自分の思い通りにならない夢なんて……。
(でも、あんな夢リセットだリセット)
今までも、展開に満足したり、飽きたり、これ以上ないハッピーエンドを迎えたら、別の世界を新しく想像して創造していた。大団円の最終巻を読み終えたので、新しい漫画を読むように。
今回もそうしよう。アーベルのことは好きだったし、お姫様として皆から大事にされるのも心地好かったけれど。次は私が王子様になって、お姫様と楽しく過ごそうかな。勇者として冒険の旅に出るのもいいかもしれない。
なんて考えながら、身を起こして溜息を吐く。眠ったはずなのに疲れているような気がした。
(……朝ごはん食べて、学校いかなきゃ……)
のそり、勉強机の椅子にかけたままのくたびれたセーラー服に手を伸ばす。鏡に一瞬映るのは、地味で、太っているように見える丸顔で、ニキビだらけで、美しくもない、現実の私の疲れた顔。
朝食を食べて。通勤通学ラッシュの満員電車にすし詰めになって。追われるような早足で学校に行って。黙々と勉強をして。
ありふれた高校生の生活。
……いや、標準の高校生と比較すればかなり地味だと思う。
私は別にいじめられても嫌われ者でもないけれど、かといって人気者でもなんでもない、そんな存在。教室でクラスメイトと幾つか会話はするけれど、彼女らの友達や特別ではない。
当たり前だけど彼氏なんてものもいないし、そんなものができたことなんて一度もない。
そして部活も入っていない。習い事もしていない。地元から少し離れた高校だから、中学時代の知り合いもほとんどいない。家族仲は極めて普通。インドア派。一日の中で発する言葉の大半は挨拶と会釈と相槌。
……「そんな人生楽しいの?」なんて、キラキラした日々を送るコに言われそう。
だけど私は「今を変えたい!」だなんて躍起な想いは特になかった。
だって私には夢がある。
アイハバドリーム、キング牧師のそれではないけれど。
将来の展望ではなく、眠っている時に見るあの現象の方の夢。
昼休みとか、退屈で眠たい午後の授業とか、放課後とか、帰りの電車の中とか。私はよく昼寝をする。私は寝ようと思ったらスイッチを切るように眠ることができた。そしていつも夢を見る。夢中になって、思い通りの夢を見る。
だから私に現実世界での『娯楽』はあまり魅力的に映らない。ソシャゲとか、カラオケとか、お買い物とか、映画とか、スイーツとか、読書とか、SNSとか……。まるっきりやったことないわけじゃないけれど、そういうのに手を出して落ち着く先は、「やっぱり夢が一番いい」という感情で。
だって夢はお金はかからないし、誰かと比較されることもないし、スケジュールを組むとかあれこれしなくていいし、人間関係に煩わされることもないし、なにより、どんなことよりも一番自分を満足させられるから。
夢こそが、私の生きる世界だった。
学生生活をそつなくこなして、お昼休み。昼食のパンを手早く食べて、私はいつも机に突っ伏す。
――はあ、それにしても思い通りにならない夢なんて初めてだ。どうしてあんな夢を見てしまったんだろう。疲れてたから? もうすぐ生理っぽいからPMSってやつ? 思春期特有のホルモンバランスの乱れ? 心当たりなんて特にないんだけどな……まあいいや。
新しい夢を見よう。今度の世界では私は勇敢な勇者様。精悍な青年で、剣と魔法の達人で、悪い魔王にさらわれたお姫様を助けるべく旅に出ることになって……。
――眠りに落ち、夢の中で私は『目を覚ます』。
薄暗い天井。雨の音。暗い。黒い。
天蓋に囲まれた、シックなベッドで私は体を起こした。
あれ……? 『勇敢な青年』にしてはベッドがオシャレすぎるような。私は自分の身体を見渡した。白い清楚なネグリジェに包まれたその体は、若い男の人のものではなく乙女のもので。そしてオパールのように七色に移ろう光沢をした白銀の髪――これは、ディアナのものじゃないか!
「どうして!?」
自分の顔をぺたぺた触って、私は声をひっくり返す。転げ落ちるようにベッドから出ると――ベッドは灰色のレースの天蓋で囲われていた――そこはゴシックな雰囲気の、薄暗くて陰鬱な寝室だった。窓の外には泥のような黒い雨。
ここは――ここは、ノワの館? じゃあ、私は昨夜の夢の続きを見ているの!?
「ディアナさん、どうなされました!?」
そんな慌てた声と、ドアが勢いよく開かれたのは同時だった。狭い場所をくぐるように、巨体の怪物――ノワが身を屈めて室内を見渡して、そして、私を見つけた。
「の……ノワ様、……」
「どこか具合がよろしくないので? 痛い場所はありますか? よいしょ……」
棘棘しい体を入り口に引っかけて窮屈そうにしながらも、ノワが寝室に入ってくる。私は「いえ、」とどうにか答えた。具合がよくないのは、思った通りの夢が見れないという意味では本当のことだけど……。
とかく、私が無事だと分かると、ノワは明らかに「ほっ」としたような様子を見せた。
「あ! ああ――レディの寝室に勝手に踏み入って申し訳ないね」
それからさっきとは別ベクトルの慌てた様子を見せ、手を叩く。そうすると『昨夜』も見た操り人形のメイドが、手品のように天井からするすると現れた。彼女が身支度を手伝ってくれるらしい。
「では失礼します、食堂でまた……はあ、よかった……」
そのままノワはそそっかしい様子で――ドア枠に棘やらを引っかけながら――後半の言葉は独り言――退室していった。ずるずる、尾や体を引きずる音が遠ざかっていく……。
――なんだか、意外というか。
ノワ辺境伯はもっと厳かで近寄りがたくて、固そうな人だと勝手に思っていたから。あんな振る舞いをするだなんて、驚かされてしまった。
「ディアナ様の悲鳴に、旦那様はたいそう驚かれておられましたよ」
メイドが棒読みだけれど感情を感じさせる声で言う。私はハッと我に返った。
「あ――あの。ごめんなさい」
「いえ、騒音被害という意図の嫌味ではなく。旦那様がそれだけあなたを気遣われておられましたよ、という意味合いの言葉です」
「なる、ほど、……」
寝室は更衣室も兼ねている。メイドがクローゼットを開いて、今日のドレスを選んでくれた。私は着せ替え人形のようにされるがまま、彼女に着つけてもらいながら――まだ、狐に包まれているような心地。そんな中でも、気になったことを尋ねてみる。
「昨夜、あのあと……どうなったの?」
泣き崩れてからの記憶がない。だって目が覚めてしまったから。……夢だからこその唐突な場面転換ってことになるんだろうか? そう思っていたら。
「あの後、ディアナ様は眠ってしまわれました。さぞお疲れだったのでしょう。恐縮ながらわたくしめが運ばせて頂きました。お着換えもわたくしめが」
「そうなんだ……いろいろごめんね」
「なぜ謝られるのでしょう? メイドとして為すべきことをしたまでです」
「……ノワ様はどうしてた?」
「それはもう。たいそう心配されて。抱き上げようとするのでわたくしめが急いで止めました。旦那様の手で持ちあげられれば、ディアナ様はエッグスライサー上のゆでたまごのごとく、スライスされていたでしょうから」
「あ、あはは……」
確かにあのナイフのような大爪で抱き上げられたら……考えるだけでゾッとした。
(それにしても、リセットができないなんて……本当にどうしてだろう。でも……とりあえずノワ達が今のところは酷いひとじゃなさそうでよかった)
とは思うものの。私はノワのことを9割以上は知らないことに改めて気付く。朝食の時に聞いてみよう、ノワのいろんなことを。まずは自己紹介が大切だと思うから。……少なくともこちらからあえて邪険にしなければ、相手から無用な敵意を引き出すこともあるまい。
さて、姿見の前で私はディアナの私を見た。
シックで露出のほとんどない、細身のドレス。ともすれば喪服のようでもある。自画自賛になってしまうが、ディアナの白い体によく映えて、黒が白を、白が黒をそれぞれ引き立てていた。顔には薄めにメイク、髪はふわりとシニヨンに編み込まれ、黒真珠の飾りが煌めいている。
こんな風にシックでノワールないでたちは初めてだった。思いがけないあでやかさに、私はどきりとしてしまった。
「ディアナ様、いかがでしょう」
「うん――すごく綺麗。ありがとう、あの……あなたの名前は?」
「ありません。ノワ様の魔法で動いているだけの人形ですので」
「……そう」
「では参りましょうか」
メイドの案内で、私は暗い屋敷を歩く。
外からの雨の音、踏む度に軋む床の音、私の靴音……。
湿っぽくて、鬱屈としている。
「このお屋敷には他に誰か住んでいるの?」
「いえ。旦那様とディアナ様だけでございます」
「……使用人は?」
「わたくしめのような人形が幾つか。必要あらば旦那様が魔法で増やしたり減らしたりします」
「屋敷の近くには何があるの?」
「森を抜ければ町があります。近く、と言っても馬車か移動魔法が必要なほどの距離ですが」
「……王宮からお手紙が来ていたりはしない?」
王宮は、もともとディアナが住んでいた場所だ。ダメ元の質問だったけれど、「いいえ」と即答されてしまうとやはり少し凹んでしまう。
(この婚約は何かの手違いだった、ってなったらよかったのに……私、厄介払いされたのかなぁ……私が気付いてないだけで、私、皆から嫌われてたのかなぁ……、どうすれば前みたいに夢を思い通りにできるんだろう……)
なんて、ぐるぐる考えている間に食堂へのドアをメイドが開けてくれた。白いテーブルクロスがピンと敷かれた長い机、古臭いシャンデリアが印象的な、薄暗いけれど豪奢な印象の空間で。
「おはよう、ディアナさん」
ノワが席についている。テーブルの上にはシンプルな朝食――ホテルの朝食メニューをオシャレにしたような感じ――が二人分、配膳されていた。
きっとこういった西洋中世的な趣に詳しい人が見たら、やれここがおかしいやれここが歴史的に間違いだと笑ってしまうような光景なんだろう。でも私は世界史の授業とドラマとアニメと漫画とゲームでしか、こういう西洋中世風の世界観は知らない。そもそもこの世界の創造主は私なのだから、私が白と言えばカラスだって白なのだ。
「……おはようございます、ノワ様」
私は一礼をして、メイドが引いてくれる席に腰を下ろした。ちょうどノワと向かい合う席だった。おずおずとノワの顔を上目に盗み見る。彼の顔はやっぱり覆い隠されて分からない、でもこっちを見ているような気がする。
数秒ほどの、沈黙。不意にノワが鋭い大爪を組んだ。祈るような仕草だった。
「――この食事が、我らの今日の糧となりますよう。では、いただきましょうか」
食膳のお祈りだったらしい。ノワが促すので私はカトラリーを手に取った。ノワも鋭すぎる爪の手で器用にフォークを持つ。
パン。ベーコン。目玉焼き。野菜。スープ。……ノワは慎重な様子で、カトラリーを手にしたまま料理を眺めている私を窺っている。彼が思っていることは伝わってくる。だから私は料理を一口、「おいしいです」と先んじた。
「そうですか、お口に合ってよかった」
顔は見えない、けど、安心して微笑んでくれたような気がした。ノワの見た目は怖いけれど、中身はそんなに怖くない……のかな。
(でも、私の夢が思い通りにならないのなら、……アーベルみたいに見捨てられたりするのかな)
表面は好意的でも、心の根っこでは私のことが嫌いで嫌いで堪らないかもしれないし。なにせ彼からしても唐突すぎる婚約とのことだ。見も知らぬ女がいきなり住居に上がり込んできて、何も感じない方が無理な話だろう。
スープを小さく飲む。……ほんと、夢の中でくらい、いい思いをしたっていいじゃない……。
「あの、」
そうだ。そういえば朝食の時に自己紹介し合おうと思っていたんだ。とりあえず暗い気持ちは今だけ押し込んで、上っ面だけでもひとのいい笑みを浮かべて、私はノワへと顔を上げた。
「自己紹介をしませんか? 私達、まだ互いのことなんにも知りませんよね」
「ああ、それもそうですね」
ノワの食べる仕草はとても上品だった(ちなみに食事は、顔を隠す布の下に器用に持っていって頬張っているようだ)。彼は一度カトラリーを置く。
「改めまして――辺境伯のノワと申します。この最果ての地の領主を務めております。趣味は……なんでしょうね。読書と紅茶と花は好きですよ。ディアナ様はどうでしょう。お好きですか、本と紅茶と花は」
「え――ああ、本は……時々は読むかしら。紅茶は……ミルクティーなら。お花は好きです、花の名前をたくさん知っているわけではないけれど」
「そうですか、そうですか」
ノワの声に明らかな喜色が混じった。骨のような尾の先端がゆらりと揺れる。
「書斎に本がたくさんあります。いつでも、好きなものを読んでいただいて構いませんよ。ミルクティーも、いつでも好きなようにメイドにお申し付けを。……花はどのようなものがお好きですか? 色とか、形とか、もちろん品種があればそちらをお教えいただいても」
「……そう、ですね……、カスミソウ――ええ、カスミソウが好きです。白くて、小さくて、花弁がふわふわしていて……花束の脇役になりがちですけど、素敵な花だと思います」
「そうですか、そうですか」
先程と同じリアクション。では今度は私が、彼に問いかけてみる。
「ノワ様はどのようなお花がお好きなのですか?」
「俺ですか。俺は……こう言うのも恥ずかしいのですが、花そのものが好きで……花ならば何でも、美しいと思います。でも、そうですね、カスミソウ――あの愛らしく清らかな佇まいは、ディアナ様を思わせてくれます。あなたが好きな花が、今、俺にとっての特別な花になりました」
私、これ、今、ナチュラルに口説かれている? 紳士的な言葉遣いに、思わず胸の奥がじんとした。アーベル達に『捨てられた』私には今、そういう優しさがとても染み入った。おかげさまで気の利いたことなんて何も言えなくて、私は「へぁ、あ、どうも」と俯いて『ミチル』のように返事をしてしまう。
いつもは――たとえばアーベルにどんな甘い言葉を囁かれても、こんなことにはならなかったのに。もちろんアーベルの口説き文句にはトキメいていたし、嬉しかったし幸せだったけど、『完璧なお姫様(ディアナ)』がこんなふうに狼狽えてどもることなんてなかった。
「あの……」
そうだ。私はディアナなんだ。完璧なお姫様なんだ。気を取り直して、私はもう一度、顔を上げる。昨夜からずっと、気になっていることがあった。
「失礼な質問だと思うんですけど……どうしてノワ様は顔を隠されているのでしょう?」
「とても醜いからね。ひとに見せられるようなものではないのですよ」
なんてことない物言いで彼は答えた。まるで「あなたの質問で気分を害していませんよ」と言っているかのよう。
「凡そ察しておられるとは思いますが……俺はこの通り、人間からかけ離れた異形の姿をしております。ですが一応は、モンスターではなく人間ですよ。そこはご安心ください。……なんていうか、呪いとでも言いましょうか。この世界の摂理、あるいは規律、とでも言いましょうか。とかく、食事中にして快い話題ではありません。また時を改めて説明しますね」
「あ――ごめんなさい、不躾で」
「いいえ、気になるのは当然でしょうとも」
そう言って、食事に戻ろうかと言わんばかりにノワがフォークを持った。私もそれにならう。ここで会話は一度途切れる――はずだったが。
「ああ! いけない、俺としたことが。いの一番に言おうと思っていたのに」
ノワが顔を上げる。私は首を傾げる。
「ドレス、お似合いです。髪型も素敵です。お美しい」
「ど――……どうも、……」
それを言う為だけに呼び止めた……?
このノワというひと、なんというか、不思議だ。いろいろな意味で。
●
チャイムでビクッと飛び起きた。
そうだ、お昼休みに寝ていたんだっけ。夢に没入しすぎてて一瞬忘れてた。
「……ミチルちゃん顔赤いよ? 大丈夫?」
机の横を通りかかった女子クラスメイトが私の方を心配げに見た。熱でもあるのかという物言いに――顔が赤い理由にはたっと心当たりがあって、「あっうん大丈夫大丈夫!」と早口で捲し立ててしまった。「そう?」と彼女は自分の席に戻っていった。
――「お美しい」。
ノワの低い声が耳に残っている。私はそれに照れてしまっていたのだ。今の私は、ディアナじゃなくてミチルなのに。褒められたのは、ディアナなのに。
(……まだ朝食の途中だったな)
夢を思い出しつつ。私は――ノワに興味を抱き始めていた。「優しいから」、なんて我ながらチョロい理由だとは思うけれど。
「そうですか、そうですか」と落ち着いた声音に明らかに混じっていた、喜びの色を思い出す。彼は楽しげに、私と会話をしてくれた。もっと彼と会話したい、彼のことを知りたい、私はそう感じていたのだ。
幸い、次の授業はこっそり昼寝しても叱られない。私はノワと会う為に、ミチルの時間を眠りに捧げることにした。
リセットできない、思い通りにならない、だからこそ次にノワがどんなことをするのか、私はいつの間にかドキドキしていたのだ。
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気が付けば私は、薄暗い屋敷の中を歩いていた。
中庭の見える回廊。汚れた雨に降られる庭は荒れ放題で、茨が刺々しく茂っていた。
そうだ――私は朝食後、ノワに屋敷内を案内してもらっていたんだっけ。夢の場面が飛んだ時、私はその過程をいつも理解できた。
隣を見れば、ノワが屋敷のどこにどんな部屋があるのかの説明をしている真っ最中だった。ちょうど説明が終わったところだ。
「とはいえ、うちが嫌になったらいつでも去って頂いてかまいませんからね」
ノワが会話の中の自然な流れでそう続けたので、私は目を丸くした。
「どうしてそんなことを?」
「こんな僻地です。ディアナさんのおられた王宮のような賑やかさも、華やかさもございません。俺もこんなモンスターのような恐ろしい見た目ですしね。何よりこの最果ての地は――呪われた場所ですから」
「呪われた場所……、……ねえ、ノワ様。ここが呪われた場所なのだとしたら、そこへ嫁げと命じられた私に、帰る居場所なんてあるのでしょうか」
思わず私がそう言うと――言ってから嫌味のような内容になってしまった、自己嫌悪してももう遅い――ノワはどこか困った様子で脚を止め、私の方に向き直った。
「ご無礼をお許しください……しかし必要あらば資金や道具を用意いたします、召使としての人形も。どうか『帰る場所がない』のではなく、『その気になればいつでも好きな場所に住める』、とお考えを。あなたは自由なのです」
自由。夢を思い通りにできない私は、むしろ今は不自由さを感じていた。
それと並行して、ノワの言葉からは卑屈や自己嫌悪の感情が感じられないな、と気付く。客観的に、自分や自分の状況を加味して、「うら若い乙女ならおそらくこう考えるのだろう」というノワの思考の流れを感じた。
「……私を、ここやあなたに縛りたくないってことですか? ここが……呪われた場所だから」
その問いかけに、ノワは沈黙で肯定を示した。雨降る庭の方に顔を向けている。
呪われた地の、異形そのものな領主。まるで美女と野獣の野獣みたい。あのお話の野獣は、呪われたせいで醜い姿になっていたけれど。彼も呪われているんだろうか。どうして呪われているのだろうか。でも根掘り葉掘り聞けるような空気ではなかった。センシティブな話題を出すには、私達はあまりにも出会ったばかりだった。
……好奇心に任せてグイグイ聞けるひとならうまく聞けたんだろうけど。私はあんまり、そういうタイプじゃない。言葉のやりとりは、苦手。相手の地雷を踏んだらどうしよう、とか、今の発言イヤに思われないかな、とか、そういうことばっかり気にしてしまうから。そうやって気にしているクセに、度々失敗をするのだから笑えないんだけど。さっきみたいにね……。
(結婚するのに式の話をしないのも、私を縛らない為なのかな)
そう考えつつ、私は彼が見ている方向――荒れた庭を眺めつつ、こう言った。
「……まだ昨日の今日です。あなたが、ここが、嫌かどうかも分かりません。だからここを出ていくとか、そういうことは考えられません」
とはいえ、逆にここが好きともまだ言えない。どちらかというと不気味で陰険だなぁという感想すらある。でも今日までのノワを見ているに、少なくとも彼が悪人で意地悪という感じはしないので、私の方からノワを無下にする理由はなかった。
「そうですか」
ノワの声は優しかった。彼からは、私がどう距離を取ってくるのか推し量っているような気配を感じる。
――だったら、距離を詰めるのは私からしなければならないようだ。
「ねえ、それよりも」
まだ彼のことは異性として好きとか、そういうのは分からないけれど。でも、私はノワと仲良くなってみようと思った。彼がどんな人なのか、もう少し知りたい気持ちがあった。顔を上げ、ノワを覗き込む。覗き込まれて彼はちょっとビックリしたようだった。
「それよりも――何ですか?」
「もう少しお屋敷を明るくしませんこと? それからお庭も……率直に申し上げますが、いささか荒れっぱなしですし。お屋敷も蜘蛛の巣が張っている場所があったり」
「あ……ああ、申し訳ございません」
「いいえ。折角、ここでお世話になるんですもの。……ノワ様、大掃除しません?」
「大掃除」
「私もお手伝いしますよ」
「いやそんな! ディアナさんのお手を煩わせるなど」
「ではノワ様も一緒に。それなら平等でしょう?」
「しかしですね……」
「いいじゃないですか。魔法アリですし」
押してみると、意外とノワはあっさり折れてくれた。「しょうがないですね……」と大きな肩を竦めつつも、どこか満更でもない様子だった。