短編
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作法室の告白
『仙蔵って、何で作法委員会に入ったの?』
本日は、同級生である仙蔵から頼まれ、作法委員会が所有する生首フィギュアの手入れを手伝っていた。
手入れを始めてから彼此数時間は経過している。最初は談笑から始まり、実習などの話で盛り上がっていたのだが、ふと唐突に気になって口に出してしまった。
「藪から棒だな。なんでそんな事を疑問に思う?」
質問を質問で返された。
この人、コミュニケーションの基本ってものを知っているのだろうか。
『いや、数ある委員会の中でどうして作法を選んだのかなって、少し気になっただけだよ。』
「ふむ……。私が作法委員会に入ったのは、当時尊敬していた先輩に憧れていたということも関係しているがな。」
『へ〜、あの仙蔵が憧れるくらいだから、すごく優秀な先輩だったんだね。どんな人だったの?』
あの完璧主義な仙蔵から思いがけない返答が返ってきて、さらに興味が湧いてくる。
「当時、私が一年生だった頃、その先輩は六年生だった。私と同じい組でもあり、実に理論的で冷静沈着なお方だった。」
手に持った生首フィギュアを磨く手を一旦止め、仙蔵が懐かしむように話し始める。
「私は一年生ながら傲慢であった時期もあり、歳が近いせいか、よく二年生の先輩方には嫌われていてな。嫌がらせを受けることもあった。その時、制止に入ってくれたのがその先輩だった。」
当時の仙蔵とは全く関わりがなかったため、彼がどんな一年生だったのかは知らないけれど、先輩から嫌がらせを受けるなんて相当大変だったんじゃないだろうか。……まあ、傲慢なところは今でも割と健在だと思うけれど。
「……名前、今何を思った?」
「っ!?」
読心術でも使えるのだろうか。まるで心の中を見透かされたように、仙蔵の鋭い視線がこちらを射抜く。
『滅相もございません。何も思っておりません。』
「ふん、まあいい。最初は忠告を受けるものだと思ってその先輩に連れてこられたのだが、行き着いた場所がここ、作法室だった。そこで私は、人として上手くやっていく方法や、目上の者に対する礼儀作法、さらには戦術における作法に至るまで、実に多くのことを学ばせてもらったのだ。」
確かに、今の仙蔵の上級生としての振る舞いや、年上・後輩への接し方は文句のつけようがないほど立派だ。特にあの山田利吉さんや先生方の輪に混ざり、率先して戦法の考案や議論に参加している姿は、同級生から見ても誇らしいものがある。
「忍びだけではないが、特に傲慢というのはあってはならないものだ。自分の能力に奢り、足元をすくわれる。相手の能力をみくびってもいけない。代表的な者で言ったら、滝夜叉丸や三木ヱ門だな。」
あの二人の場合は、傲慢というか元々の性格の影響もかなり大きい気がするけれど。まあ、可愛い後輩であることには変わりないのだけれど。
「だから私はこの教訓を得て、後輩たちにもその思いを引き継ぐために作法委員会に入った。……ただそれだけのことだ。」
そう話し終えると同時に、仙蔵は手元にあった生首フィギュアをピカピカに磨き終えた。
『仙蔵にそんな過去があったなんてね。……でも、その教訓はちゃんと後輩たちにも伝わっていると思うよ。』
「……そう見えているのなら良いのだがな。」
『それにね、仙蔵がちょっと傲慢なのは、それだけ日々努力している証拠でしょう? 努力があってこそ自信が湧くわけだし。確かにおごりは禁物だけど、努力しても自信を持てなきゃ何もできないのと同じだから。』
「……フン、言うようになったな。」
『今の仙蔵を見ていれば、私にだってそれくらい分かるよ。まあ、全部を理解しているつもりは全くないけど……私は、そうやって努力を重ねてきた今の仙蔵を尊敬しているし、すごく格好いいと思ってるよ。』
作法委員会の後輩たちの顔を思い浮かべながら「あの子たちならきっと大丈夫」と優しく笑みを向けると、仙蔵はハッとしたように目を見張り、ほんのり頬を染めてすっと顔を背けた。
「と、とにかく私の話はいい……。名前、手伝ってくれてありがとうな。」
『ううん、お役に立てたなら良かったよ。』
「それと……もしお前さえ良ければなのだが。」
少し言葉を区切った仙蔵は、まっすぐこちらを見つめてきた。
「作法委員会に正式に入って、私と共に委員会を支えてもらえないだろうか?」
『えっ……!? それはとっても嬉しいお誘いだけど……やっぱり難しいかな。私はただのお手伝いだし、作法のことだってそんなに詳しいわけじゃないから、きっと仙蔵の足を引っ張っちゃうよ。』
「……知識や経験などどうとでもなる。今みたいに、ただ隣にいてくれるだけで良いんだがな。」
ボソッと呟かれた言葉と、急に真剣みを帯びた眼差しに思わずドキリとしてしまう。
えっ……それって、どういう意味……?
返事に困り、緊張の混じった沈黙が室内に流れる。言葉を選んでいると、その静寂をあっさりと打ち破るように勢いよく後輩が駆け込んできた。
「せんぱーい。頼まれてた物をお持ちしましたよー。」
独特のひょうひょうとした声とともに、穴掘り小僧こと綾部喜八郎が部屋に入ってきた。喜八郎、本当にナイスタイミング……!
『喜八郎! お邪魔してるよ。』
「なんだ、名前先輩いたのですか。……あと、何ですかこの雰囲気?」
首をかしげながら、こちらのただならぬ空気を察してジト目を向けてくる喜八郎。
『なんでもないよ! 本当になんでもない! そしたら私、そろそろお邪魔するね!』
「おい、名前……」
呼び止める仙蔵の声を背に受けながら、急いで身なりを整えて部屋を飛び出す。そして、追及される前に扉をそっと閉めたのだった。
「先輩、何かありました?」
「いいや、特に何もない。大丈夫だ。」
そう答える仙蔵の口元には、かすかな笑みが浮かんでいた。手元に残された生首フィギュアに目を落とし、先ほどまで自分の隣にいた名前のぬくもりの余韻を噛みしめる。
いつもなら自分のペースを乱されて不機嫌になるところだが、喜八郎の問いかけを軽く受け流すその表情はどこか柔らかい。喜八郎は理由がさっぱり分からないといった様子で、不思議そうに首を傾げるのだった。
『危なかった……。あの表情、もう少しで持っていかれるところだった……』
作法室を飛び出し、胸を押さえながら息を整える。
くノ一教室の生徒たちが彼を一目見ようと黄色い声を上げる理由が身をもって理解できた気がする。
あの綺麗な顔と真剣な目差しで攻められたら、世の女性なんて簡単に弄ばれてしまいそうだ。
(……うん、他のくノ一たちを敵に回さないためにも、これからは本当に気をつけよう。)
仙蔵の美貌と一瞬見せた素顔の破壊力を身にしみて感じつつ、「ある意味で素晴らしい教訓になった一日だった」と心の中で深く頷くのだった。
___________________________
(いつかお前の心を、私に向けさせる。……覚悟をしておけ)
(先輩、生首フィギュアがへこんでいますよ〜。力入りすぎです〜)
(む……っ)
(うう……なんだか急に寒気が……早速だれかに恨まれてる……?)
『仙蔵って、何で作法委員会に入ったの?』
本日は、同級生である仙蔵から頼まれ、作法委員会が所有する生首フィギュアの手入れを手伝っていた。
手入れを始めてから彼此数時間は経過している。最初は談笑から始まり、実習などの話で盛り上がっていたのだが、ふと唐突に気になって口に出してしまった。
「藪から棒だな。なんでそんな事を疑問に思う?」
質問を質問で返された。
この人、コミュニケーションの基本ってものを知っているのだろうか。
『いや、数ある委員会の中でどうして作法を選んだのかなって、少し気になっただけだよ。』
「ふむ……。私が作法委員会に入ったのは、当時尊敬していた先輩に憧れていたということも関係しているがな。」
『へ〜、あの仙蔵が憧れるくらいだから、すごく優秀な先輩だったんだね。どんな人だったの?』
あの完璧主義な仙蔵から思いがけない返答が返ってきて、さらに興味が湧いてくる。
「当時、私が一年生だった頃、その先輩は六年生だった。私と同じい組でもあり、実に理論的で冷静沈着なお方だった。」
手に持った生首フィギュアを磨く手を一旦止め、仙蔵が懐かしむように話し始める。
「私は一年生ながら傲慢であった時期もあり、歳が近いせいか、よく二年生の先輩方には嫌われていてな。嫌がらせを受けることもあった。その時、制止に入ってくれたのがその先輩だった。」
当時の仙蔵とは全く関わりがなかったため、彼がどんな一年生だったのかは知らないけれど、先輩から嫌がらせを受けるなんて相当大変だったんじゃないだろうか。……まあ、傲慢なところは今でも割と健在だと思うけれど。
「……名前、今何を思った?」
「っ!?」
読心術でも使えるのだろうか。まるで心の中を見透かされたように、仙蔵の鋭い視線がこちらを射抜く。
『滅相もございません。何も思っておりません。』
「ふん、まあいい。最初は忠告を受けるものだと思ってその先輩に連れてこられたのだが、行き着いた場所がここ、作法室だった。そこで私は、人として上手くやっていく方法や、目上の者に対する礼儀作法、さらには戦術における作法に至るまで、実に多くのことを学ばせてもらったのだ。」
確かに、今の仙蔵の上級生としての振る舞いや、年上・後輩への接し方は文句のつけようがないほど立派だ。特にあの山田利吉さんや先生方の輪に混ざり、率先して戦法の考案や議論に参加している姿は、同級生から見ても誇らしいものがある。
「忍びだけではないが、特に傲慢というのはあってはならないものだ。自分の能力に奢り、足元をすくわれる。相手の能力をみくびってもいけない。代表的な者で言ったら、滝夜叉丸や三木ヱ門だな。」
あの二人の場合は、傲慢というか元々の性格の影響もかなり大きい気がするけれど。まあ、可愛い後輩であることには変わりないのだけれど。
「だから私はこの教訓を得て、後輩たちにもその思いを引き継ぐために作法委員会に入った。……ただそれだけのことだ。」
そう話し終えると同時に、仙蔵は手元にあった生首フィギュアをピカピカに磨き終えた。
『仙蔵にそんな過去があったなんてね。……でも、その教訓はちゃんと後輩たちにも伝わっていると思うよ。』
「……そう見えているのなら良いのだがな。」
『それにね、仙蔵がちょっと傲慢なのは、それだけ日々努力している証拠でしょう? 努力があってこそ自信が湧くわけだし。確かにおごりは禁物だけど、努力しても自信を持てなきゃ何もできないのと同じだから。』
「……フン、言うようになったな。」
『今の仙蔵を見ていれば、私にだってそれくらい分かるよ。まあ、全部を理解しているつもりは全くないけど……私は、そうやって努力を重ねてきた今の仙蔵を尊敬しているし、すごく格好いいと思ってるよ。』
作法委員会の後輩たちの顔を思い浮かべながら「あの子たちならきっと大丈夫」と優しく笑みを向けると、仙蔵はハッとしたように目を見張り、ほんのり頬を染めてすっと顔を背けた。
「と、とにかく私の話はいい……。名前、手伝ってくれてありがとうな。」
『ううん、お役に立てたなら良かったよ。』
「それと……もしお前さえ良ければなのだが。」
少し言葉を区切った仙蔵は、まっすぐこちらを見つめてきた。
「作法委員会に正式に入って、私と共に委員会を支えてもらえないだろうか?」
『えっ……!? それはとっても嬉しいお誘いだけど……やっぱり難しいかな。私はただのお手伝いだし、作法のことだってそんなに詳しいわけじゃないから、きっと仙蔵の足を引っ張っちゃうよ。』
「……知識や経験などどうとでもなる。今みたいに、ただ隣にいてくれるだけで良いんだがな。」
ボソッと呟かれた言葉と、急に真剣みを帯びた眼差しに思わずドキリとしてしまう。
えっ……それって、どういう意味……?
返事に困り、緊張の混じった沈黙が室内に流れる。言葉を選んでいると、その静寂をあっさりと打ち破るように勢いよく後輩が駆け込んできた。
「せんぱーい。頼まれてた物をお持ちしましたよー。」
独特のひょうひょうとした声とともに、穴掘り小僧こと綾部喜八郎が部屋に入ってきた。喜八郎、本当にナイスタイミング……!
『喜八郎! お邪魔してるよ。』
「なんだ、名前先輩いたのですか。……あと、何ですかこの雰囲気?」
首をかしげながら、こちらのただならぬ空気を察してジト目を向けてくる喜八郎。
『なんでもないよ! 本当になんでもない! そしたら私、そろそろお邪魔するね!』
「おい、名前……」
呼び止める仙蔵の声を背に受けながら、急いで身なりを整えて部屋を飛び出す。そして、追及される前に扉をそっと閉めたのだった。
「先輩、何かありました?」
「いいや、特に何もない。大丈夫だ。」
そう答える仙蔵の口元には、かすかな笑みが浮かんでいた。手元に残された生首フィギュアに目を落とし、先ほどまで自分の隣にいた名前のぬくもりの余韻を噛みしめる。
いつもなら自分のペースを乱されて不機嫌になるところだが、喜八郎の問いかけを軽く受け流すその表情はどこか柔らかい。喜八郎は理由がさっぱり分からないといった様子で、不思議そうに首を傾げるのだった。
『危なかった……。あの表情、もう少しで持っていかれるところだった……』
作法室を飛び出し、胸を押さえながら息を整える。
くノ一教室の生徒たちが彼を一目見ようと黄色い声を上げる理由が身をもって理解できた気がする。
あの綺麗な顔と真剣な目差しで攻められたら、世の女性なんて簡単に弄ばれてしまいそうだ。
(……うん、他のくノ一たちを敵に回さないためにも、これからは本当に気をつけよう。)
仙蔵の美貌と一瞬見せた素顔の破壊力を身にしみて感じつつ、「ある意味で素晴らしい教訓になった一日だった」と心の中で深く頷くのだった。
___________________________
(いつかお前の心を、私に向けさせる。……覚悟をしておけ)
(先輩、生首フィギュアがへこんでいますよ〜。力入りすぎです〜)
(む……っ)
(うう……なんだか急に寒気が……早速だれかに恨まれてる……?)