短編
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只の後輩ではいたくない
『尾浜、宜しく。』
「こちらこそ宜しくお願いします。」
感情が読めない表情で俺に挨拶をする苗字先輩。今日はくノ一教室の苗字先輩と合同実習だ。
苗字先輩はあの個性派揃いの六年生達と肩を並べる程の実力のある先輩だ。
だいぶ前に苗字先輩が六年生の先輩方を徹底的に潰している姿を見た事がある。さすがくのたまと思いつつその姿に恐怖を抱き、近寄り難い先輩だと思った。
だから今回の実習も正直気乗りしなかった。
心の中で盛大な溜め息をつき、実習に取り掛かる。
今日の実習はとある城に学園長先生から預かった密書を城に潜入し届ける内容だ。
城の警備を掻い潜り侵入する。
目的の城主の部屋まで辿り着き、先輩が隠し持っていた密書を取り出し箱に入れる。
矢羽根でやり取りし、これで後は城から脱出するだけだ。何事もなく終わる。正直今回の実習は簡単だった。
無事実習を終えた筈なのに苗字先輩はずっと黙ったままだ。正直面白くないが当たり障りのない実習だった。
「貴様!そこで何をしている!」
城内の外に出ると辺りを警戒していた城兵に見つかってしまった。ここはひとまず退散。
肝心の先輩は気配を消していた為、城兵には気付かれていない。
背を向け逃げるが城兵は追ってくる。
忍者の足に追いつけるわけないだろうと余裕をかいていたのが問題だった。城兵が弓を取り出し矢を打って来た。しかも複数も。矢は風をきり一本、二本と避けるが三本目の矢が背中を狙っている。
しまった、避け切れない。
『尾浜!』
横から苗字先輩が俺に飛びかかり地面に二人して転がる。受け身をとっても背中に当たる砂利が小さな痛みを生じさせる。
受け身を取った苗字先輩がすぐさま立ち上がり、苦無を放つと男の笠に当たり音を立て地面に倒れる。
男はどうやら気絶しているみたいだった。気を失ってると分かると先輩がふぅと小さく息を吐き俺を見る。
『尾浜、無事?』
「先輩、腕が…」
『大丈夫、大したことない。』
俺を庇った際に腕を矢が掠め、傷から出血している。傷は深くないがジワジワと腕を伝う程の出血量だ。
動揺している俺とは違い、自身の手拭いを取り出し利き手とは逆で手際良く手当てをする先輩。
油断をし敵からの攻撃を避け切る事ができず、先輩を巻き込んでしまった自分が情けない。
くのたまといえど実習に対する行動は無駄がなく完璧だった。
その後先輩と二人で城内から無事逃げる事ができ、近くの森に行き着く。
先輩の後ろ姿を漂う雰囲気が揺らいでいる。俺の所為で傷をつけてしまった先輩に掛ける言葉が見つからない。
『尾浜。』
「は、はい!」
沈黙を破り先輩が俺を見る。その視線に咄嗟に身体が凍りつく。
『敵陣で油断するなんて貴方はそれほど立派なの?』
「いえ……」
『考えが甘い。気を引き締めなさい。』
苗字先輩の発する冷たい声、黒瞳が俺を真っ直ぐ捉え逸らさない。心を抉られたような気分だ。
先輩からはっきりと言われた事で自信の考えの甘さを痛感した。戦場では一瞬の油断が命に繋がる。
実習を甘くみて基本的な事を疎かにしていた。
先輩が俺に歩みを進める。殴られる。背中に嫌な汗が伝う。
『でも…怪我をしなくてよかった。』
俺の頭を撫でる苗字先輩。
本当なら怒りで殴られてもおかしくないのに優しい手付きに自信の不甲斐なさを感じる。
これなら責めてくれた方がまだマシだ。悔しさで下衣を握る手にグッと力が入る。
「…… 苗字先輩。申し訳ございませんでした。」
『次はないわ。気にしないで。』
「はい。でも傷が…」
『こんなのすぐ治る。』
「いいえ、すぐ学園で手当てを。」
『もう血は止まった。』
「それでもです!」
先輩の傷がある腕に手をかける。俺の大きい声に一歩後ろに引きながら先輩が目を丸くする。
『……分かった。』
渋々納得する先輩を連れて学園に帰り着き、気乗りしない先輩を無理矢理医務室に連れて行く。
医務室につくと保健委員は居ない為、先輩を座らし先程巻いた手拭いを取り、傷の消毒をする。
先程までの威厳はなく、俺に黙って手当てをされる先輩。その顔は絶えず笑みを浮かべている。
先輩ってこんなに可愛く笑うんだ。普段の無表情な顔よりこっちの方が似合っている。喉まで差し掛かった言葉を飲み込む。
普段勝気が強い六年生達を相手にしている先輩の可愛らしい笑みに破壊力が強すぎて、鼓動が速くなりなんだか頬に熱を帯びる。
「先輩。何笑ってるんですか。」
『いや、さっきとはまるっきり逆だなと思って。』
「俺は貴方に傷を残したくないのです。」
『……貴方意外と真面目ね。』
忍者になるのだから傷なんて幾らでもつくのにと先輩がぼやく。
『五年生の中でも掴み所がない後輩だとは思っていたけど面白いわ。』
先輩がクスクスと笑う。
コロコロと変わる先輩の表情に翻弄されてしまう。
「先輩はご自分の身体を大事にして下さい。」
『ふふっ、そうね。でも、』
「でも?」
『私がしたように今後は尾浜の手で後輩達を守ってね。』
ぱちっと先輩と目が合う。苗字先輩は本当は怖いわけではない。人は見かけによらない。
今回の実習で苗字先輩の違う面が知れた。だけど身を翻して守られてしまった。
この人を守れるような力を身に付けたい。
「苗字先輩……」
『手当てありがとう。ほら先生方に報告一緒に行くわよ。』
立ち上がり、医務室の戸口に手をかける先輩。
先輩の中では俺はずっと変わらない後輩のままだろう。
俺が守りたいのは苗字先輩だって今後どう理解させたらいいのだろうか。これは実習や勉学よりも難しい事だ。
とんでもない人を好きになってしまった。
_________________________
(あの一つ聞いてもいいですか?)
(何?)
(何で先輩は六年生の方達とは仲が悪いのですか?)
(あいつら子供なのよ)
(……あははっ)
(尾浜、貴方は影響されては駄目よ)
(はい)
(私、悪ガキ嫌いだから)
(肝に銘じときます)
(でも貴方は別な気がする)
(えっ!)
『尾浜、宜しく。』
「こちらこそ宜しくお願いします。」
感情が読めない表情で俺に挨拶をする苗字先輩。今日はくノ一教室の苗字先輩と合同実習だ。
苗字先輩はあの個性派揃いの六年生達と肩を並べる程の実力のある先輩だ。
だいぶ前に苗字先輩が六年生の先輩方を徹底的に潰している姿を見た事がある。さすがくのたまと思いつつその姿に恐怖を抱き、近寄り難い先輩だと思った。
だから今回の実習も正直気乗りしなかった。
心の中で盛大な溜め息をつき、実習に取り掛かる。
今日の実習はとある城に学園長先生から預かった密書を城に潜入し届ける内容だ。
城の警備を掻い潜り侵入する。
目的の城主の部屋まで辿り着き、先輩が隠し持っていた密書を取り出し箱に入れる。
矢羽根でやり取りし、これで後は城から脱出するだけだ。何事もなく終わる。正直今回の実習は簡単だった。
無事実習を終えた筈なのに苗字先輩はずっと黙ったままだ。正直面白くないが当たり障りのない実習だった。
「貴様!そこで何をしている!」
城内の外に出ると辺りを警戒していた城兵に見つかってしまった。ここはひとまず退散。
肝心の先輩は気配を消していた為、城兵には気付かれていない。
背を向け逃げるが城兵は追ってくる。
忍者の足に追いつけるわけないだろうと余裕をかいていたのが問題だった。城兵が弓を取り出し矢を打って来た。しかも複数も。矢は風をきり一本、二本と避けるが三本目の矢が背中を狙っている。
しまった、避け切れない。
『尾浜!』
横から苗字先輩が俺に飛びかかり地面に二人して転がる。受け身をとっても背中に当たる砂利が小さな痛みを生じさせる。
受け身を取った苗字先輩がすぐさま立ち上がり、苦無を放つと男の笠に当たり音を立て地面に倒れる。
男はどうやら気絶しているみたいだった。気を失ってると分かると先輩がふぅと小さく息を吐き俺を見る。
『尾浜、無事?』
「先輩、腕が…」
『大丈夫、大したことない。』
俺を庇った際に腕を矢が掠め、傷から出血している。傷は深くないがジワジワと腕を伝う程の出血量だ。
動揺している俺とは違い、自身の手拭いを取り出し利き手とは逆で手際良く手当てをする先輩。
油断をし敵からの攻撃を避け切る事ができず、先輩を巻き込んでしまった自分が情けない。
くのたまといえど実習に対する行動は無駄がなく完璧だった。
その後先輩と二人で城内から無事逃げる事ができ、近くの森に行き着く。
先輩の後ろ姿を漂う雰囲気が揺らいでいる。俺の所為で傷をつけてしまった先輩に掛ける言葉が見つからない。
『尾浜。』
「は、はい!」
沈黙を破り先輩が俺を見る。その視線に咄嗟に身体が凍りつく。
『敵陣で油断するなんて貴方はそれほど立派なの?』
「いえ……」
『考えが甘い。気を引き締めなさい。』
苗字先輩の発する冷たい声、黒瞳が俺を真っ直ぐ捉え逸らさない。心を抉られたような気分だ。
先輩からはっきりと言われた事で自信の考えの甘さを痛感した。戦場では一瞬の油断が命に繋がる。
実習を甘くみて基本的な事を疎かにしていた。
先輩が俺に歩みを進める。殴られる。背中に嫌な汗が伝う。
『でも…怪我をしなくてよかった。』
俺の頭を撫でる苗字先輩。
本当なら怒りで殴られてもおかしくないのに優しい手付きに自信の不甲斐なさを感じる。
これなら責めてくれた方がまだマシだ。悔しさで下衣を握る手にグッと力が入る。
「…… 苗字先輩。申し訳ございませんでした。」
『次はないわ。気にしないで。』
「はい。でも傷が…」
『こんなのすぐ治る。』
「いいえ、すぐ学園で手当てを。」
『もう血は止まった。』
「それでもです!」
先輩の傷がある腕に手をかける。俺の大きい声に一歩後ろに引きながら先輩が目を丸くする。
『……分かった。』
渋々納得する先輩を連れて学園に帰り着き、気乗りしない先輩を無理矢理医務室に連れて行く。
医務室につくと保健委員は居ない為、先輩を座らし先程巻いた手拭いを取り、傷の消毒をする。
先程までの威厳はなく、俺に黙って手当てをされる先輩。その顔は絶えず笑みを浮かべている。
先輩ってこんなに可愛く笑うんだ。普段の無表情な顔よりこっちの方が似合っている。喉まで差し掛かった言葉を飲み込む。
普段勝気が強い六年生達を相手にしている先輩の可愛らしい笑みに破壊力が強すぎて、鼓動が速くなりなんだか頬に熱を帯びる。
「先輩。何笑ってるんですか。」
『いや、さっきとはまるっきり逆だなと思って。』
「俺は貴方に傷を残したくないのです。」
『……貴方意外と真面目ね。』
忍者になるのだから傷なんて幾らでもつくのにと先輩がぼやく。
『五年生の中でも掴み所がない後輩だとは思っていたけど面白いわ。』
先輩がクスクスと笑う。
コロコロと変わる先輩の表情に翻弄されてしまう。
「先輩はご自分の身体を大事にして下さい。」
『ふふっ、そうね。でも、』
「でも?」
『私がしたように今後は尾浜の手で後輩達を守ってね。』
ぱちっと先輩と目が合う。苗字先輩は本当は怖いわけではない。人は見かけによらない。
今回の実習で苗字先輩の違う面が知れた。だけど身を翻して守られてしまった。
この人を守れるような力を身に付けたい。
「苗字先輩……」
『手当てありがとう。ほら先生方に報告一緒に行くわよ。』
立ち上がり、医務室の戸口に手をかける先輩。
先輩の中では俺はずっと変わらない後輩のままだろう。
俺が守りたいのは苗字先輩だって今後どう理解させたらいいのだろうか。これは実習や勉学よりも難しい事だ。
とんでもない人を好きになってしまった。
_________________________
(あの一つ聞いてもいいですか?)
(何?)
(何で先輩は六年生の方達とは仲が悪いのですか?)
(あいつら子供なのよ)
(……あははっ)
(尾浜、貴方は影響されては駄目よ)
(はい)
(私、悪ガキ嫌いだから)
(肝に銘じときます)
(でも貴方は別な気がする)
(えっ!)