短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「組頭、その団子は?」
「保健委員会の子達からの差し入れだ。」
ここはタソガレドキ城内にある忍者隊。
今日は非番だから隊全体がゆっくりしている中、
組頭は足を揃え三色団子を食べている。
「組頭、そのような食べ方は止めて下さい。」
「頭が固いね尊奈門は。しかしここの団子は美味いな。」
組頭また忍術学園に行ったな。
黙々と食べ続ける組頭に、はぁと溜め息が出る。
「お前は仕事ばかりではなく、あの子と逢引きしたらいいのに。」
「な、何故そうなるんですか!」
いきなりの組頭の発言に顔を真っ赤にする。
私以外、組頭でさえあいつの事は誰にも話していないのに。
「忍者の情報網を甘くみちゃいけない。」
「そんなの職権濫用です!」
顔から火が出る程の恥ずかしさだ。しかし名前とはあれから定期的に顔を合わせには行ってるがそもそも逢引き等思いつきもしなかった。
「そんなんじゃ愛想尽かされるぞ。」
「うっ……」
数日後、忍術学園に向かう。
学園の塀から覗き見ると今日も名前は事務作業をしている。
「あーっ!尊奈門君!入門票にサインして下さい!」
「だーっ!大きな声で言うな!小松田秀作!」
気配を悟られないように見るが事務員の小松田に見つかってしまった。
「はーい!サイン頂きました!今日は名前ちゃんに用事?名前ちゃんなら事務室で作業しているよ。」
「お前には関係ない!」
『小松田さんどなたですか?あ、尊奈門。』
人がせっかく忍んでやってきたのに努力の甲斐も虚しくこのやり取りで名前に見つかってしまった。
だが私を見て微笑みながら軽やかに駆け寄ってくる名前の姿を見て頬が火照ってしまう。
「ならごゆっくり〜」
「五月蝿い!」
『今日は土井先生に用事?』
「あぁっ…」
『程々にしたらいいのに。』
そう踵を返し来た道を戻ろうとしている。
違う!そうじゃない!
こういう時素直に気持ちを言えない自分が憎い。
今回は土井じゃなくお前に用があると素直に言えたらどれだけ楽か。
「ま、待て!」
必死に声を掛けると振り返る名前。
『えっ?、……どうしたの?』
「き、今日は……」
『ん?』
「こ、今度……………逢引きしないか……」
『へっ、……………んっ!?』
……あいびき…………合挽き………逢引き!?
突然の誘いに目が大きく見開く。
あの土井先生に挑むのに夢中な尊奈門が逢引きですって?嬉しくて思わず飛び上がってしまう。
だ、だって初めてのお誘いで恋仲らしい事ができると思っていなかったもん。
「い、嫌なら無理に言わん!」
嬉しさで返事に戸惑っているとそんな事を言い出す尊奈門。
『嫌な訳ない!』
身体を乗り出し近づくと、尊奈門が頬を赤くする。
「そ、そうか……」
お互いの息がかかるかからないかの近い距離に我に返り、思わず離れる。
だけどわざわざ忍者学園に来てまで逢引きの誘いをしてくれた尊奈門に嬉しさが隠せない。
「……逢引きはこの日でいいか?」
『その日は私も休みだから大丈夫。』
「……ならこの日の四ツ半で町外れの所で。……そしたら私は帰る!」
『え、ちょっ、待って!………あぁー行っちゃった…』
用件が済んだらササっと駆け足に行ってしまった尊奈門。あの尊奈門が逢引きをするなんてどういう風の吹きまわし?でも今度尊奈門とゆっくり過ごせると思うと頑張れる。
『ふふっ』
「もー、尊奈門君行っちゃったよ。名前ちゃんなんか嬉しそうだね。」
『えぇ。嬉しい事があったので。』
逢引き当日。この日の為に下ろした着物を着て待ち合わせ場所で彼を待つ。初めての逢引きに胸の鼓動が止まらない。
峠を越した辺りから笠を被った男の人が通りかかる。
顔は笠でよく見えないが年若い男性だ。忍者だったりして。すると男の人が近寄り笠をとる。
「……待ったか?」
『尊奈門……』
初めての彼の私服に驚きを隠せない。
普段忍装束しか見た事がないならとても新鮮でどこからどう見ても若者にしか見えない。
私服だと歳相応の顔付きで、彼の違う面が見れて嬉しい。
『何処に行く?』
「今日は連れて行きたい場所がある。行くぞ。」
『あっ、待って』
尊奈門が足を進める為、後ろから着いていく。
「ここだ。」
ある程度歩くと目的の場所に到着した。
そこは最近流行りのとても評判の良い茶屋でもあった。二人で暖簾をくぐると店の主人にテキパキと注文をし品物が出てくる。
「ここの茶屋で人気な食べ物らしい。」
『うわぁ、美味しそう!』
そこにはみたらしや餡子がのった鮮やかな団子の盛り合わせがあった。
ここは最近くの一教室の子達が騒いでいた茶屋だと気付いた。
こんな人気な所にわざわざ連れて来てくれたの。
「食べろ。」
『尊奈門も一緒に食べよ。』
団子を二人で分け食べ始める。
働き始めてからこんな風に過ごす時間は久々かもしれない。しかも尊奈門と一緒に過ごせていると思うと笑みが自然に溢れてくる。
『さっきの茶屋良かったね。』
「あぁ、美味しかったな。」
団子を食べ終え茶屋を出て先程より尊奈門との距離も近付き、並んで歩く。こうすると何処からどう見ても恋仲よね。ふふっと笑みが溢れる。
暫く歩くと栄えている町がある。
町に寄ると何処も出店があり買い物客や商人などで賑わっている。
『あ、』
「どうした?」
『ううん、大丈夫。』
私の視線の先には櫛屋があった。普段の仕事で使う事はないが私だって年頃の女性だからお洒落は気になる。
でも今は尊奈門との逢引き中だ。また今度一人で来よう。そんな私の様子に隣から視線を感じる。
「気になるんだろう。」
『えっ、いいよ。また今度行くから。』
「気になるなら行くべきだろ。」
『えっ、でも……』
すると尊奈門が私の腕を引っ張り櫛屋に歩いて行く。
静止する私をよそにあっという間に店の中に入って行く。尊奈門の意外な行動に驚きを隠せない。
店に入ると机には色とりどりな櫛が沢山置かれている。
『わぁ……』
様々な種類の櫛にかんざしなど女心をくすぐられ、余りの光景に声が漏れ出る。
鮮やかな色合いもあれば華やかさもあり種類の多さに迷う。
尊奈門をよそに暫く魅入ってしまう。
ある程度確認すると一つ気になるものがあった。派手ではないが色味が落ち着いており、今の着物にも合う淡い橙色。
「……それが気に入ったのか?」
『ううん、ちょっと珍しいから見てただけ。行こう!』
満足した為、尊奈門を連れて店を出る。
あれから出店を見たり町を散策するとあっという間に日暮れになった。
こんな充実していた時間は初めてだった。それも隣には恋仲である尊奈門が居てくれていたおかげだ。
『今日はありがとう。』
「別に大丈夫だ……」
尊奈門にお礼を伝える。別れは名残惜しいがそろそろお互い帰らないといけない。
『じゃあね、また。』
「……待てっ!……………これを。」
去り際に尊奈門が懐から紙に包まれたものを差し出す。受け取り中身を確認するとそこにはあの淡い橙色の櫛が入っている。
『えっ!?、これって……』
私の為に?わざわざ覚えてくれていたんだ。
袋から取り出し手に取ると夕日の色と重なって、舞い上がるような気持ちだ。
「なんていうか、………そのっ……………今日の…礼だ。」
『綺麗……』
「それ………気になってただろ。」
『ありがとう尊奈門!大事にする!』
櫛を大事そうに抱える名前。
そんな反応を見られると思わなかったから自然と顔がほころんでしまう。
名前が駆け寄り胸元に顔をうずめてくる。
『………本当にありがとう…』
「名前……」
堪らなくなり優しく名前を包み込む。お互いの鼓動が聞こえこの高鳴りは抑えられない。
名前が顔を上げ自然に目が合い唇を重ねる。
この時間が永遠に続けばいいのに。柄にもない事を考える。
そっと唇を離すとお互いにくすっと笑みが溢れる。
私は他の奴と違って甘い言葉も気の利いた事もできない。だが名前を愛する気持ちは決して揺るがない。
こんなに名前を想っている事なんて誰にも気づかれなくていい。この想いだけは私だけのものだ。
_______________________
(尊奈門の奴、最近調子がいいね。陣左)
(何かいい事があったのでしょう)
(まっ、愛の力は凄いね)
(組頭、尊奈門を詮索するのは程々にして下さいね)
(なんで、面白いじゃん)
(はぁ、貴方って人は)
(組頭ー!)
1/34ページ