短編
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「覚悟!!!土井半助ーー!」
学園の事務室まで届いてくる声にまた性懲りも無く土井先生に挑んでいるあの人。
今日はどんな顔でやって来るのかしら。
私は彼が土井先生に挑んでから顔を合わせるような関係になった。
「くそくそっ!土井半助!」
チョークまみれでゴホゴホと咳き込みながら土井先生の名前を言っており、彼のチョークまみれの姿が印象的だった。しかも頭にこぶも作っており曲者としか思えない。
『あのー……大丈夫ですか?』
そのままにしとく事ができず声を掛けた。
それがきっかけだ。
もうそろそろやって来るだろう。
今日もチョークまみれで悪態をつくんだろうな。
そう思いながら事務室でいそいそと彼の訪問を待つ。
すると物見の陰から白い姿の忍者が出てきた。
諸泉尊奈門の姿だった。
『尊奈門さんいらっしゃい。』
「いらっしゃいとはなんだ!いらっしゃいとは!」
会って早々に彼から大声が出される。余りの大声に耳を塞いで文句を言う。
『尊奈門さんが土井先生に勝てる訳ないじゃないですか。』
「なんだと!」
『だってここは忍者の学舎。しかもその先生です。幾ら貴方が現役でもまだ若い。私と同い年で先生とは歴が違う。』
私の言葉で口をつぐむ尊奈門さん。
「事務員に何が分かる!」
『分かります。貴方より日頃から土井先生を近くで見てますので。』
持っていた湯呑をすする。すると彼は目を見開く。
「なっ!……お、お前はそんなに土井半助の事を見ているのか!」
『貴方よりは見てます。』
「はぁ……」
『よく土井先生を観察して下さい。』
それ以降も何だかんだ会いに来る尊奈門さん。
最初は学園内で会うや否や睨まれる始末だったのに今は慣れた様子で事務室にやって来る尊奈門さん。そんな日々を過ごしていると次に彼がいつ学園に来るか気にしている自分がいる。
いつか返り討ちに遭って何処か痛めなければいいけど。
土井先生に挑んでからあの事務員とも顔を合わせるのが日課になっている。何故だろう。最初は余計な世話好きにしか思えていなかったのに今では彼女に会えなかったら気が沈む私がいた。
只の忍者学園の事務員なのに話をしている時の表情、声、雰囲気が心地良い。まるでこれでは土井半助に敗れた後癒しにいってるようなものだ。しかし笑顔を見る度に心の臓が掴まれるような気がする。あれは何なのだ。
だが今の私には土井半助には勝たないといけない目標がある為、女ごとに振り回されている時ではない。
そう邪念を払う。
「……見つけた。」
後日忍者学園に忍び込むと今日はあの小松田秀作は来ない。そのタイミングを見計らい土井半助を探す。
「土井半助……どこだ……」
いつものように学園内を探すと見たくない物が飛び込んできた。
なんで土井半助と名前が一緒にいるんだ。
余りの距離の近さが気に食わない。
笑顔で話をしている姿にまたしても胸が脈打つ。
「なっ!」
やめろ!私以外にそんな笑顔を見せるな!
怒りや嫉妬が自身の中で湧き上がる。
「おや、尊奈門君。怖いね。」
「土井半助……」
『尊奈門さん……』
気付くと尊奈門さんが私を腕の中に包み込み、土井先生に苦無を当てている尊奈門さんがいた。しかし普段の雰囲気とは違い、いつもより凄みがある。
初めて見る尊奈門さんの姿に思わず生唾を飲み込む。
しかしそんな尊奈門さんを相手にしている土井先生は至って冷静だ。二人の一歩も譲らないやり取りが不安を掻き立てる。
「その子を離してやりなさい。」
土井先生の優しい声が聞こえる。
それでも離さない尊奈門さん。更に腕に力が入り抱き寄せられる。そんな彼の男らしい様子に胸が高鳴る。
「お前は此奴の事が好きなのか?」
尊奈門さんがとんでもない事を言い、思わず背筋が凍る。ただ一緒に仕事の話をしていただけなのに何でそうなるの。
口を挟もうとすると土井先生に目配せされた為、口を閉じる。
土井先生が鼻で笑うと尊奈門さんが激昂する。
「何故笑う!私は真剣だ!」
「お前達は二人でよく話しなさい。またな苗字さん。」
『あ、はい。土井先生………』
そう言うと土井先生は鼻歌を歌いながら去っていく。
どうしようこの状況。尊奈門さんは絶対怒ったままだし。気まずい雰囲気の中、尊奈門さんが腕を解く。
しかし彼は私と目を合わそうとしない。
彼の様子に疑問を抱く。
『尊奈門さ「今日の事は忘れろ。」
彼が口を開く。はっきりと言われ気持ちが追いつかない。なんでそんな事を言われるかが分からない。
何より今後彼が忍術学園に来ないような気がする。
「………済まなかった。」
『尊奈門さん、私を見て。』
すると彼は目を逸らしながら私を見る。無理矢理でも向かせてやる。そう彼の頬を掴み私に向けさせる。すると彼の頬が赤く染まる。この様子だと期待して良いのかな。
「なっ、名前『私は尊奈門さんが好き』」
言ってしまった。でもそれでも自身の気持ちを抑える事が出来ない。だって貴方の挑む姿、負ける姿、何より諦めない姿に惚れ込んでいるんだもの。
『貴方が私に会うのは今までついでだと思ってた。でもさっきの出来事で確信した。』
「やめろ!」
『尊奈門!貴方の気持ちを教えて。』
自身の頬も赤くなっているだろう。耳まで熱が帯びる。だかこんな機会滅多にない為、彼に詰め寄る。
「私はっ!………」
お願い。言って。
泣きそうになるのを堪えて彼の言葉を待つ。
「………お前が好きだ」
顔を赤くしながらも私の目を見て力強い目で言う。
ようやく言ってくれた。安堵したのか目から涙が流れ落ちる。その様子に慌て始める尊奈門さん。
「な、何故泣く!い、痛かったか!?」
先程とは違いあたふたする尊奈門に泣きながら笑ってしまう。
『大丈夫……嬉しくて。』
最後まで言うとガバッと引き寄せられ抱き締められる。彼の温かい腕の中。嬉しくて余計泣いてしまう。
「余計なのを見せてしまった……」
彼の背中に腕を回すと彼の腕に力が入る。私と歳が変わらない筈なのに逞しく彼に包まれる事に安心する。この時間が愛おしい。
「今度からは偶に………その……名前にだけ会いにくる………」
そう背を向けて立ち去ろうとする尊奈門。
そんな彼の背中に抱きつくと頭から足先まで赤く染め上げる尊奈門。私の恋仲になった人は可愛い人だ。それでも危険な世界に飛び込んでいく彼と最期にならないように、向き合い口付けを交わす。
『…………待ってます……いつでも来て。』
口付けた後に優しい表情で私を見つめ名残り惜しそうに去って行く尊奈門。
彼は忍者であり私とは違って多くの危険が伴うものだろう。そんな貴方の進む道の唯一の安らぎになりたい。